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第三話 流星雨
流星雨3
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会社に出社すると、上司から呼び出された。
「大宮くん。クレームの電話が入ってたんだがね」
厳しい表情でそう言われた。僕の担当する得意先から、クレームの電話があったらしい。上司に頭を下げ、得意先に謝罪の電話をかける。
「はい。ええ。申し訳ありません」
朝からついてない。配達した製品が違っていたらしい。
僕が働いているのは、電化製品などの小さな部品を作っている下請けの会社だ。僕はその会社の営業マンとして働いている。
僕はクレームのあった会社へ、正しい製品を納品に行くために社用車を走らせた。まだ朝ということもあり、道は混んでいた。
相手の会社の人からは、朝一で持ってきてもらわないと仕事が進められないと、お怒りの言葉をかけられた。配達に行ったのは他でもない僕だ。間違いに気づかなかった自分の不注意を呪うより仕方なかった。
せめてすぐに持っていけば、相手の心証も良くなるはずだ。急ごう。
車の少ない県道に入ると、僕は思いきり速度を上げた。カーブにさしかかったが、気にせずそのままの速度で入っていった。
しまったと思ったときには遅かった。早く行かなければと、僕は焦っていた。そんなふうに頭の中はそのことでいっぱいで、だから注意力をなくしてしまっていたのだと思う。
カーブを曲がりそこね、ガードレールに車のボディ側面がぶつかった。急いでブレーキをかけるが、車はすぐには止まらず車体の左側を擦りながら滑っていく。目の前に電柱が見えたと思った次の瞬間、強い衝撃があり、僕の体は車体に思い切り打ちつけられていた。すぐに目の前が真っ暗になり、僕は意識を失った。
*
気づいたとき、僕は真っ暗な中にいた。
どこにいるのか、まったくわからなかった。見渡す限り、闇が続いている。上も下も左右のどこを見ても、なにも見えなかった。
僕はどうしてしまったのだろうか。
ふと記憶を辿る。
さっきまで僕は車を運転していたはずだ。スピードを上げすぎてしまい、カーブを曲がりきれずガードレールにぶつかり、そして電柱に激突した。
ということは、僕は死んでしまったのか?
では、ここは死後の世界だということだろうか。
僕は改めて周りを見渡す。なにも見えない。なにも聞こえない。真っ黒な世界。
なんて寂しくて恐ろしいんだろう。
こんな世界に、僕はいつまで居続けなくてはいけないんだろう。もう死んでしまったのだから、ずっとここにいなければいけないのだろうか。
永遠に?
恐ろしい絶望感が、僕を支配していった。
嘘だ。嘘だ嘘だ。
もう、戻れないのか?
あの世界にはもう二度と戻ることはできないのか?
本当に僕は、死んでしまったのか?
閉ざされた闇の世界。ここにはなにもない。あるのはただ闇。無の世界。
ああ。優星。真知。
君たちにもう会えないのだろうか。
父さん、母さん。息子が先に死んでしまうなんて、思いもしなかったろうな。
こんなことになるなら、もっといろいろなことがしたかった。親孝行ももっとしておくべきだった。
ああ。生きたかった。もっともっと生きていたかった。
僕は自分自身を抱きしめるように、丸くなって膝の間に顔を埋めた。
ちっぽけな、平凡な人間だったけれど、僕は自分自身が好きだった。星が好きで、勉強やスポーツをするよりも、空を見ていることのが多かった。仕事もミスが多くて怒られてばかりいたけど、僕なりに一生懸命だった。家族には不満もあっただろうが、僕は家族を愛していた。
そんな人生を、僕はそれなりに愛していたのだ。哀しいことやつらいこともあった。人生を投げ出したくなるような思いをしたことだってあった。だけど、投げ出したりしなかった。
生きたかったから。まだ、やりたいことがあったから。
まだ、死にたくなんか、なかったのに――。
「大宮くん。クレームの電話が入ってたんだがね」
厳しい表情でそう言われた。僕の担当する得意先から、クレームの電話があったらしい。上司に頭を下げ、得意先に謝罪の電話をかける。
「はい。ええ。申し訳ありません」
朝からついてない。配達した製品が違っていたらしい。
僕が働いているのは、電化製品などの小さな部品を作っている下請けの会社だ。僕はその会社の営業マンとして働いている。
僕はクレームのあった会社へ、正しい製品を納品に行くために社用車を走らせた。まだ朝ということもあり、道は混んでいた。
相手の会社の人からは、朝一で持ってきてもらわないと仕事が進められないと、お怒りの言葉をかけられた。配達に行ったのは他でもない僕だ。間違いに気づかなかった自分の不注意を呪うより仕方なかった。
せめてすぐに持っていけば、相手の心証も良くなるはずだ。急ごう。
車の少ない県道に入ると、僕は思いきり速度を上げた。カーブにさしかかったが、気にせずそのままの速度で入っていった。
しまったと思ったときには遅かった。早く行かなければと、僕は焦っていた。そんなふうに頭の中はそのことでいっぱいで、だから注意力をなくしてしまっていたのだと思う。
カーブを曲がりそこね、ガードレールに車のボディ側面がぶつかった。急いでブレーキをかけるが、車はすぐには止まらず車体の左側を擦りながら滑っていく。目の前に電柱が見えたと思った次の瞬間、強い衝撃があり、僕の体は車体に思い切り打ちつけられていた。すぐに目の前が真っ暗になり、僕は意識を失った。
*
気づいたとき、僕は真っ暗な中にいた。
どこにいるのか、まったくわからなかった。見渡す限り、闇が続いている。上も下も左右のどこを見ても、なにも見えなかった。
僕はどうしてしまったのだろうか。
ふと記憶を辿る。
さっきまで僕は車を運転していたはずだ。スピードを上げすぎてしまい、カーブを曲がりきれずガードレールにぶつかり、そして電柱に激突した。
ということは、僕は死んでしまったのか?
では、ここは死後の世界だということだろうか。
僕は改めて周りを見渡す。なにも見えない。なにも聞こえない。真っ黒な世界。
なんて寂しくて恐ろしいんだろう。
こんな世界に、僕はいつまで居続けなくてはいけないんだろう。もう死んでしまったのだから、ずっとここにいなければいけないのだろうか。
永遠に?
恐ろしい絶望感が、僕を支配していった。
嘘だ。嘘だ嘘だ。
もう、戻れないのか?
あの世界にはもう二度と戻ることはできないのか?
本当に僕は、死んでしまったのか?
閉ざされた闇の世界。ここにはなにもない。あるのはただ闇。無の世界。
ああ。優星。真知。
君たちにもう会えないのだろうか。
父さん、母さん。息子が先に死んでしまうなんて、思いもしなかったろうな。
こんなことになるなら、もっといろいろなことがしたかった。親孝行ももっとしておくべきだった。
ああ。生きたかった。もっともっと生きていたかった。
僕は自分自身を抱きしめるように、丸くなって膝の間に顔を埋めた。
ちっぽけな、平凡な人間だったけれど、僕は自分自身が好きだった。星が好きで、勉強やスポーツをするよりも、空を見ていることのが多かった。仕事もミスが多くて怒られてばかりいたけど、僕なりに一生懸命だった。家族には不満もあっただろうが、僕は家族を愛していた。
そんな人生を、僕はそれなりに愛していたのだ。哀しいことやつらいこともあった。人生を投げ出したくなるような思いをしたことだってあった。だけど、投げ出したりしなかった。
生きたかったから。まだ、やりたいことがあったから。
まだ、死にたくなんか、なかったのに――。
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