70 / 123
4:私の選択
少しは参考になったか?
しおりを挟む
※※※※※
気づけば外が暗くなっていた。チーム編成も変えて連携も試したので、ひと試合は長いと感じなかったのにこんな時間である。
「――少しは参考になったか?」
休憩中にオパールが私に尋ねた。私は気づいたことを雑記帳にまとめていたので、彼に見せる。
「おかげさまで勉強になりました。組み合わせで意外なこともありましたし、助かりました」
「それならいいんだ。オレも彼らの能力を把握しておきたかったからな。――正式に拠点を持つようになったら、こんな感じで模擬戦を組んで、鉱物人形たちの能力を測るんだよ。定期的に協会から職員が派遣されてきてな。オレは時々、それの審判をしてる」
「なんか手慣れていると思ったら、そういうことだったんですね」
時間を潰すためになんとなくやっているわけではなかったということだ。
そもそも今回の模擬戦は、私がオパールにみんなの能力を把握するにはどうしたらいいかと相談した結果ではあるのだが。
「きみは勉強熱心だな」
雑記帳に目を通してふむふむと頷いていたオパールがほめてくれた。
「家を出るために必死なだけです。実家にはこれ以上迷惑をかけられないので、自立したいんですよ」
「精霊管理協会がきみを利用しようと企んでいるとは思わないのか?」
オパールの問いに、私は目を瞬かせる。
「ええっと。それは思いますけど、しばらくは生かしておいてくれそうですし、私の力が誰かのためになるなら悪くはないかと。お荷物にはなりたくないんです」
「それは結構なことだが……きみはやりたいことや夢はなかったのか?」
「政略結婚の駒として育てられてきましたし、そういうモノだと思っていたので。私に自由意志があると困るらしくて、従順なフリをしてやり過ごしてきました。向こうが婚約破棄を願っているのだから、私はもう自由です」
私のせいではない不当な理由で婚約破棄されたのだから、仕方がないことである。そんな相手の気が変わらないうちに私は私として生きる道を進んでしまいたいのだ。
「自由を得た結果、精霊使いを目指すのか」
「そうですね。もともと、石には興味がありましたし。精霊の加護も感じられるので向いていると思ったんですよ」
「そりゃあ、きみは《聖女》と呼ばれるほどの力を持っているわけだから、加護も見えて当然だろうが……なんだかなあ」
表情が曇る。オパールは精霊使いを良いものだと持て囃す立場にはないようだ。
「同情はいらないですよ。悲しいとも不幸だとも思っていないので。今、とっても楽しいですし」
「楽しそうにしているようには見えるさ。だが……いや、オレが言うものじゃないな」
彼は面倒くさそうに頭をかいて立ち上がった。
「そろそろ夕食を仕込まないとな。腹減ってるだろ。ガッツリと胃にたまる料理、出してやるよ」
「早く食いたいから手伝うぜ」
ルビが挙手して、ピョンっと身軽に立ち上がる。勝ち星を一番獲っていた彼だが、まだ体力が余っているようだ。戦闘に特化していると明言していただけはある。
「じゃあお願いするよ。オレらは先に行くから、きみたちはゆっくり来るといい」
はーいと各々返事をする。それを聞いてオパールとルビは出て行った。
「はぁ……ヘトヘトだよお」
オパールとルビの前で弱音を吐くのが嫌だったのだろう。足音がしなくなるのを待って、アメシストが呟いた。
「お疲れ様でしたね」
「僕はあまり戦闘は得意じゃないんだよねえ」
よほど疲れているのか汚れることにも厭わず、アメシストは床に突っ伏した。
気づけば外が暗くなっていた。チーム編成も変えて連携も試したので、ひと試合は長いと感じなかったのにこんな時間である。
「――少しは参考になったか?」
休憩中にオパールが私に尋ねた。私は気づいたことを雑記帳にまとめていたので、彼に見せる。
「おかげさまで勉強になりました。組み合わせで意外なこともありましたし、助かりました」
「それならいいんだ。オレも彼らの能力を把握しておきたかったからな。――正式に拠点を持つようになったら、こんな感じで模擬戦を組んで、鉱物人形たちの能力を測るんだよ。定期的に協会から職員が派遣されてきてな。オレは時々、それの審判をしてる」
「なんか手慣れていると思ったら、そういうことだったんですね」
時間を潰すためになんとなくやっているわけではなかったということだ。
そもそも今回の模擬戦は、私がオパールにみんなの能力を把握するにはどうしたらいいかと相談した結果ではあるのだが。
「きみは勉強熱心だな」
雑記帳に目を通してふむふむと頷いていたオパールがほめてくれた。
「家を出るために必死なだけです。実家にはこれ以上迷惑をかけられないので、自立したいんですよ」
「精霊管理協会がきみを利用しようと企んでいるとは思わないのか?」
オパールの問いに、私は目を瞬かせる。
「ええっと。それは思いますけど、しばらくは生かしておいてくれそうですし、私の力が誰かのためになるなら悪くはないかと。お荷物にはなりたくないんです」
「それは結構なことだが……きみはやりたいことや夢はなかったのか?」
「政略結婚の駒として育てられてきましたし、そういうモノだと思っていたので。私に自由意志があると困るらしくて、従順なフリをしてやり過ごしてきました。向こうが婚約破棄を願っているのだから、私はもう自由です」
私のせいではない不当な理由で婚約破棄されたのだから、仕方がないことである。そんな相手の気が変わらないうちに私は私として生きる道を進んでしまいたいのだ。
「自由を得た結果、精霊使いを目指すのか」
「そうですね。もともと、石には興味がありましたし。精霊の加護も感じられるので向いていると思ったんですよ」
「そりゃあ、きみは《聖女》と呼ばれるほどの力を持っているわけだから、加護も見えて当然だろうが……なんだかなあ」
表情が曇る。オパールは精霊使いを良いものだと持て囃す立場にはないようだ。
「同情はいらないですよ。悲しいとも不幸だとも思っていないので。今、とっても楽しいですし」
「楽しそうにしているようには見えるさ。だが……いや、オレが言うものじゃないな」
彼は面倒くさそうに頭をかいて立ち上がった。
「そろそろ夕食を仕込まないとな。腹減ってるだろ。ガッツリと胃にたまる料理、出してやるよ」
「早く食いたいから手伝うぜ」
ルビが挙手して、ピョンっと身軽に立ち上がる。勝ち星を一番獲っていた彼だが、まだ体力が余っているようだ。戦闘に特化していると明言していただけはある。
「じゃあお願いするよ。オレらは先に行くから、きみたちはゆっくり来るといい」
はーいと各々返事をする。それを聞いてオパールとルビは出て行った。
「はぁ……ヘトヘトだよお」
オパールとルビの前で弱音を吐くのが嫌だったのだろう。足音がしなくなるのを待って、アメシストが呟いた。
「お疲れ様でしたね」
「僕はあまり戦闘は得意じゃないんだよねえ」
よほど疲れているのか汚れることにも厭わず、アメシストは床に突っ伏した。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる