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第一話 おきつねさまと雨女
おきつねさまと雨女4
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石の階段を登っていくと、正面に朱塗りの鳥居が見えた。黒々と繁った森を周囲に背負いながらそびえ立つその鳥居は、神々しく荘厳な雰囲気を醸し出している。神社、という厳かな雰囲気に、少しだけ足どりが鈍るが、弥太郎くんの姿がもしかしたらそこにあるかもしれないと、私は続く階段を一歩一歩登っていく。
途中、なにものかの視線を感じたように思い、左右に視線をめぐらすと、そこには二体の石でできた狐の像があった。
「お稲荷様……?」
近所にこんな稲荷神社があったとは、まるで知らなかった。先程感じた視線の正体はこの狐だったかと少しだけ安堵する。しかしまだ石段はさらに先へと続いている。私は狐の像と早々に別れると、再び一段一段階段を踏みしめていった。
やがて階段の一番上までたどり着き、そこにあった鳥居をくぐると、その瞬間、神秘的ななにかが私の周囲に満ちたような気がした。
目の前には、木造の古びた社殿があり、そう信心深いわけでもない自分にも、少なからず厳かな気持ちを沸き起こさせた。
「弥太郎くーん。いるなら返事してーっ」
とりあえず捜し人がこの場所にいないかと呼びかける。が、しばらく待ってみても周囲からは返事はなかった。神社の境内をめぐり、社殿や社務所らしき建物を覗いてまわる。しかしそのどこにも子供の姿は見当たらなかった。それどころか、他に誰かがいるような気配もない。小さな神社のため、管理者が常駐しているわけではないのかもしれない。
夕闇迫る神社の境内で、私はふと社殿のほうにあらためて体を向けた。
初めて来たはずの神社なのに、なぜかいつか見たような既視感を覚えた。ずっと以前に、この神社を訪れたことがある。そんな懐かしい思い。
「そんなことあったっけ……?」
しかし、思い出そうと努力するが、まるでその記憶が浮上してくることはなかった。記憶に残るか残らないかほどの、小さなころのことだったのかもしれない。
とりあえず、ここには弥太郎くんの姿はなかった。しかしせっかくここまでやってきたのだ。私は少しだけお参りをしておきたい気持ちにかられた。
「えっと、確か二礼二拍手一礼、だったっけ」
私は先日テレビの旅番組で紹介されていた参拝方法のことを思い出しながら、社殿の前に立つ。
「一応お賽銭も入れておいたほうがいいよね」
私は制服のスカートのポケットに入れてあったはずの小銭入れの存在を思いだし、片手をポケットに突っ込む。小銭の重みをそこに確認したあと、それを取り出し、気持ちばかりのお金を賽銭箱へと投げた。
それから鈴を鳴らして、二礼二拍手をしたあと、しっかりと手を合わせて願い事を祈念する。
弥太郎くんが見つかりますように。
……それから、私の特異体質がなくなって、平和な生活がもたらされますように。
しばらく、結構長いこと私は手を合わせ続けた。
この際、自分のことを願ったって罰は当たるまい。
私は社殿をあとにすると、境内を出た。鳥居を抜け、再びあの狐の像の傍を通りかかると、またなんとなく視線を感じたような気がして立ち止まった。
「気のせい……だよね」
私は狐の像の片方に近づくと、今度はじっとそれを観察した。細い目と尖った鼻先。筆先のように膨らんだ尻尾が特徴的だ。特になんの変哲もない狐の石像のように見える。
「やっぱり気のせい。きっと妖怪のせいで神経過敏になっちゃってるんだな私」
そう結論づけ、私は狐の像をさらりと手で撫でる。
白い狐は神の使いと言われているらしい。神の使いということは、それなりに神通力とかも備えているのだろうか。
「油揚げ、今度お供えしておこうかな」
神の使いでも味方につけられれば、妖怪もきっと恐れて近づいてこなくなるかもしれない。
「じゃ、きつねさん。私が妖怪で被害に遭わないよう見守っててね」
そうして私は階段を下りていったのだった。
途中、なにものかの視線を感じたように思い、左右に視線をめぐらすと、そこには二体の石でできた狐の像があった。
「お稲荷様……?」
近所にこんな稲荷神社があったとは、まるで知らなかった。先程感じた視線の正体はこの狐だったかと少しだけ安堵する。しかしまだ石段はさらに先へと続いている。私は狐の像と早々に別れると、再び一段一段階段を踏みしめていった。
やがて階段の一番上までたどり着き、そこにあった鳥居をくぐると、その瞬間、神秘的ななにかが私の周囲に満ちたような気がした。
目の前には、木造の古びた社殿があり、そう信心深いわけでもない自分にも、少なからず厳かな気持ちを沸き起こさせた。
「弥太郎くーん。いるなら返事してーっ」
とりあえず捜し人がこの場所にいないかと呼びかける。が、しばらく待ってみても周囲からは返事はなかった。神社の境内をめぐり、社殿や社務所らしき建物を覗いてまわる。しかしそのどこにも子供の姿は見当たらなかった。それどころか、他に誰かがいるような気配もない。小さな神社のため、管理者が常駐しているわけではないのかもしれない。
夕闇迫る神社の境内で、私はふと社殿のほうにあらためて体を向けた。
初めて来たはずの神社なのに、なぜかいつか見たような既視感を覚えた。ずっと以前に、この神社を訪れたことがある。そんな懐かしい思い。
「そんなことあったっけ……?」
しかし、思い出そうと努力するが、まるでその記憶が浮上してくることはなかった。記憶に残るか残らないかほどの、小さなころのことだったのかもしれない。
とりあえず、ここには弥太郎くんの姿はなかった。しかしせっかくここまでやってきたのだ。私は少しだけお参りをしておきたい気持ちにかられた。
「えっと、確か二礼二拍手一礼、だったっけ」
私は先日テレビの旅番組で紹介されていた参拝方法のことを思い出しながら、社殿の前に立つ。
「一応お賽銭も入れておいたほうがいいよね」
私は制服のスカートのポケットに入れてあったはずの小銭入れの存在を思いだし、片手をポケットに突っ込む。小銭の重みをそこに確認したあと、それを取り出し、気持ちばかりのお金を賽銭箱へと投げた。
それから鈴を鳴らして、二礼二拍手をしたあと、しっかりと手を合わせて願い事を祈念する。
弥太郎くんが見つかりますように。
……それから、私の特異体質がなくなって、平和な生活がもたらされますように。
しばらく、結構長いこと私は手を合わせ続けた。
この際、自分のことを願ったって罰は当たるまい。
私は社殿をあとにすると、境内を出た。鳥居を抜け、再びあの狐の像の傍を通りかかると、またなんとなく視線を感じたような気がして立ち止まった。
「気のせい……だよね」
私は狐の像の片方に近づくと、今度はじっとそれを観察した。細い目と尖った鼻先。筆先のように膨らんだ尻尾が特徴的だ。特になんの変哲もない狐の石像のように見える。
「やっぱり気のせい。きっと妖怪のせいで神経過敏になっちゃってるんだな私」
そう結論づけ、私は狐の像をさらりと手で撫でる。
白い狐は神の使いと言われているらしい。神の使いということは、それなりに神通力とかも備えているのだろうか。
「油揚げ、今度お供えしておこうかな」
神の使いでも味方につけられれば、妖怪もきっと恐れて近づいてこなくなるかもしれない。
「じゃ、きつねさん。私が妖怪で被害に遭わないよう見守っててね」
そうして私は階段を下りていったのだった。
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