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本編

ハゲたくない

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「止まれ!カルファ!」

ルイが馬に向かって叫びながら、剣を鞘に入れたまま構える。
このままでは、あの馬かルイが怪我をしてしまうだろう。
だが、自分は明らかに戦力外だ。
邪魔にしかならない。
出来る事は、ルイの時と同じだ。
全力で叫んでみよう。

「とまっちぇぇぇ。カルちゃ!」

馬が止まった。

「おい、嘘だろ。…カルファもかよ」

ルイが胡乱な目で見て来るが、あの馬とは初対面だ。
馬は嬉しそうに前脚を高く上げ、カッコよくブルルッと鳴いた。

そのままゆっくりと近付いてくるが、先程までの荒ぶった様子は無く、落ち着いた貴公子然とした佇まいだ。
馬の相棒と数人の団員が追いついた頃には、馬は何故が自分の髪をはむはむしていた。

「カルちゃ、やめてぇ。ハゲちゃうの」

熊の背に乗ったままだが、隣の馬は気にせず髪を毟りにくる。

「…副団長、コレはいったい」
「そのコロポックルの加護かなんかですか?」
「シーザーが団長以外を背に乗せるなんて…」
「あの花って、神鳥以外摘めない幻の花だろ。髪に飾ってるぞ」
「カルファってあんなに穏やかなのか。俺の相棒は暴馬じゃないのか」
「話は全部、団長に報告してからだ」

ルイが疲れた様に大きな溜息を吐いていたが、自分は抜けていく髪が心配で周りが全く見えていなかった。


「団長、ルイです。今、よろしいですか」
「許可する」

熊と鳥と馬と別れ、ルイに抱っこされたままどうやら団長室の前に着いた様だ。
3匹と別れる時は大変だった。
熊の背からルイに下ろしてもらったのだが、すぐさま熊が抱き上げてきた。
そこからなかなか熊が離してくれないのだ。

ルイや他の団員達が声をかけるが完全に無視を決め込んでいた。
鳥や馬も便乗して、自分を動物達の中へ連れ込もうとしている。
自分も出来るならこのまま、動物達の中へ混ざりたいが、団長に会って近くの孤児院に入れてもらえる様にお願いしなければならないのだ。

「シーちゃ、ルアちゃ、カルちゃ。ぼく、だんちょうさんに、あってくるの」

みんなを平等に撫でながら、熊に下ろしてもらう。
熊が名残惜しそうにまた顔中をペロペロと舐めてくるのが嬉しくて、ニコニコしてしまう。

「あとで、ちゃんと、おわかれ、いいにくりゅからねぇ」
「待て!大丈夫だ!なんとか坊主が騎士団に居れる様にしてやるから。シーザー、牙と爪をしまってくれ。ルアンも隊舎が燃えちまう、炎を抑えろ。カルファはその足、なんとかしてくれ、近付けん。」

ルイが他の団員達に獣を落ち着かせる様に指示を出しているが、3匹の迫力が凄すぎて全員及び腰だ。

「俺が絶対、坊主を連れて帰って来てやる!俺が面倒見たっていい!だから、落ち着いてくれ!」

ルイが余りにも必死な為、自分も3匹に声をかけてみる。

「だいじょぶよぉ、すぐ、くるねぇ」

熊のペロペロと馬のはむはむ、鳥のリサイタルを一通り終えやっと解放されたのだった。
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