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159 竜王とダンマス③(お仕置き)

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「ふー、ふー、ふー……くく、くくくくくく!」

一通り叫んで落ち着いたのか、周りを見渡して何を思ったのか、我が意を得たりと言わんばかりに、醜悪な顔を晒すトカゲモドキ。

うん、内面は顔に出るとは聞きますが、内心と性格の醜さが表情ととてもマッチして、違和感がありませんわ。実に気色悪い。

「この障壁を解除しろ。さもなくば、この下劣なメスを、八つ裂きにする」
「はぁ……まぁ、頑張れ?」
「は?」

予想外の回答だったのでしょう。間抜面を晒したまま固まって仕舞った。

「いいのかい? この障壁、維持費とか掛ると思うけど」
「まぁ、出て来られる方が面倒ですからね、自力で脱出も無理な様ですし、取り敢えず放置で。処分の方法は、後でも良いでしょう」

そもそも、竜王様が気にする程、維持にコストも掛かりませんしね。放置で良いでしょう。

「成る程…貴様、どうやら捨てられたようだな~?」

ルナさんの方へ振り向き、嫌らしい笑みを浮かべるトカゲモドキ。そして、そんな姿を見て怪訝な顔をするルナさん。うん、本当に何言っているんでしょうね?

「俺様を閉じ込めておくために、障壁を解除しないそうだ。つまり、貴様は見捨てられたのだよ。そんな事も分からないとは…これだから馬鹿は」
「体格差を考えて下さいまし。貴方が通れない程度の穴を通れば、簡単に出ること位できますわ。そもそも、なぜわたくしがこの場から移動せねばならないのかしら?」
「どうやら、頭のできまで残念なようだな。穴が在ったとして、逃がすとでも思っているのか? それとも死にたがりか? アァ˝!?」
「はぁ…これが愚か者と言う存在なのでしょうね。少しは実力差を見極められないのかしら、野生の魔物以下ですわね……見るに堪えませんわ」

無言でルナさんに飛びかかるトカゲモドキ。
本能で行動しているだけに、反応がちょっと前の、汚染されていた頃のゴドウィンさんと同じですね。キレた竜族とは、皆こんな感じなのでしょうか?

振り上げた腕が、ルナさんを叩き潰すかのように振り下ろされる。
あ~あ~、あんな大振り、躱してくださいと言っている様なもんですね。幾ら強かろうと、速かろうと、当たらなければ意味が無いのに。

完全に間合いを把握しているのか、当たる直前に翼を前へ押し出すことで後ろへと下がり、鼻先擦れ擦れで回避する。通り過ぎた爪は、そのまま地面へと叩きつけられ、土煙が舞う。

反対の手で追撃を掛けようと振り上げている隙に、今度は後ろへと翼を押し出す事で、一気に間合いを詰める。まさか向かって来るとは思っていなかったのか、その顔は驚愕に染まる。
懐へと入ったルナさんは、その勢いのまま前転。長い尾が、真っ直ぐ眉間へと吸い込まれていく。

 ― ペチン -

 反射的に目をつぶり、体を強張らせるトカゲモドキに対し…魔力の籠って居ない尾が叩き付けられた。うん、良い音。

「……は?」
「……プ!」

 何が起きたか分からなかったのか、惚けた顔を晒すトカゲモドキの姿を見て、既に距離を取っていたルナさんは、見下すようにわざとらしく噴き出して見せる。

「ウギギャーーーー!! ガァ! イギィッィィイィ!!!」
「ス~~~~……フーゥ!」

 漸く、おちょくられたことに気が付いたのか、理性の欠片も無く飛びつくトカゲモドキ。それに対して、ルナさんは冷静に呼吸を一つ付くと、その場から動かず、真正面から迎え撃つ姿勢を取る。
横薙ぎに振るわれる爪を、上半身を逸らしぎりぎりで躱す。魔力で間合いを伸ばせば届いたかもしれませんが、そんな事を考えるだけの理性も無いみたいですね。もしくはできないのかな? …有り得そうですね。

今度は反対の腕を、斜め下から救い上げる方に振るうが、体を捻り、爪の間を背面飛びの様な体勢ですり抜ける。翼は、体を包む様に折りたたんでいるので、邪魔にはなっていない。
距離的に当たったと錯覚したのか、手応えが無かった事が予想外だったらしく、勢いを殺そうと体を捻るも、殺し切れずに踏鞴を踏んでしまう。

呆れた様な表情で見つめるルナさんに対して、振り上げた腕とは反対の拳へと魔力が集中する。そのまま捻った体から反動をつけて、真上から地面へと拳を叩きつける。
技もへったくれも無い、威力だけを考えた感情任せの攻撃。そんな隙だらけの状態を見逃す程、うちのルナさんは甘くありません。

爆発するかの様に一気に間合いを詰め、懐へと潜り込む。

拳に魔力が集中している為、他の部分、足腰の踏ん張りが足りていないのか、軌道修正ができずに、そのまま何もない地面を叩きつける。しかも、その衝撃が自身も向いたのか、腰が浮き、つんのめる様に動きが止まる。

そんな、無防備状態なトカゲモドキの顔に詰め寄るルナさん。

「ギ!?」
「にひ」

― ペチペチペチペチ ―

魔力の籠っていない尾で、ぺちぺち小突き回すルナさん。ダメージは無いでしょうが、うざったい事この上ないでしょうね~。

「アァ˝!! アァ˝!! アァ˝ァァァァア˝アァァ˝!! 」
「鬼さんこちら~、手の鳴る方へ~」

その後も、発狂したように爪や尾が、出鱈目にルナさんに向けて振るわれるが、その全てがギリギリで躱される。当たりそうで当たらない、その状況が余計に苛立ちを駆り立て、更に大振りになって行く。
思い通りにならない現状に、とうとう地団駄まで踏み出した。

「癇癪を起した子供じゃ無いんだから……」
「あはは…まぁ、見ての通り、滅多な事では当たらないと思うので、ご安心ください」

とうとう竜王様が、頭を抱え出した。元とは言え、身内がこれは恥ずかしいですよね。

「アハ! アハハ! …アハハハ、ハハ!!」

うん、ルナさんも楽しそうですね。挑発をかねて、わざと笑っているんでしょうけど。

一連のやり取りを見て、ルナさんなら問題なく捌ける程度の実力と判断する。放置しても大丈夫そうなので、のんびり見物しながら話をしましょうか、ようやく本題に入れますよ。

「えー先ずは、此度の訪問の目的を伺っても?」
「あ、ああ。そうだね…先ずは挨拶かな? 後は…そちらがどのような存在か知りたかった。エレンの話を聞いても、そちらの事を想像できない者が多くてね。馬鹿な事を起こす前に、知って貰いたかった……の、だけどね…はぁ」

知る前に、行動を起こして仕舞ったと。情報なしで良く行動する気になれますね。勇気と無謀は違うというのに。
まぁ、トカゲモドキはもうどうでも良いですね。せいぜいお仕置きを兼ねて、ルナさんの玩具になっていて貰いましょう。

それよりも御挨拶…友好関係の構築とは、願ったり叶ったりですね。ご近所付き合い、とっても大事。

「本当は、先にでも予定を聞くべきだとは思うが、少しでも早く訪れるべきだと判断したものでね。直接伺わせてもらった」
「いきなりなのは、いつもの事ですからね、気にしていませんよ。寧ろ、セスティアさんが前もって訪ねて下さっただけでも十分です」

実際、連絡手段が乏しいと思われるこの世界で、他人からの事前連絡など期待していないですからね。

「悪いね。なんせ遅れる理由も無いのに、集まるのに10日近く掛かる連中だからね、再度招集すると考えたら、何時になるか分かったものでは無かったのさ。少しでも早く接触するべきなのは、招集の際の概要で大体分かるだろうに。しかもその割に、ここまで来るのにそれ程時間も掛からなかった…集まるまでの時間、一体何をしていたんだろう…ねぇ?」

竜王様が向けた視線に、一部の方が、気まずそうに視線を逸らす。成る程、あの方たちですか、覚えておきましょう。

しかし、そこまで急ぐような事でしょうかね?  しかも使いの者だけでなく、トップが対応とは、重要視しすぎでは?

「そりゃぁそうさ! なんてったって、一ヵ月そこらでこれだけ大きくなる相手だよ? 少しでも早く接触するべきなのは、当然じゃ無いか。相手によって、接し方も考えなければならないしね」
「そんなに早いですか?」
「うん、異常な速度だね。だからこそ、早めに接触しておきたかった。あぁ、牽制とかでは無いよ、無用なトラブルを避けるためと、お互いの利益の為さ。他の者に、抜け駆けをされない為でもあるけどね」

警戒させない為か、ウインクしながらおどけた様に締めくくる。
まぁ、成長速度については、色々な要因が重なった結果ですけどね。特に領域の拡張に、コストが殆ど掛からなかったのがデカい。そうでなければ、未だに燻ぶっていた、もしくは詰んでいた可能性がありますからね。

しかし、意外でしたね。エレンさんの話では、できた方とは聞いていましたが、竜族の王が格下に対して、利益や相手への配慮を気にして話をするとは…もう少し尊大な態度で来るかと思っていました。実際それだけの力はあるようですしね。

う~ん、威圧的なわけでもなく、威厳が無い訳でもない、しかもちょっと茶目っ気が垣間見える……やべぇ、久しぶりに掴めない感じの方だ。含みのある感情が無いから、素なのでしょうけど。

まぁ、価値観が人に近いのは有り難いですね。力こそ全てとかの方だと、性格が良くても、対応を考えないといけませんからね。
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