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結婚までのエトセトラ

8.私と契約結婚しませんか?

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「聞いてくださいよ、さっきの会議、ひどいんですよ。婚姻制度を立ち上げるから未婚の職員は鉱物人形と結婚しろって」

 私が開口一番に言えば、オパールは目を瞬かせた。

「そういえば君は未婚だったか」
「恋人がいないなら適当にあてがってやるだなんて失礼しちゃう」

 膨れる私に対し、オパールは大口を開けて笑った。

「あははは。政府も思い切ったことを決めたなあ。協会を実験場にするつもりか」
「私、絶対に結婚は向いてないし、家事をやる時間を取るくらいなら仕事をしていたいんですけど。自分のことだけやって過ごしたい」
「なんで君が世話をすることが前提なんだ? 君は稼ぎがあるんだし、相手にやらせときゃいいじゃないか」

 それはそうだが、そうはいかないのが世の中である。

「じゃあ、オパールさんはいかがですか。オパールさんは恋人、いらっしゃいましたっけ? 私と契約結婚しませんか?」
「この流れからオレを口説くなんて、君はなかなか肝が据わってるな」

 オパールはそう答えて笑うと、私の頭をくしゃっと撫でた。

「オレと君とは仕事の相性はいいと思うが、結婚をするなら夜はしっかり付き合ってもらわないとな。君がオレをどう見ているのか知らんが、童顔で愛らしい顔をしていても夜は獣なんだぜ?」

 ぱちっとウインクをして、オパールはひらひらと手を振りながら立ち去った。

「……むむ。あっさりフラれた」
「あれはあれでロマンチストなところがあるからな。あんな告白じゃなびかないだろう」

 ロマンチスト。わかる気はする。
 私は気を取り直して言葉を続ける。

「いや、まあ、オパールさんは友だちなので、いいんですよ。……あれ、でも、夜も付き合うって言ったら、結婚してくれたのかな……」

 不本意な相手と勝手にくっつけられるくらいなら、知っている相手とどうにか恋人ということにしたい。

 ――オパールさん的に都合が悪いことがないなら、いっそ。

 契約結婚ができずとも、相手がオパールなら私はいいと思えた。私が恋人を作らない事情を知っている数少ない相手でもある。きっと悪いようにはしない、はず。

 ――それに、任務の都合でキスしたことはあるし。

 二人きりの任務のときの話だ。想定外のところで強力な魔物に遭遇して魔力が枯渇。オパールから魔力の供給を受けた。それは嫌ではなかった。

「できるのか?」

 不機嫌そうにルビの眉が寄る。

「たぶん。信用してる相手ですし」
「おいおい。自分の身体は大事にしたほうがいいぞ」

 ――ルビさんは身体は大事にしろっていうのか。

 同位体のルビの話を聞くと、何人も女を抱いているような印象が強いので似合わない気がした。

「そうですけど。でも、任務中に魔力が枯渇したら、緊急でそういうことをするのは、おそらく抵抗がないので」
「……そうなのか」
「誰でもいいってわけじゃないですよ」

 任務で組む相手とは魔力の相性もいいのだ。緊急時に供給をし合うことが想定されており、その簡易的な方法が接吻で、より強く力の授受を行うのが交わりである。基本的に粘膜を通じて魔力をやりとりするのでそういう方法を取るのだ。
 ルビが私の返答に小さく唸った。

「ふむ。概ね了解した。妙なことを聞いて悪かったな」
「いえ、私と仕事を組むなら魔力補給って事態もあり得ますからね。最近の任務は精霊使いの元を回るだけですから魔力が尽きる事態は起こらないでしょうけど、緊急時は躊躇ってはいられないんでお願いしますね」
「ああ、承知した」




 やがて、特定の恋人がいない者たちにはくじ引きによって伴侶があてがわれることになった。こうして選ばれたのが、現在の伴侶――ルビだったというわけである。
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