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2:私の人生が動くとき

研修場に向かいましょうか。

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「で。全勢力の撤退を確認できているんだけれど、施設が半壊しているので私たちは移動することになったわ。スタールビーたちには私から先に言ってある」
「ありがとうございます」

 施設から煙が上がっているのが見えていたので今夜の寝床はどうするのかと案じていたが、手配してくれているようでなによりである。研修生になることを選んでよかったと思った。まだしばらくの間は協会からの保護をお願いしたかった。

「研修会場が確保できているから、そっちに移る感じね。協会の保養所のひとつを貸し切ってもらったから、快適じゃないかしら」
「って、まさかあの保養所か……? きみは厄介な案件をひきがちで退屈しないな」
「察しがよすぎるのもどうかと思うけど」
「これはオレの仕様だよ」

 オパールは肩を竦めて、ゆっくり立ち上がった。大きく伸びをすると、想像していたように長身である。頼もしい感じだ。

「――さて。オレが護衛しながら連れて行くってことでいいのか?」
「そういう感じでよろしく。そんで、一緒に教官をしてよ」
「そんなに力になれることはないと思うけどなあ」
「んー? 私、あなたを頼りにしてるんだけど?」
「きみに頼られたら断れないんだよなあ」

 ん? オパールさん、デレた?
 頬を掻いて笑うオパールを見ていると、セレナに好意を持っているのがわかる。鉱物人形がマスターと呼び慕う相手に好意を抱いているのはよくあることのようには思えていたが、もっと深い親愛の情を感じた。
 彼らはいいパートナーなんだろうな。

「――この場所も解体するから、早速で悪いけど移動するわよ」
「わかりました。アメシストさん、シトリンさんもよろしいですね?」

 私が声をかけると、アメシストもシトリンも頷いた。

「マスターが行くなら、お供するまで、だよ。ねえ、弟」
「そうだな」

 そう答えたかと思えば、私はアメシストに横抱きにされていた。

「……はい?」

 ふたりとも手慣れてきたし、私も抵抗がなくなってきていませんかね?
 私がアメシストの顔を見るとニコッとされた。

「何かあってもすぐに守れるように、ね」
「うっかり連れ去られたら困るしな」

 守れるようにはわかるが、連れ去られないように、とな?
 過保護ではなかろうか。私は苦笑する。

「大丈夫ですって」
「特に、ルビは要注意だ」

 ルビの名が出て、確かにと頷いてしまった。出会って間もないにもかかわらずルビは私との距離が近すぎる気がする。警戒したくなる気持ちはわからなくはない。

「ですが、ダイヤさんがいれば大丈夫じゃないですか?」
「あれも向こうの、だろう? 信用していいかどうかまだわからん」
「あはは……」

 シトリンとアメシストが心配するのももっともな気がしたので、ここは甘えておこうと思う。そもそも、私はあまり体力に自信がない。物心がついてからの人生がほぼ引きこもり軟禁生活だったわけで。

「移動には転送装置を使うから、そう心配しなくても大丈夫よ。ま、くっついていたほうが安心でしょうね」

 セレナがからかってくるが、それはみんなで無視して指示に従うのだった。
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