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本編

相棒チャンス

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とりあえずその場で止まっていると、亀はゆっくりだが確実に自分に近づいてきてくれている事に気がついた。
コレは間違いないと思う。
亀は獣だ。
しかもフリーかも知れない。
もしかしたら自分に相棒チャンスが巡って来たのでは無いだろうか。
ここで亀に気に入って貰えれば、騎士団に入る事が出来るのだ。
入団はまだ先になるだろうが、相棒はいつ出来ても問題ないだろう。

「にいしゃま、カメちゃん、くりゅよぉ」
「そうだね。ルシーに挨拶しに来てるんじゃないかな」

そうだったら嬉しい。

「珍しい…ここに住み着いていた事も知らなかったが…」

ふむふむ。
と、いうことはやっぱりあの亀にはまだ相棒がいない可能性が高い。

しかも自分に近づいてきてくれているのだから、試験を受ける資格を得たと思って間違いないだろう。
出来れば、簡単な試験にしてもらいたいが戦闘系だったらどうしよう。
現在、自分には攻撃手段が全く無い。
しかも、防御手段も無いので戦闘系の試験だと記念受験の様になってしまう。

だが、もし一緒に泳ごうと誘われたとしてもそれはそれで無理だ。
チャレンジしてみても良いが、溺れる事を想定して誰か補助に入ってほしい。
果たして自分にクリアできる試験はあるのだろうか。
ジッと亀を見つめて言葉を待つ。

…おかしい。
亀はもう目の前で、自分を見上げているのだが一向に喋りかけてこない。
もしや声が小さくて聞き逃したのかと思い、亀の顔に耳を寄せてみたのだが、無音である。
自分にはテレパシー的なものは備わっていないし、アイコンタクトで分かり合えるほどの理解力もないのだ。

「カメちゃん、あいぼう、ちがう?」
「待って、ルシー。多分、この亀さんは挨拶に来ただけで、相棒にはなれないと思うよ」

何故だ。
せっかくフリーの獣に出会えたのに、受験資格は最初から無かったということなのか。
喋りかけてもらえなければ、いくら待っても試験は開始されない。

「にゃんで?ぼく、ダメ?」

嫌だ、諦めきれない。
フリーの獣に出会えるチャンスは滅多にないのだ。
この機会を逃してしまったら、ギル兄様と同じように5歳までには相棒を見つけたいと思っているのに、また一歩遠ざかってしまう。

亀よ。
頼む。
何か語りかけてくれ。

「…ルシー、ソラがね、通訳してくれって…。この亀さんはね、相棒を持つつもりは無いんだって。でも、ルシーと一緒に遊びたいからお友達になりたいんだって言ってるよ」

終わった。
初めての相棒チャンスは、舞台に立つことも無く幕が降りたのだった。
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