43 / 195
本編
ハゲたくない
しおりを挟む「止まれ!カルファ!」
ルイが馬に向かって叫びながら、剣を鞘に入れたまま構える。
このままでは、あの馬かルイが怪我をしてしまうだろう。
だが、自分は明らかに戦力外だ。
邪魔にしかならない。
出来る事は、ルイの時と同じだ。
全力で叫んでみよう。
「とまっちぇぇぇ。カルちゃ!」
馬が止まった。
「おい、嘘だろ。…カルファもかよ」
ルイが胡乱な目で見て来るが、あの馬とは初対面だ。
馬は嬉しそうに前脚を高く上げ、カッコよくブルルッと鳴いた。
そのままゆっくりと近付いてくるが、先程までの荒ぶった様子は無く、落ち着いた貴公子然とした佇まいだ。
馬の相棒と数人の団員が追いついた頃には、馬は何故が自分の髪をはむはむしていた。
「カルちゃ、やめてぇ。ハゲちゃうの」
熊の背に乗ったままだが、隣の馬は気にせず髪を毟りにくる。
「…副団長、コレはいったい」
「そのコロポックルの加護かなんかですか?」
「シーザーが団長以外を背に乗せるなんて…」
「あの花って、神鳥以外摘めない幻の花だろ。髪に飾ってるぞ」
「カルファってあんなに穏やかなのか。俺の相棒は暴馬じゃないのか」
「話は全部、団長に報告してからだ」
ルイが疲れた様に大きな溜息を吐いていたが、自分は抜けていく髪が心配で周りが全く見えていなかった。
「団長、ルイです。今、よろしいですか」
「許可する」
熊と鳥と馬と別れ、ルイに抱っこされたままどうやら団長室の前に着いた様だ。
3匹と別れる時は大変だった。
熊の背からルイに下ろしてもらったのだが、すぐさま熊が抱き上げてきた。
そこからなかなか熊が離してくれないのだ。
ルイや他の団員達が声をかけるが完全に無視を決め込んでいた。
鳥や馬も便乗して、自分を動物達の中へ連れ込もうとしている。
自分も出来るならこのまま、動物達の中へ混ざりたいが、団長に会って近くの孤児院に入れてもらえる様にお願いしなければならないのだ。
「シーちゃ、ルアちゃ、カルちゃ。ぼく、だんちょうさんに、あってくるの」
みんなを平等に撫でながら、熊に下ろしてもらう。
熊が名残惜しそうにまた顔中をペロペロと舐めてくるのが嬉しくて、ニコニコしてしまう。
「あとで、ちゃんと、おわかれ、いいにくりゅからねぇ」
「待て!大丈夫だ!なんとか坊主が騎士団に居れる様にしてやるから。シーザー、牙と爪をしまってくれ。ルアンも隊舎が燃えちまう、炎を抑えろ。カルファはその足、なんとかしてくれ、近付けん。」
ルイが他の団員達に獣を落ち着かせる様に指示を出しているが、3匹の迫力が凄すぎて全員及び腰だ。
「俺が絶対、坊主を連れて帰って来てやる!俺が面倒見たっていい!だから、落ち着いてくれ!」
ルイが余りにも必死な為、自分も3匹に声をかけてみる。
「だいじょぶよぉ、すぐ、くるねぇ」
熊のペロペロと馬のはむはむ、鳥のリサイタルを一通り終えやっと解放されたのだった。
87
お気に入りに追加
3,380
あなたにおすすめの小説
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
悪役転生したはずが主人公に溺愛されています
zzz
BL
死んだ。そう気づいて目を開けると、全く知らない世界にいた。
いや、全くと言ったら嘘になる。
俺はこの世界を知っていた。
なぜならここは、俺も開発に携わったゲームの世界だったからだ。
そして俺は主人公である勇者に転生……ではなく、勇者に嫌がらせをし、最終的に殺される悪役に転生していた!
死ぬのはごめんだがケツを狙われるのもごめんなんだけど!!?
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
日本で死んだ無自覚美少年が異世界に転生してまったり?生きる話
りお
BL
自分が平凡だと思ってる海野 咲(うみの
さき)は16歳に交通事故で死んだ…………
と思ったら転生?!チート付きだし!しかも転生先は森からスタート?!
これからどうなるの?!
と思ったら拾われました
サフィリス・ミリナスとして生きることになったけど、やっぱり異世界といったら魔法使いながらまったりすることでしょ!
※これは無自覚美少年が周りの人達に愛されつつまったり?するはなしです
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
華から生まれ落ちた少年は獅子の温もりに溺れる
帆田 久
BL
天気予報で豪雪注意報が発令される中
都内のマンションのベランダで、一つの小さな命が、その弱々しい灯火を消した
「…母さん…父さ、ん……」
どうか 生まれてきてしまった僕を 許して
死ぬ寸前に小さくそう呟いたその少年は、
見も知らぬ泉のほとりに咲く一輪の大華より再びの生を受けた。
これは、不遇の死を遂げた不幸で孤独な少年が、
転生した世界で1人の獅子獣人に救われ、囲われ、溺愛される物語ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる