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3:運命の歯車が回りだす

めいっぱい甘やかしているのは

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「ふたりとも、剣はしまって?」

 私が命じると、アメシストもシトリンも渋々といった様子で剣を軽く振って消す。

「マスター、甘やかすのはよくないよ」
「甘やかしていないですよ。唇じゃないですし」

 アメシストが子どもっぽく膨れる。隣のシトリンもむすっとしていた。

「そうやって気を許すと、アレは調子に乗ると思うが?」
「いいですか、アメシストさん、シトリンさん。私がめいっぱい甘やかしているのはあなたがたですよ?」

 立ち上がると、ふたりまとめて抱きしめてやる。私よりも背丈があるからぎゅっとするには腕の長さが足りないのだけれど、精一杯引き寄せた。

「ふてくされないでください。私はあなたたちにも感謝しているんですから。よく頑張りましたね」

 実家で褒められることなんて滅多になかったから、どう感謝を示せばいいのかよくわからない。でも、私なりに私がしたい方法で伝える努力はしよう。
 ぎゅっとしていると、ふたりから抱き締め返された。

「マスターがそう言うなら、我慢できるように頑張るよ」
「…………」

 アメシストは宣言したが、シトリンは黙っている。

「シトリンさんは?」
「……努力しよう。必ずとは約束しかねるが」

 うわぁ……
 真面目すぎるのか、素直すぎるのか。シトリンはその場しのぎの言葉は告げない主義のようだ。

「いいですか、おふたりとも。仲間に対し、敵意剥き出しで反応することは禁じます。追い払うことについては許可しますので、よろしくお願いしますね」
「わかった」
「承知した」

 そんなやり取りを見てか、セレナがクスクスと笑いながら立ち上がった。

「まるで大型犬とトレーナーねえ」
「……どう接するのが適切なのか全然わからないんですけど」

 納得してくれたふたりの頭を背伸びして撫でて離れる。機嫌は良くなったようだ。
 これでこっちはよしっと。
 私の愚痴に、セレナが首を傾げる。

「ふつうに接すればいいと思うけど?」
「軟禁生活をしていた人間にそのアドバイスはあまり役立たないんじゃないかと。しかも、私の面倒をおもに見ていたのってステラなんですよ?」

 のびて転がされているこの騒動の首謀者を指さす。ステラが一般的な思考を持ち合わせていないことは、前述の通りである。

「それで今の感覚を持っているなら、なかなかのバランスじゃないか?」

 スタールビーが不思議そうな顔をする。
 この中ではおそらく常識人だろうスタールビーがこういう反応なので、概ね私の言動はこれでいいのかもしれない。
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