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本編

鳥のご乱心

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その間に、鳥は飛び立ってしまった。

「くまちゃの、おやつ」

この優しい熊に恩返し出来るチャンスをみすみす逃してしまったショックで、枯れたと思っていた涙が溢れた。
その涙もペロペロと熊が舐め取ってくれる。

しかし、さっきまで座っていた場所に戻ると、なんと鳥も戻ってきていた。
しかも、クチバシに布に包まれた何かを持っている。
そんなに時間は経っていないのに、何処から持って来たのだろう。

鳥はそのまま座っている熊と自分の前まで飛んでくると、布に包まれた何かをポイと落としてそのまま自分の前に着地した。
さぁ、開けろと言わんばかりに包みを突いている。

「とりちゃ、くれるのぉ」

包みを開けると、木の実や草が入っていた。
食べ物かもしれない。
自分は熊に鳥を捕食させようとしていたのに、鳥は自分に食糧を分けてくれたのだ。
申し訳なさで、また泣いた。

「とりちゃ、ごめんねぇ」
「とりちゃ、ありがとぉ」

鳥は体を左右に揺らしながらピーピーと綺麗に鳴いている。
熊が木の実を割って、食べろと差し出してくれた。

草はよくわからないが、木の実と一緒にあったのだし食べられる気がする。
木の実は熊と鳥に譲り、自分は草を食べると意気込んで口に入れてみたがあまりの苦さに飲み込めない。
しかし、貴重な食糧だ。
無駄には出来ない。
少しでも食べて肉を付け、熊に美味しく食べてもらうのだ。

なんとか飲み込むと熊が木の実を口に入れてきた。
すごく甘かった。
熊も鳥も一切、木の実や草を食べる気配がない。

「みんなも、たべてぇ」

誘ってみるが、鳥はご機嫌に体を揺すりながら鳴いているだけで、熊に至っては自分の口にせっせと木の実を入れてくる。
甘い木の実を食べれば確かに少しは太れるかもしれないが、この小さな木の実でどれほど肉が付くかわからないのだ。
それならば、甘い味を楽しんでもらいたい。
ちょっと汚い気もしたが、口に入れてもらった木の実を吐き出し、熊の口に持って行く。
熊は手に噛み付く事もなく、木の実だけをペロッと食べた。

「くまちゃ、あまいねぇ」

嬉しくなってニコニコと熊に抱きつくと、それまでご機嫌だった鳥がバサバサと翼を動かし、まるで威嚇している様にクアァーと大きく鳴いた。

「とりちゃ、どしたのぉ」

あまりの豹変ぶりに吃驚したが、鳥は一心不乱に木の実を突いている。
しかし、木の実は固く一向に割れない。

「たべちゃいのぉ」

そうか、鳥では木の実は割れなかったのだ。
悪い事をした。
熊が口に入れてくれていた木の実をまた吐き出し、今度は鳥のクチバシへ近づける。

「ごめんねぇ、あまいよぉ」

鳥は威嚇ダンスを止めると、木の実を一口で食べた。
機嫌も治った様だ。

「とりちゃ、これ、どしたのぉ」

森に木の実や草が包んである布が落ちている筈がない。
鳥はきっと自分の為に、何処からか持ってきてくれたのだろう。
空腹だった為、食べてしまったが、盗まれた方には申し訳無い。
この草も生えていない森の中で、こんなに沢山の木の実や草を包んでいたのだ。
きっと大切な物だったと思う。
少し減ってしまったが残りはお返ししようと、包み直していると大きな声が聞こえた。
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