上 下
25 / 55
第三話 旧校舎トイレの怪

旧校舎トイレの怪10

しおりを挟む
 その昔、日本には人間と神、そして妖怪との世界がとても近い時代があった。
 人は日々の暮らしに人ならざるものの痕跡を見つけては、彼らを畏れ敬い、彼らの世界に対し、一定の尊敬の念を抱いて暮らしていた。
 人知の及ばぬ現象、不思議な出来事。
 それらの事は、八百万の神々の仕業か、はたまた妖怪の仕業であると人々は考えたのだ。

 そんな時代にある一人の女性がいた。
 東雲結月の前世。名をちづと言う。

 彼女は巫女を生業とし、祈祷や神楽を踊ったり、占いを行っていた。なかでも評判だったのが、彼女の行う口寄せ。
 口寄せとは、己の体に霊などを憑依させ、話をさせるというもの。その能力がちづは他のものと比べ、とても強かった。

 すなわち、とても強い霊力の持ち主であったのだそうだ。
 そのため、ちづのもとには連日のように、神託を求めて多くのものが詰めかけた。その噂は貴族階級の身にも伝わり、彼女が望むと望まざるとに関わらず、あっという間に有名になり、財が集まるようになった。

 もちろん彼女の祈祷も抜群の威力があると評判で、厄落としのために様々な人々がやってきた。次第にそれは、妖怪退治の側面も帯びるようになり、さらなる仕事が彼女のもとには舞い込むようになっていった。
 そうして評判が評判を呼び、彼女は当代きっての神の使いであると、人々から敬われるほどになった。

 しかし、そうして有名になると、よからぬ類のものが近づいてくるのは世の中の常。
 あるとき彼女は、とある男の頼みを聞いて、口寄せを行うために、とある廃寺へと訪れた。亡くなった住職と話がしたいと、男は彼女をそこに連れ込むと、口寄せを始めた彼女をその場に残した。そして突然廃寺に火をかけたのである。
 みるみるうちに辺りを炎に包まれ、逃げ場をなくしたかに思われた彼女だったが、奇跡的にも脱出することに成功し、九死に一生を得た。
 そうやって彼女を殺そうとしたのは、ある妖怪だった。
 その妖怪は他でも悪さをして人々を困らせており、ちづはとうとうその妖怪を退治することを決めたのだった。

 そうして彼女はその妖怪と何度も死闘を繰り広げることとなった。
 しかし、その妖怪の妖力は、ちづの力を持ってしてもなかなか抑えきることはできなかった。
 けれどもついに、ちづはその妖怪を封じることに成功した。
 とある霊山に妖怪を追いつめた彼女は、己の霊力のすべてを尽くして、とある場所にその妖怪を封じた。けれども、その妖怪も然るものだったと言えよう。
 最後の最後、彼女に強力な呪いをかけていった。

 それは、彼女を妖怪に祟らせるという恐ろしい呪い。それは次の来世においても消えることなく残るというものだったのである。
 その強い呪いのせいで、その後ちづは数ヶ月ののちに命を落とすことになる。
しおりを挟む

処理中です...