上 下
285 / 330

269 カッターナの日常②(竜の森)

しおりを挟む
 防壁の上でのひと騒動が終わる頃には、二体の戦闘が終わっていた。あの後、キレた斬竜さんに、ゴドウィンさんはぼろくそにやられたようですね。

 物言わぬ肉塊となったゴドウィンさんの周りに、防壁の麓で大きな袋を持って居た人たちが集まっていた。
どうやら彼等の目的は、二体の戦闘跡に残された竜の素材の様ですね。放置して腐りでもしたら、悪臭と呪い瘴気の発生源になりますし、皆さんの収入源にもなって、一石二鳥って訳ですか。

 ゴドウィンさんは……まぁ、プルさんも引っ付いていますし、万が一も無いでしょう。
斬竜さんの方は……

「シュロロロロロロ」

 ……ゴドウィンさんに殴られたのが癇に障ったのか、その原因である俺を、離れた所から不機嫌そうに睨んで、苛立ち気に地面に向けて刃状の尾を何度も突き立てている。
 元気そうなのは分かったので、刺激しない様にしましょう。無理に接触する必要も無いですし、お話はあの子にしておけば良いですもんね。うん!

 そのまま進み、竜達の魔力を吸って新しくできた森へと足を踏み入れる。

「噴竜さ~ん。お元気ですか~?」
「お~い、ぼちぼちだぞ~」

 森に入ってすぐに、赤茶色の巨体が視界に入る。声を掛ければ、ぐで~としたやる気のない声が返される。相も変わらず調子が悪いようですね。

 魔力濃度が低い人里は、とてもでは無いですが、噴竜さんレベルの魔物が常駐できる場所では無いですからね~。特に吐竜系統は、魔力を圧縮し吐き出す事に特化した種なので、体内で魔力を圧縮するならともかく、維持する<帯魔>とかのスキルと相性がとても悪い。

 <帯魔>この手のスキルが無いと、魔物は自身の魔力濃度より低い場所で活動できない。体内の魔力が、漏れ出し続ける事になる為だ。それは噴竜さんも変わりない。

 ですが、スキルを習得できれば生物同様、周囲の魔力濃度に左右されず、体内の魔力濃度を一定に保つことができる。レベルによって限界は有りますが、上限いっぱいまで上げれば、生物と変わらない範囲を活動できる。

 寧ろ魂は、<帯魔>スキルと同じ構造を備えていると考えるのが妥当でしょうか?

「大丈夫ですか?」
「今の<帯魔>スキルレベルが8だから、本当、もうちょいなんだよ」

 そして、上限まで上がったスキルを所持した状態で進化すれば、<鑑定>の結果からは見えなくなるが、スキルを習得した状態の性能を維持できる。

 スキルは、魂や魔石の表面にできたマメやコブの様なものだ。その為、表面積分のスキルしか習得できず、所持数には限界がある。だが進化すると魔石は成長し、完全に成長し切ったスキルは、表面に残る事無く、成長する魔石に取り込まれ、その魔物が本来持つ性質となる。それは<鑑定>で見られなくなるだけでなく、そのスキル分、新しいスキルを習得できる範囲が増えると言う事でもある。狙わない手は無いでしょう。

 この考えの優良性は、ビャクヤさんによっても証明されている。進化できるときにすぐに進化していたら、あんな馬鹿げた性能にはなっていなかってでしょうね。

「体質に合わないなら、無理しなくとも良いと思うんですがね」
「まぁ、他のスキルも、上限行ってないのが有るから、地道にやろうかなっと」

 担っている役目によって条件は変わりますが、今後活動範囲が広がることを考え、特定のスキルの取得が、進化の最低条件となっている。

 俺的には、無理な子には長所を伸ばす感じで、条件ではなく推奨程度で良いのではと思っているのですが……他の子が良しとしないんですよね。自主的にやっている子が大半なので、俺もあまり強く言えないですし、萎えさせる様な事を言うのは本意ではないのです。

「それより目下の悩みは、斬竜だな」
「斬竜さん?」
「斬竜の方はもう進化出来るんだけどさ、律儀に俺の事を待ってる感じなんだよ」
「あらぁ……仲がよろしいことで」
「いや、うん、そんなんじゃ無いんだよな」
「おん?」
「進化したら、ぜってぇルナの姉御の相手をさせられる。それも、他が居ないから、一体で……」
「おぉう……」

 悲惨な未来を想像して、遠い目になる噴竜さん。
 成る程、強く成る事は、ルナさんのアイデンティティですからね。手頃な相手を常に欲している……なので、うん、申し訳ないが力になれそうにない。ごめんね。

