99 / 123
5:清算のためにすべきこと
お酒は飲むかい?
しおりを挟む
「お酒は飲むかい?」
「今日はやめておきます」
「泊まっていくなら、多少は飲んでも許されるだろう? お前さんは飲める体質だったはずだが」
把握されているとは思わなかった。会食で私がお酒を口にしたことはなかったはずだ。
返答に困っている間にグラスが用意される。
「あ、でも、私」
慌ててスタールビーを見れば、退屈そうな顔をしている。
助けてよ!
「飲んでもいいんじゃないか、今日くらいは」
そう答えて、スタールビーは自身の胸元をツンツンと指した。
彼の仕草で私は思い出す。今日は紫黄水晶と一緒だ。
「俺は仕事中で飲めないからな」
「おや、君にも勧めようと思ったんだがなあ」
「酔っ払って護衛任務に失敗したら大変ですからねえ」
「君は真面目だなあ」
オズリックの機嫌を損ねることなく、スタールビーはやり過ごした。
むむ……飲まないわけにはいかなくなってしまった。
「わかりました。少しだけ、でもよろしければお付き合いしますわ」
私が返事をすると、オズリックが指示をして淡い色の液体がグラスに注がれた。甘い香りがする。
「なに、酔わせてどうこうするつもりはないさ。お前さんの好みに合うだろうワインが手に入ったからな、一緒に飲もうと思っていたんだ」
「私の好みを? どうして?」
理解できなくて思いのままに告げる。
オズリックは目を細めた。
「お前さんをたっぷりと甘やかすためだ」
「甘やかしても、なにも面白くないかと」
飲んでほしいと指先で勧められる。
私は彼が先に飲んだのを見て、私もひと口含んだ。甘みが強いから気づきにくいが、アルコール度数は高い気がする。私が好きな味なのは間違いない。うっかり飲みすぎてしまいそうで、すぐにグラスから唇を離した。
「美味しいだろう?」
「お酒ばかり進んでしまいそうで、ちょっと怖いです」
よく考えたら空腹にお酒はよろしくなかった気がする。私はグラスを置いて、紫黄水晶のペンダントトップに軽く指を当てる。おまじないだ。
「僕はお前さんが不思議そうにするのが興味深い。結婚は白紙に戻ったが、養子にならどうだ?」
「もう酔っていらっしゃるのです?」
「お前さんを手放すのはもったいないと思えてなあ。伴侶にするにはいささか歳が離れているだろう? 養子という手もあると、この前思い立ったんだ」
実家にいるよりは大事にしてもらえるんじゃないか、と想像してしまった。
でも、とそこで思いとどまる。私はお酒を飲めるし結婚もできる年齢だ。誰かの庇護が必要な子どもではない。
「丁重にお断りします」
「そうか……それは残念だな」
やがて食事が運ばれてくる。前菜からメインディッシュに至るまで、私の土地の料理ばかりだった。
「……あの」
「どうした?」
「どうして私の土地の料理ばかりなのです?」
こちらの料理であれば魚介類が多い。それなのに、肉料理が多いうえに味付けも私が馴染んだものばかりだ。
「口に合わなかったか?」
「とんでもないです。どれも美味しくて、こちらで食べられるなんてと驚いたくらいで」
「もっとお前さんのことを知りたくてな」
「誰から好みをお聞きになったのです?」
妥当なところではステラだろうが、どうもステラ自身はオズリックを快く思っていなかったようなのでベラベラ喋りはしないだろう。
「誰でもいいことだろう?」
問いを問いで返される。意外な返事だった。
「今日はやめておきます」
「泊まっていくなら、多少は飲んでも許されるだろう? お前さんは飲める体質だったはずだが」
把握されているとは思わなかった。会食で私がお酒を口にしたことはなかったはずだ。
返答に困っている間にグラスが用意される。
「あ、でも、私」
慌ててスタールビーを見れば、退屈そうな顔をしている。
助けてよ!
「飲んでもいいんじゃないか、今日くらいは」
そう答えて、スタールビーは自身の胸元をツンツンと指した。
彼の仕草で私は思い出す。今日は紫黄水晶と一緒だ。
「俺は仕事中で飲めないからな」
「おや、君にも勧めようと思ったんだがなあ」
「酔っ払って護衛任務に失敗したら大変ですからねえ」
「君は真面目だなあ」
オズリックの機嫌を損ねることなく、スタールビーはやり過ごした。
むむ……飲まないわけにはいかなくなってしまった。
「わかりました。少しだけ、でもよろしければお付き合いしますわ」
私が返事をすると、オズリックが指示をして淡い色の液体がグラスに注がれた。甘い香りがする。
「なに、酔わせてどうこうするつもりはないさ。お前さんの好みに合うだろうワインが手に入ったからな、一緒に飲もうと思っていたんだ」
「私の好みを? どうして?」
理解できなくて思いのままに告げる。
オズリックは目を細めた。
「お前さんをたっぷりと甘やかすためだ」
「甘やかしても、なにも面白くないかと」
飲んでほしいと指先で勧められる。
私は彼が先に飲んだのを見て、私もひと口含んだ。甘みが強いから気づきにくいが、アルコール度数は高い気がする。私が好きな味なのは間違いない。うっかり飲みすぎてしまいそうで、すぐにグラスから唇を離した。
「美味しいだろう?」
「お酒ばかり進んでしまいそうで、ちょっと怖いです」
よく考えたら空腹にお酒はよろしくなかった気がする。私はグラスを置いて、紫黄水晶のペンダントトップに軽く指を当てる。おまじないだ。
「僕はお前さんが不思議そうにするのが興味深い。結婚は白紙に戻ったが、養子にならどうだ?」
「もう酔っていらっしゃるのです?」
「お前さんを手放すのはもったいないと思えてなあ。伴侶にするにはいささか歳が離れているだろう? 養子という手もあると、この前思い立ったんだ」
実家にいるよりは大事にしてもらえるんじゃないか、と想像してしまった。
でも、とそこで思いとどまる。私はお酒を飲めるし結婚もできる年齢だ。誰かの庇護が必要な子どもではない。
「丁重にお断りします」
「そうか……それは残念だな」
やがて食事が運ばれてくる。前菜からメインディッシュに至るまで、私の土地の料理ばかりだった。
「……あの」
「どうした?」
「どうして私の土地の料理ばかりなのです?」
こちらの料理であれば魚介類が多い。それなのに、肉料理が多いうえに味付けも私が馴染んだものばかりだ。
「口に合わなかったか?」
「とんでもないです。どれも美味しくて、こちらで食べられるなんてと驚いたくらいで」
「もっとお前さんのことを知りたくてな」
「誰から好みをお聞きになったのです?」
妥当なところではステラだろうが、どうもステラ自身はオズリックを快く思っていなかったようなのでベラベラ喋りはしないだろう。
「誰でもいいことだろう?」
問いを問いで返される。意外な返事だった。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~
紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの?
その答えは私の10歳の誕生日に判明した。
誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。
『魅了の力』
無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。
お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。
魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。
新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。
―――妹のことを忘れて。
私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。
魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。
しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。
なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。
それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。
どうかあの子が救われますようにと。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました
鈴宮ソラ
ファンタジー
オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。
レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。
十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。
「私の娘になってください。」
と。
養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。
前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
貴方に側室を決める権利はございません
章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。
思い付きによるショートショート。
国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる