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第四話 狸捕獲大作戦
狸捕獲大作戦5
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それは、私たちが山頂より少し下がった展望台まで来たときから始まった。
「狸がいたぞ!」
先に山頂に到達していた軽音部の部員の一人が、そんな声を発した。
「まずい。先を越されないようにしなくちゃ!」
辺りを捜索する軽音部の部員らに混じって、亜矢子も慌てて森に足を踏み入れていく。
「亜矢子! あんまり深入りしたら危ないよ!」
心配する私の声が聞こえているのかいないのか、亜矢子は狸探しに夢中である。
「仕方ない。俺が見に行くよ」
乾くんがやれやれといった態で亜矢子のあとを追っていく。とりあえずそれに安堵してふと後方を振り向くと、なんとそこに別の狸の姿があった。
「あ……!」
私は驚きに声をあげる。狸は私に見つかったと同時にさっと身を翻して駆けていった。
「追いかけなくちゃ!」
私が慌てて狸のあとを追いかけようとすると、隣にいたおきつねさまが制止した。
「待て。結月」
「え? なに?」
「なにか嫌な感じだ。追わぬほうがいい」
「でも早くしないと見失っちゃう」
亜矢子の付き合いでやってきたとはいえ、勝負は勝負。みすみす負けたくはない。
「軽率で単細胞。救えぬ馬鹿者」
あまりの物言いに、さすがの私もムカッとした。
「なによ! 友達の力になりたいって頑張ってるのに」
「だから、さっき言ったことをもう忘れたのか? この山に出る狸は、隠神刑部の息がかかった狸である可能性が高い。ということは、なにか罠があるとは思えぬのか?」
言われてみて、確かに先程おきつねさまに忠告されていたことを思い出した。
「罠? 狸を追いかけていくとよくないことが待っているって?」
私は急に不安になり、後ろを振り返って亜矢子と乾くんが向かった方向に目をやった。
「どうもあの狸、なにかを企んでいるような気がする。まあそれでも行くというのなら、儂は止めぬが」
もしもおきつねさまの言うことが正しければ、さっき狸を追いかけていった人たちが危ないということだ。それならば、こっちの狸のことより、亜矢子たちの身のほうが心配に決まっている。
「うん、わかった! それなら私の行く方向はこっちだ!」
私は身を翻すと、亜矢子たちが向かった方向へと駆けていった。
「いやがったな狸!」
「そんなところにいたんですね!」
軽音部部長の林田と囲碁部部長の白石が、そんなことを言いながら私の前を走っていた。確かに先程から狸が走っていく姿が周囲でちらちらと見える。しかもそれは一匹ではなく、時間を追うごとにその数を増やしているような気がした。
これはなにかおかしい。
そう感じた私は、前を走る二人に声を投げかけた。
「林田さん! 白石さん! 待って! あの狸たちはなにかおかしい!」
しかし、そんな私の言葉は二人の耳に届くことはなかった。
冷静になれば、おきつねさまの言うとおり、この山の狸はなにか普通とは違う。なにか目的を持って、わざと人前に姿を見せているみたいに見える。しかし、勝負で頭を熱くしている人たちには、そんな当たり前の判断力がなくなっているらしい。林田と白石も、なんの疑いもなく今は狸捕獲という目的に躍起になっているようだった。
「どこかへ人間をおびき寄せているみたいじゃな」
後方からそんなおきつねさまの声が聞こえた。
おびき寄せている? なんのために?
それを考えるのが怖い。
とにかく、追いつかなければ。
山道を上りつつ、先へ進んでいくと、林田と白石の前に二匹の狸がいるのが見えた。
「私が先に捕まえます!」
「俺が先だ!」
二人が一斉に狸に飛びかかった。と思った次の瞬間。バタタッと林田と白石が重なり合うようにしてその場に倒れた。
「林田さん! 白石さん!」
私が近づいていくと、二人に近づいてなにかをしようとしていた狸二匹はこちらを見てたちまち逃げていった。
「フン。儂に恐れをなして逃げたか」
どうやら私ではなく、おきつねさまの存在に怯えて逃げていったらしい。
「二人とも気を失っているだけみたいだね。でも、あの狸たちいったいなにをしようとしてたんだろう」
私の疑問に、おきつねさまが答えた。
「たぶん、あのままほうっておいたら、この二人にとってはよからぬことになっていただろうな」
「よからぬこと?」
おきつねさまはおもむろに倒れている二人に近づくと、その口元に手をかざした。
「ああ。あの狸ども、やはり上位の妖怪に特別な力を与えられておるようじゃ。ほんの少しじゃが、精気を吸い取られた痕跡がある。この程度ならすぐに回復するじゃろうが、もっと吸い取られていたら、命の危機にもなりうるのう」
「命の、危機……!?」
なんとも物騒な言葉に、私は血の気が引く思いがした。
「なんにしても、狸を追いかけていった他の人間の身が危ないということはこれではっきり
した。急がねば、ちと面倒なことになりそうじゃ」
「うん。とにかく先を急ごう!」
私はおきつねさまとともに、先を急ぐのだった。
「狸がいたぞ!」
先に山頂に到達していた軽音部の部員の一人が、そんな声を発した。
「まずい。先を越されないようにしなくちゃ!」
辺りを捜索する軽音部の部員らに混じって、亜矢子も慌てて森に足を踏み入れていく。
「亜矢子! あんまり深入りしたら危ないよ!」
心配する私の声が聞こえているのかいないのか、亜矢子は狸探しに夢中である。
「仕方ない。俺が見に行くよ」
乾くんがやれやれといった態で亜矢子のあとを追っていく。とりあえずそれに安堵してふと後方を振り向くと、なんとそこに別の狸の姿があった。
「あ……!」
私は驚きに声をあげる。狸は私に見つかったと同時にさっと身を翻して駆けていった。
「追いかけなくちゃ!」
私が慌てて狸のあとを追いかけようとすると、隣にいたおきつねさまが制止した。
「待て。結月」
「え? なに?」
「なにか嫌な感じだ。追わぬほうがいい」
「でも早くしないと見失っちゃう」
亜矢子の付き合いでやってきたとはいえ、勝負は勝負。みすみす負けたくはない。
「軽率で単細胞。救えぬ馬鹿者」
あまりの物言いに、さすがの私もムカッとした。
「なによ! 友達の力になりたいって頑張ってるのに」
「だから、さっき言ったことをもう忘れたのか? この山に出る狸は、隠神刑部の息がかかった狸である可能性が高い。ということは、なにか罠があるとは思えぬのか?」
言われてみて、確かに先程おきつねさまに忠告されていたことを思い出した。
「罠? 狸を追いかけていくとよくないことが待っているって?」
私は急に不安になり、後ろを振り返って亜矢子と乾くんが向かった方向に目をやった。
「どうもあの狸、なにかを企んでいるような気がする。まあそれでも行くというのなら、儂は止めぬが」
もしもおきつねさまの言うことが正しければ、さっき狸を追いかけていった人たちが危ないということだ。それならば、こっちの狸のことより、亜矢子たちの身のほうが心配に決まっている。
「うん、わかった! それなら私の行く方向はこっちだ!」
私は身を翻すと、亜矢子たちが向かった方向へと駆けていった。
「いやがったな狸!」
「そんなところにいたんですね!」
軽音部部長の林田と囲碁部部長の白石が、そんなことを言いながら私の前を走っていた。確かに先程から狸が走っていく姿が周囲でちらちらと見える。しかもそれは一匹ではなく、時間を追うごとにその数を増やしているような気がした。
これはなにかおかしい。
そう感じた私は、前を走る二人に声を投げかけた。
「林田さん! 白石さん! 待って! あの狸たちはなにかおかしい!」
しかし、そんな私の言葉は二人の耳に届くことはなかった。
冷静になれば、おきつねさまの言うとおり、この山の狸はなにか普通とは違う。なにか目的を持って、わざと人前に姿を見せているみたいに見える。しかし、勝負で頭を熱くしている人たちには、そんな当たり前の判断力がなくなっているらしい。林田と白石も、なんの疑いもなく今は狸捕獲という目的に躍起になっているようだった。
「どこかへ人間をおびき寄せているみたいじゃな」
後方からそんなおきつねさまの声が聞こえた。
おびき寄せている? なんのために?
それを考えるのが怖い。
とにかく、追いつかなければ。
山道を上りつつ、先へ進んでいくと、林田と白石の前に二匹の狸がいるのが見えた。
「私が先に捕まえます!」
「俺が先だ!」
二人が一斉に狸に飛びかかった。と思った次の瞬間。バタタッと林田と白石が重なり合うようにしてその場に倒れた。
「林田さん! 白石さん!」
私が近づいていくと、二人に近づいてなにかをしようとしていた狸二匹はこちらを見てたちまち逃げていった。
「フン。儂に恐れをなして逃げたか」
どうやら私ではなく、おきつねさまの存在に怯えて逃げていったらしい。
「二人とも気を失っているだけみたいだね。でも、あの狸たちいったいなにをしようとしてたんだろう」
私の疑問に、おきつねさまが答えた。
「たぶん、あのままほうっておいたら、この二人にとってはよからぬことになっていただろうな」
「よからぬこと?」
おきつねさまはおもむろに倒れている二人に近づくと、その口元に手をかざした。
「ああ。あの狸ども、やはり上位の妖怪に特別な力を与えられておるようじゃ。ほんの少しじゃが、精気を吸い取られた痕跡がある。この程度ならすぐに回復するじゃろうが、もっと吸い取られていたら、命の危機にもなりうるのう」
「命の、危機……!?」
なんとも物騒な言葉に、私は血の気が引く思いがした。
「なんにしても、狸を追いかけていった他の人間の身が危ないということはこれではっきり
した。急がねば、ちと面倒なことになりそうじゃ」
「うん。とにかく先を急ごう!」
私はおきつねさまとともに、先を急ぐのだった。
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