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第二話 河童の落とし物
河童の落とし物1
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空孤という妖怪は、三千年もの長い年月を経た大妖怪なのだという。いろんな時代を過ごしてきたこともあって、呼び名もその時々でいろいろであったらしい。
化け狐。白狐。大狐。仙孤。妖孤。
本人が名乗ったように空孤、と呼ばれることもあったようだが、私が一番馴染めそうな呼び名は他にあった。
「おきつねさま~。ちょっと教えて~」
自分の勉強机の前で、私は近くにいるであろう彼を呼んだ。すると、どこからか音もなく白い装束を身につけた白狐の妖怪が私の横に現れた。
「何用だ。小娘」
「だからー、小娘じゃなくて、私の名前は結月。東雲結月」
「そうだな。確かに小娘、では誰のことかわからぬからのう。で、結月。この儂に何用じゃ」
「またちょっとお願いがあるんだけど」
「またか。昨日もそう言われた気がするが。思ったんじゃが、おぬし、なんだか儂を便利なように使おうと思っておらんか?」
ぎく。ちぇ、ばれたか。
でもなんとか顔にでないように平静を装う。
「ええ? そんなことないよー。それに教えてくれたらいいものあげようと思ってるんだけどなー」
私が言うと、おきつねさまはにたりとまんざらでもない表情を浮かべた。
「うむ。おぬし、なかなかわかっておるではないか。それなら聞いてやらんこともない。申してみよ」
単純な大妖怪もいたものだ。簡単に釣られてくれてこちらも助かる。
「えっとね。ちょっと歴史のことで教えて欲しいんだけど」
「歴史? なんじゃ、また信長が鉄砲で暴れた戦のことでも知りたいのか」
「違う違う。今度は源頼朝の妻だった人って誰だったかっていうのが知りたいんだけど」
「頼朝の妻? ああ、あの尼将軍のことか」
「尼将軍?」
「そう。北条政子。頼朝の死後、幕府の危機をたびたび救った女じゃ。人間にしてはなかなかに見所のある女であったのう」
「ふむふむ。なるほど」
「この儂に教えを請うとは、よい心がけじゃ。そういう意味ではおぬしもなかなか見所があるぞ」
と、空孤――おきつねさまは、なにやらご満悦の様子である。
さすがに三千年生きてきたとあって、おきつねさまは日本の歴史に詳しい。実際にその時代を知っている生き字引みたいな存在なので、日本史のテスト勉強を教えてもらうのに重宝している。……なんて、教えを請うと言うより私的には便利に使わせてもらっているだけなのだが、本当のことを言ったら怒られそうだから黙っておく。
ふと、部屋の隅っこのほうにほこりんがちょこんと座っているのが見えた。ほこりん以外にこの部屋に棲む妖怪が増えてしまった(しかも本人いわく超エリート大妖怪)が、癒し系妖怪のほこりんはおきつねさまの気配におののくでもなく、もちろん威嚇するような素振りも見せず、いつものとおりにそこでただ座っているだけだった。
「そこにおるのは埃精か」
「ほこりせい? ほこりんのこと?」
「ほこりん? なんじゃ。その呼び名は」
「え? 可愛くない? ほこりの妖怪でほこりん。妖怪は基本嫌いだけど、このほこりんは特になにも悪さしないし、なんか可愛いから結構気に入ってるの」
「まあ、確かに埃精はただ埃の集まるところにいるだけの人畜無害な妖怪ではあるな。だが、あいつがいるということは、この部屋は汚いということでもある」
「ぎく。そういえば、部屋の掃除だいぶしてないかも……」
「あいつにこの部屋を占領される前に、少しは部屋を綺麗にしておくことじゃな」
「は~い」
化け狐。白狐。大狐。仙孤。妖孤。
本人が名乗ったように空孤、と呼ばれることもあったようだが、私が一番馴染めそうな呼び名は他にあった。
「おきつねさま~。ちょっと教えて~」
自分の勉強机の前で、私は近くにいるであろう彼を呼んだ。すると、どこからか音もなく白い装束を身につけた白狐の妖怪が私の横に現れた。
「何用だ。小娘」
「だからー、小娘じゃなくて、私の名前は結月。東雲結月」
「そうだな。確かに小娘、では誰のことかわからぬからのう。で、結月。この儂に何用じゃ」
「またちょっとお願いがあるんだけど」
「またか。昨日もそう言われた気がするが。思ったんじゃが、おぬし、なんだか儂を便利なように使おうと思っておらんか?」
ぎく。ちぇ、ばれたか。
でもなんとか顔にでないように平静を装う。
「ええ? そんなことないよー。それに教えてくれたらいいものあげようと思ってるんだけどなー」
私が言うと、おきつねさまはにたりとまんざらでもない表情を浮かべた。
「うむ。おぬし、なかなかわかっておるではないか。それなら聞いてやらんこともない。申してみよ」
単純な大妖怪もいたものだ。簡単に釣られてくれてこちらも助かる。
「えっとね。ちょっと歴史のことで教えて欲しいんだけど」
「歴史? なんじゃ、また信長が鉄砲で暴れた戦のことでも知りたいのか」
「違う違う。今度は源頼朝の妻だった人って誰だったかっていうのが知りたいんだけど」
「頼朝の妻? ああ、あの尼将軍のことか」
「尼将軍?」
「そう。北条政子。頼朝の死後、幕府の危機をたびたび救った女じゃ。人間にしてはなかなかに見所のある女であったのう」
「ふむふむ。なるほど」
「この儂に教えを請うとは、よい心がけじゃ。そういう意味ではおぬしもなかなか見所があるぞ」
と、空孤――おきつねさまは、なにやらご満悦の様子である。
さすがに三千年生きてきたとあって、おきつねさまは日本の歴史に詳しい。実際にその時代を知っている生き字引みたいな存在なので、日本史のテスト勉強を教えてもらうのに重宝している。……なんて、教えを請うと言うより私的には便利に使わせてもらっているだけなのだが、本当のことを言ったら怒られそうだから黙っておく。
ふと、部屋の隅っこのほうにほこりんがちょこんと座っているのが見えた。ほこりん以外にこの部屋に棲む妖怪が増えてしまった(しかも本人いわく超エリート大妖怪)が、癒し系妖怪のほこりんはおきつねさまの気配におののくでもなく、もちろん威嚇するような素振りも見せず、いつものとおりにそこでただ座っているだけだった。
「そこにおるのは埃精か」
「ほこりせい? ほこりんのこと?」
「ほこりん? なんじゃ。その呼び名は」
「え? 可愛くない? ほこりの妖怪でほこりん。妖怪は基本嫌いだけど、このほこりんは特になにも悪さしないし、なんか可愛いから結構気に入ってるの」
「まあ、確かに埃精はただ埃の集まるところにいるだけの人畜無害な妖怪ではあるな。だが、あいつがいるということは、この部屋は汚いということでもある」
「ぎく。そういえば、部屋の掃除だいぶしてないかも……」
「あいつにこの部屋を占領される前に、少しは部屋を綺麗にしておくことじゃな」
「は~い」
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