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6:新たな門出に
石の中に眠りし精霊よ、我が声に応えよ
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「――石の中に眠りし精霊よ、我が声に応えよ」
私の中に留まっていた魔力が外に広がっていく。瘴気が打ち消されていくのが肌で感じられた。空間が浄化されていくと、契約のための結界が展開される。
「我が名はジュエル。汝らを統べる契約者となりて使役する者なり。我が魔力を喰らいて、顕現せよ!」
契約の呪文を口にして、私はふと思った。この水晶、どう考えても私よりも大きいのだが、契約した結果どのくらいのサイズになるのだろう。
まあ、いいか。
地震が起こり、建物が軋む。安全のためにセレナが結界を張ってラリサたちを守った。
光が周囲をくらます。
「……面白いことをするなあ、人間よ」
ここにいる誰とも違う声が響く。
光が止むと、そこには私と同じ程度の背丈のドラゴンがいた。
水晶の鱗に覆われているらしく、全体は白っぽくてキラキラしている。長い首の先には小さめの頭部、こんもりとした腹部、背中に生えた大きな翼は折り畳まれているため部屋の中にかろうじて入り切ったようだ。全体としては小型のバスくらいのサイズだろうか。
私は目を瞬かせた。
「人型……ではないのです?」
「我はお主たちが定義する魔物に近い存在だからな。とはいえ、禍々しいものでもなかろう? お主が美しいと思う姿を選んだつもりなんだが」
「私のイメージでその姿に?」
「人型よりは良いかと思ったのだが……気に入らないか?」
「あー、いえ。私はすごく格好いいと思います!」
私がはっきりと言えば、水晶のドラゴンは首をこくこくと動かした。
「ならば、問題ない」
満足げに応えて、ドラゴンはラリサを見る。
「聖女としての働き、ご苦労だった」
「いや、押し付けられた仕事をしていただけだ」
「感謝はしている」
「感謝されるようなことはしていない。国民の義務を果たしただけのこと」
「そうか」
淡々とした言葉を交わして、ドラゴンは私と向き合った。
「いつか、我を動けるようにする者が現れると信じて待っていた。スタールビーは身体を持ち得たのに、我は元の石も大きく容易に動かせなくてな。この姿なら、自由がきく。感謝する」
「でもですね、その姿、私的にはすごくすごく素敵に映るんですが、一般的には魔物なんですよね。外を出歩いたら真っ先に討伐対象にされてしまうと思うんですよ。ねえ?」
私がセレナに同意を求めると、彼女はうーんと唸った。
「そうねえ。格の違いは接すればすぐにわかるから、いきなり攻撃したりすることはないでしょうけど、不便よねえ」
「そうなのか……」
落胆する声。ドラゴンは見た目を気にするお茶目さんのようだ。
「姿を人に寄せることってできないんですかね? 私、まだいけますよ?」
契約に際しての魔力の消耗による疲れは出ているが、動けないわけではない。意識さえ保てれば、移動はアメシストとシトリンを頼ればいいので問題ないはずだ。
「ならば、頼もうか」
そう告げて、ドラゴンの顔が私の顔に寄せられる。こうして近づけられると、人間の頭よりは大きい。口元も当然ながら大きいので、私くらいならパクッと食べることができそうな気がした。
さて、どうするのだろう。
じっと顔を見つめていたら、チュッと口づけをされた。
私の中に留まっていた魔力が外に広がっていく。瘴気が打ち消されていくのが肌で感じられた。空間が浄化されていくと、契約のための結界が展開される。
「我が名はジュエル。汝らを統べる契約者となりて使役する者なり。我が魔力を喰らいて、顕現せよ!」
契約の呪文を口にして、私はふと思った。この水晶、どう考えても私よりも大きいのだが、契約した結果どのくらいのサイズになるのだろう。
まあ、いいか。
地震が起こり、建物が軋む。安全のためにセレナが結界を張ってラリサたちを守った。
光が周囲をくらます。
「……面白いことをするなあ、人間よ」
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私は目を瞬かせた。
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「私のイメージでその姿に?」
「人型よりは良いかと思ったのだが……気に入らないか?」
「あー、いえ。私はすごく格好いいと思います!」
私がはっきりと言えば、水晶のドラゴンは首をこくこくと動かした。
「ならば、問題ない」
満足げに応えて、ドラゴンはラリサを見る。
「聖女としての働き、ご苦労だった」
「いや、押し付けられた仕事をしていただけだ」
「感謝はしている」
「感謝されるようなことはしていない。国民の義務を果たしただけのこと」
「そうか」
淡々とした言葉を交わして、ドラゴンは私と向き合った。
「いつか、我を動けるようにする者が現れると信じて待っていた。スタールビーは身体を持ち得たのに、我は元の石も大きく容易に動かせなくてな。この姿なら、自由がきく。感謝する」
「でもですね、その姿、私的にはすごくすごく素敵に映るんですが、一般的には魔物なんですよね。外を出歩いたら真っ先に討伐対象にされてしまうと思うんですよ。ねえ?」
私がセレナに同意を求めると、彼女はうーんと唸った。
「そうねえ。格の違いは接すればすぐにわかるから、いきなり攻撃したりすることはないでしょうけど、不便よねえ」
「そうなのか……」
落胆する声。ドラゴンは見た目を気にするお茶目さんのようだ。
「姿を人に寄せることってできないんですかね? 私、まだいけますよ?」
契約に際しての魔力の消耗による疲れは出ているが、動けないわけではない。意識さえ保てれば、移動はアメシストとシトリンを頼ればいいので問題ないはずだ。
「ならば、頼もうか」
そう告げて、ドラゴンの顔が私の顔に寄せられる。こうして近づけられると、人間の頭よりは大きい。口元も当然ながら大きいので、私くらいならパクッと食べることができそうな気がした。
さて、どうするのだろう。
じっと顔を見つめていたら、チュッと口づけをされた。
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