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5:清算のためにすべきこと

得策ではありません

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「ステラ」
「我が愛し子。今からでもいい。ワタシと逃げましょう」
「それは断ります」
「なぜ」
「兄さまが反省してくれないと意味がないからです」
「ですが、この戦力差では、魔物三体を倒すのは不可能。得策ではありません」

 おそらく、ステラの意見は正しいのだろう。
 負傷しているステラ、オズリックを守っているルビのふたりだけで魔物三体を扱うのは厳しいだろう。せめて、非戦闘員である私とオズリックがいなければ、やりようがあったかもしれないが。
 私は首を横に振る。

「大丈夫。ここにいるのは私たちだけじゃありませんから」

 気配を探る。やっぱり近くにいるようだ。

「スタールビー! 隠れてないで戦闘に参加しなさい!」

 私が命じれば、仮契約とはいえ出てこないわけにはいかない。スタールビーが私の声が届く程度に離れた位置から顔を出した。

「お嬢さんは鉱物人形づかいが荒いな……」
「セレナさんに連絡していたんでしょ? それとも、また別の誰かさんに情報を流していたんです?」
「……ちっ。わかったわかった。手を貸す。それでいいんだろう?」

 魔物の咆哮。
 ステラの結界によって衝撃波は無効化された。スタールビーも自分で結界を張って身を守ったらしい。ゆっくりとこちらに近づいてきた。

「ちゃんと、ラリサさんも迎えに行きますよ。ですから、ね?」

 私の出した名前に、オズリックがわずかに反応した。彼はスタールビーを見やる。
 スタールビーは自分の持っていた鞄をオズリックに託す。

「すまないな。少しの間、預かっていてくれ」
「……承知した」

 視線が交錯し、互いになにかを悟ったような顔をした。

「それでも、まだ」
「ステラ。私ね、別にあなたのこと、嫌ってはいないのよ? いろいろ厳しかったから、膨れることはたくさんあったでしょう。けれど、そういうものだと思っていたから特別恨んだりしていないの」

 私は服に潜ませていた魔鉱石を取り出して、ステラにあてがった。
 治療をイメージすると、ステラの右腕が再生される。指先を動かして感触を確かめるなり、ステラは私を困惑気味に見つめた。

「ジュエル……」
「材料の都合で今は片腕しか戻してあげられないけど、私のために働いてくださらない?」

 私が頼むと、ステラは一度目を伏せて、大きく息を吐き出した。

「はぁ……では、右腕の分だけ、働きましょう」

 ステラはそう囁くように告げて、ルシウスと対峙した。
 ルシウスは怪訝そうな顔をしている。

「なぜこちらを睨むんだ?」
「ワタシは貴方になら勝てると思っていましたからね。手を組んだふりをして、さらう予定だったということです」

 ルシウスの顔が真っ赤に染まった。

「だから僕は鉱物人形が嫌いなんだ。誰も僕の味方をしてくれない。魔物のほうがずっと便利で扱いやすいからな!」

 三体の魔物がバラバラに動き出す。

「ステラはオズリックさまの護衛を。ルビとスタールビーは魔物を引きつけて!」
「了解」
「マスターはどうするんだ?」
「一発、勝負してくるわ」

 ルビの問いにはっきり答えて、私は首から下げていたペンダントトップを握りしめた。
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