上 下
121 / 123
6:新たな門出に

石の中に眠りし精霊よ、我が声に応えよ

しおりを挟む
「――石の中に眠りし精霊よ、我が声に応えよ」

 私の中に留まっていた魔力が外に広がっていく。瘴気が打ち消されていくのが肌で感じられた。空間が浄化されていくと、契約のための結界が展開される。

「我が名はジュエル。汝らを統べる契約者となりて使役する者なり。我が魔力を喰らいて、顕現せよ!」

 契約の呪文を口にして、私はふと思った。この水晶、どう考えても私よりも大きいのだが、契約した結果どのくらいのサイズになるのだろう。
 まあ、いいか。
 地震が起こり、建物が軋む。安全のためにセレナが結界を張ってラリサたちを守った。
 光が周囲をくらます。

「……面白いことをするなあ、人間よ」

 ここにいる誰とも違う声が響く。
 光が止むと、そこには私と同じ程度の背丈のドラゴンがいた。
 水晶の鱗に覆われているらしく、全体は白っぽくてキラキラしている。長い首の先には小さめの頭部、こんもりとした腹部、背中に生えた大きな翼は折り畳まれているため部屋の中にかろうじて入り切ったようだ。全体としては小型のバスくらいのサイズだろうか。
 私は目を瞬かせた。

「人型……ではないのです?」
「我はお主たちが定義する魔物に近い存在だからな。とはいえ、禍々しいものでもなかろう? お主が美しいと思う姿を選んだつもりなんだが」
「私のイメージでその姿に?」
「人型よりは良いかと思ったのだが……気に入らないか?」
「あー、いえ。私はすごく格好いいと思います!」

 私がはっきりと言えば、水晶のドラゴンは首をこくこくと動かした。

「ならば、問題ない」

 満足げに応えて、ドラゴンはラリサを見る。

「聖女としての働き、ご苦労だった」
「いや、押し付けられた仕事をしていただけだ」
「感謝はしている」
「感謝されるようなことはしていない。国民の義務を果たしただけのこと」
「そうか」

 淡々とした言葉を交わして、ドラゴンは私と向き合った。

「いつか、我を動けるようにする者が現れると信じて待っていた。スタールビーは身体を持ち得たのに、我は元の石も大きく容易に動かせなくてな。この姿なら、自由がきく。感謝する」
「でもですね、その姿、私的にはすごくすごく素敵に映るんですが、一般的には魔物なんですよね。外を出歩いたら真っ先に討伐対象にされてしまうと思うんですよ。ねえ?」

 私がセレナに同意を求めると、彼女はうーんと唸った。

「そうねえ。格の違いは接すればすぐにわかるから、いきなり攻撃したりすることはないでしょうけど、不便よねえ」
「そうなのか……」

 落胆する声。ドラゴンは見た目を気にするお茶目さんのようだ。

「姿を人に寄せることってできないんですかね? 私、まだいけますよ?」

 契約に際しての魔力の消耗による疲れは出ているが、動けないわけではない。意識さえ保てれば、移動はアメシストとシトリンを頼ればいいので問題ないはずだ。

「ならば、頼もうか」

 そう告げて、ドラゴンの顔が私の顔に寄せられる。こうして近づけられると、人間の頭よりは大きい。口元も当然ながら大きいので、私くらいならパクッと食べることができそうな気がした。
 さて、どうするのだろう。
 じっと顔を見つめていたら、チュッと口づけをされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

ガタリアの図書館で

空川億里
ファンタジー
(物語)  ミルルーシュ大陸の西方にあるガタリア国内の東の方にあるソランド村の少女パムは両親を亡くし伯母の元へ引き取られるのだが、そこでのいじめに耐えかねて家を出る。  そんな彼女の人生には、思わぬ事件が待ち受けていた。    最初1話完結で発表した本作ですが、最初の話をプロローグとして、今後続けて執筆・発表いたしますので、よろしくお願いします。 登場人物 パム    ソランド村で生まれ育った少女。17歳。 チャーダラ・トワメク    チャーダラ伯爵家の長男で、準伯爵。 シェンカ・キュルン 女性の魔導士。 ダランサ 矛の使い手。ミルルーシュ大陸の海を隔てて南方にあるザイカン大陸北部に住む「砂漠の民」の出身。髪は弁髪に結っている。 人間以外の種族 フィア・ルー 大人の平均身長が1グラウト(約20センチ)。トンボのような羽で、空を飛べる。男女問わず緑色の髪は、短く刈り込んでいる。 地名など パロップ城 ガタリア王国南部にある温暖な都市。有名なパロップ図書館がある。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」  これが婚約者にもらった最後の言葉でした。  ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。  国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。  やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。  この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。  ※ハッピーエンド確定  ※多少、残酷なシーンがあります 2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2021/07/07 アルファポリス、HOT3位 2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位 2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位 【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676) 【完結】2021/10/10 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ

エルネスティーネ ~時空を超える乙女

Hinaki
ファンタジー
16歳のエルネスティーネは婚約者の屋敷の前にいた。 いや、それ以前の記憶が酷く曖昧で、覚えているのは扉の前。 その日彼女は婚約者からの初めての呼び出しにより訪ねれば、婚約者の私室の奥の部屋より漏れ聞こえる不審な音と声。 無垢なエルネスティーネは婚約者の浮気を初めて知ってしまう。 浮気相手との行為を見てショックを受けるエルネスティーネ。 一晩考え抜いた出した彼女の答えは愛する者の前で死を選ぶ事。 花嫁衣装に身を包み、最高の笑顔を彼に贈ったと同時にバルコニーより身を投げた。 死んだ――――と思ったのだが目覚めて見れば身体は7歳のエルネスティーネのものだった。 アレは夢、それとも現実? 夢にしては余りにも生々しく、現実にしては何処かふわふわとした感じのする体験。 混乱したままのエルネスティーネに考える時間は与えて貰えないままに7歳の時間は動き出した。 これは時間の巻き戻り、それとも別の何かなのだろうか。 エルネスティーネは動く。 とりあえずは悲しい恋を回避する為に。 また新しい自分を見つける為に……。 『さようなら、どうぞお幸せに……』の改稿版です。 出来る限り分かり易くエルの世界を知って頂きたい為に執筆しました。 最終話は『さようなら……』と同じ時期に更新したいと思います。 そして設定はやはりゆるふわです。 どうぞ宜しくお願いします。

薄明宮の奪還

ria
ファンタジー
孤独な日々を過ごしていたアドニア国の末の姫アイリーンは、亡き母の形見の宝石をめぐる思わぬ運命に巻き込まれ……。 中世ヨーロッパ風異世界が舞台の長編ファンタジー。 剣と魔法もありですがメインは恋愛?……のはず。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...