「あー、それで、何しに来たんだ? 様子見だけか?」
「あぁ、そうそう忘れる所でした。ちょっと喧嘩を売られましてね?」
「喧嘩だぁ? どこの自殺志願者だよ」
「イラです」
「あぁ、イラか了解」

 その内攻めてくるかもしれないと迎撃準備をお願いすると、すぐに了承してくれた。それまでは、今まで通りで良いらしい。生活自体は何ら困って無いとの事。

 飯とかは? え? 街の人から貰ってんの? 何で? お礼? ま、まぁ、仲良くやっているなら、全然かまいませんが……。

「あ、でも一回帰りたいかな」
「そりゃまた何故で?」
「小耳にはさんだんだけど、訓練施設の中に無魔力室って有るらしいじゃん? それ使ってみてぇ!」
「……君も大概、ルナさんと同じ穴の狢ですね」

 俺の発言に対し、当竜は不満が有るのか半目を向けて来る。そんなにルナさんと同じ扱いが嫌ですか? 程度の問題? 感覚が壊れているのかな? 程々にして下さいね?

 しかし、移動となるとちょっと考えないといけませんね。街中の<門>は物理的な大きさもあって使えないですし、手頃なところが近くになれば良いのですが……。

「……あの穴は?」
「あれか? 俺の寝床」

 そんな事を思いながら近くを見渡せば、手頃な大きさの穴が地面に開いているのが目に入った。

 ほうほう……ほうほうほうほう。竜が作った巣穴ですか。魔力がたっぷり染み付いた穴ですか。出入口は噴竜さんの体格と同程度の大きさですが、内部はそこそこ広くて深い、とっても大きい穴ですか。
 色んな魔物が住み着いていても、何らおかしくないですね~。魔物が出入りしても、おかしくないですね~。最悪ダンジョンに成っても、おかしくないですね~。


―――


 地平線が夕焼けに染まるころ……森の様子の確認がてら散歩をして時間を潰していると、噴竜さんの巣穴から、赤茶色の巨体が姿を現した。

「お帰りなさい、噴竜さん。問題ないですか?」
「おう、いや~<門>って便利だな。俺らが飛んだら一日は掛かるのに、一瞬だもんな。気分が良いわ!」

 当然の事ながら、穴から出て来たのは噴竜さん。魔力不足で気だるげだったのが、魔力に満ちた迷宮に帰った事で体調も戻った様ですね。

 今回、噴竜さんの巣穴の奥の方に、<門>を設置させてもらった。それを使い、先ほどまで【世界樹の迷宮】に戻って、たった今帰ってきたところになる。

 これで、大型の魔物でも、従魔に偽装していない魔物でも、ここから迷宮まで自由に行き来できる。視界を遮る森って立地も良いですね、使い勝手は良さそうだ。後で使い心地を、他の利用者にも確認しておきましょう。ダメなら、他の方法を考えないといけませんしね。

「それで、成果の程はどうでしたか?」
「レベル9に上がったわ、サンキュー主!」

 おぉ、上がりましたか。それは重畳。

 高レベルのスキルのレベルは、そうそう上がらない。それは、努力でどうにかなるものでは無く、必ずと言ってよい程、どこかしらで躓く事になる。

 何もしなくても成長と共に、大抵のスキルは5レベル位まで上がる。ですが、何処かで新しい事……今までの生活の中で、必要とされなかった何か切っ掛けが無ければ、それ以上にはならない。
 散々努力して痛めつけて、それでも上がらなかったレベルが、何気ない事で上がる事が有る……5レベルが壁と呼ばれる所以だ。

 噴竜さんは、身を置く周辺の魔力濃度の低さが……体内の高濃度の魔力が、濃度の薄い外へ溢れ出そうとするのを留める経験が足りなかったのでしょう。地力は出来上がっているので、きっかけさえあれば、後はアッサリである。

 この子達の進化も、そろそろかな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!

ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生! せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい! 魔法アリなら色んなことが出来るよね。 無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。 第一巻 2022年9月発売 第二巻 2023年4月下旬発売 第三巻 2023年9月下旬発売 ※※※スピンオフ作品始めました※※※ おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~

ただ君の顔が好きである【オメガバース】

さか【傘路さか】
BL
全10話。面食いを直したい美形アルファ×表情薄めな平凡顔オメガ。 碌谷は地域主催のお見合いパーティに参加した折、美形ながら面食いで、番ができないため面食いを直したい、と望んでいる有菱と出会う。 対して碌谷はというと、顔に執着がなく、アルファはみな同じ美形に見える。 碌谷の顔は平凡で、表情筋の動きだって悪い。そんな顔を見慣れれば面食いも直るのでは、と提案を受け、碌谷は有菱の協力をすることになった。 ※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。 無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。 自サイト: https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/ 誤字脱字報告フォーム: https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

処理中です...