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Chapter.4 下見とハイキング
2 高原の空気
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学園のあるI県からY県の合宿所までは、電車を乗り継いで、降りた駅からはバスで移動した。かなり遠いと思っていたが、片道三時間もあればたどり着くことができる距離だった。それでもやはり長い移動は疲れる。ようやく目的地に着いたことがわかると、思わず大きなため息が漏れた。
バスを降りると、濃い緑の空気を感じた。周囲には森の木々が鬱蒼と立ち並び、鳥たちがそこかしこで鳴いていた。空気がしんとして冷たく、少し肌寒かった。
「うわー。寒ーい!」
沙耶ちゃんはバスを降りると、そう言って両手で自分の肩を抱いた。沙耶ちゃんの今日の服装は、白のチュニックワンピースにカーディガンというものだった。長い髪はシュシュでまとめていて、とても可愛い。私服姿の沙耶ちゃんとこうして遠出するのは、なんだかドキ
ドキした。
「本当、結構肌寒いね」
「避暑地だからな。夏は涼しくて気持ちがいいはずだ」
そう言いながら、美周もバスから降りてきた。美周の今日の服装は、白のインナーに黒のジャケット、下はデニムのパンツというコーディネートだ。悔しいが決まっている。
「おお、ホントだ。涼しい」
そう言ったのは相田だ。こちらは若草色のパーカにデニムのショートパンツ、ごつめのトレッキングシューズという出で立ちだ。沙耶ちゃんが一緒に行きたいからということで、今回連れていくことになった。彼女にも一連の事情はすでに話してある。
沙耶ちゃんと相田はクラスで二人きりの女子ということもあって、普段から仲が良い。それに、やはり同性の友人というのはなにかと心強いのだろう。美周も、相田には予知夢の話をすることを了承し、今回同行することになったのだった。
四人が降りると、バスは行ってしまった。ここで降りるのは、僕たちだけだったようだ。
沙耶ちゃんは、なぜか大きなバスケットを持ってきていた。中身が気になるところだ。
「ここからまだちょっと歩くの?」
「少しだけだ。そこに看板が出ている」
美周の示した先を見ると、確かに看板が出ていた。
『秋庭ロッジ この先↓』
秋庭学園の合宿施設は、秋庭ロッジというらしい。意外に安易なネーミングだ。
「ホントだ。じゃあ早く行こう!」
沙耶ちゃんはそう言うと、先に歩いて行ってしまった。なんだかとても楽しそうだ。
「なーんか目的忘れてるね。沙耶。まあ、いいんだけど」
相田は苦笑しつつ、そのあとに続いた。
僕もなんだか楽しかった。沙耶ちゃんの予知夢のことを調べに来たのが目的だが、こうして休日に出かけるという行為自体が、心をうきうきとさせていた。
しばらく歩くと、すぐに大きな建物が見えてきた。
「これが合宿所? 結構立派な建物だね」相田の言葉に、美周が答えた。「まあ財力だけはあるからな」
さすが合宿所とは言っても、秋庭学園と名がついているだけあって、ちょっとしたリゾートホテルのようだった。
「でも今日はここに用があるわけじゃないんだよね。沙耶ちゃんの見た夢の場所を探さないと」
「そうだね。近くに水が流れてるとこないかな」
「少し行けばあるはずだ。とりあえず、行ってみよう」
僕たちは合宿所をあとにすると、周辺の道を散策することにした。
合宿所の周りはまさに森だった。上を見あげると、高い木々の梢が大きく手を広げていた。その隙間からは光がきらきらとこぼれ落ちている。周囲を見渡せば、先も見通せないほどに木々が生い茂っており、辺りは濃い緑の空気に満ちていた。息を吸うと、新鮮な空気で体が満たされていくのがわかる。
それは、街中では絶対に感じることのできない感覚だった。
バスを降りると、濃い緑の空気を感じた。周囲には森の木々が鬱蒼と立ち並び、鳥たちがそこかしこで鳴いていた。空気がしんとして冷たく、少し肌寒かった。
「うわー。寒ーい!」
沙耶ちゃんはバスを降りると、そう言って両手で自分の肩を抱いた。沙耶ちゃんの今日の服装は、白のチュニックワンピースにカーディガンというものだった。長い髪はシュシュでまとめていて、とても可愛い。私服姿の沙耶ちゃんとこうして遠出するのは、なんだかドキ
ドキした。
「本当、結構肌寒いね」
「避暑地だからな。夏は涼しくて気持ちがいいはずだ」
そう言いながら、美周もバスから降りてきた。美周の今日の服装は、白のインナーに黒のジャケット、下はデニムのパンツというコーディネートだ。悔しいが決まっている。
「おお、ホントだ。涼しい」
そう言ったのは相田だ。こちらは若草色のパーカにデニムのショートパンツ、ごつめのトレッキングシューズという出で立ちだ。沙耶ちゃんが一緒に行きたいからということで、今回連れていくことになった。彼女にも一連の事情はすでに話してある。
沙耶ちゃんと相田はクラスで二人きりの女子ということもあって、普段から仲が良い。それに、やはり同性の友人というのはなにかと心強いのだろう。美周も、相田には予知夢の話をすることを了承し、今回同行することになったのだった。
四人が降りると、バスは行ってしまった。ここで降りるのは、僕たちだけだったようだ。
沙耶ちゃんは、なぜか大きなバスケットを持ってきていた。中身が気になるところだ。
「ここからまだちょっと歩くの?」
「少しだけだ。そこに看板が出ている」
美周の示した先を見ると、確かに看板が出ていた。
『秋庭ロッジ この先↓』
秋庭学園の合宿施設は、秋庭ロッジというらしい。意外に安易なネーミングだ。
「ホントだ。じゃあ早く行こう!」
沙耶ちゃんはそう言うと、先に歩いて行ってしまった。なんだかとても楽しそうだ。
「なーんか目的忘れてるね。沙耶。まあ、いいんだけど」
相田は苦笑しつつ、そのあとに続いた。
僕もなんだか楽しかった。沙耶ちゃんの予知夢のことを調べに来たのが目的だが、こうして休日に出かけるという行為自体が、心をうきうきとさせていた。
しばらく歩くと、すぐに大きな建物が見えてきた。
「これが合宿所? 結構立派な建物だね」相田の言葉に、美周が答えた。「まあ財力だけはあるからな」
さすが合宿所とは言っても、秋庭学園と名がついているだけあって、ちょっとしたリゾートホテルのようだった。
「でも今日はここに用があるわけじゃないんだよね。沙耶ちゃんの見た夢の場所を探さないと」
「そうだね。近くに水が流れてるとこないかな」
「少し行けばあるはずだ。とりあえず、行ってみよう」
僕たちは合宿所をあとにすると、周辺の道を散策することにした。
合宿所の周りはまさに森だった。上を見あげると、高い木々の梢が大きく手を広げていた。その隙間からは光がきらきらとこぼれ落ちている。周囲を見渡せば、先も見通せないほどに木々が生い茂っており、辺りは濃い緑の空気に満ちていた。息を吸うと、新鮮な空気で体が満たされていくのがわかる。
それは、街中では絶対に感じることのできない感覚だった。
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