上 下
144 / 330

136 現世でチートを持っても碌な事にならない

しおりを挟む

俺の事ですか? う~ん、そんなの聞いても、楽しくないと思いますよ? ……そんなに興味あります? 自分だけずるい? そんな事言える立場ですか? ……仕方ないですね。

俺が生まれた場所は、地球の日本って島国です。
父母姉、そして俺の四人家族。家庭は可もなく不可もなく、普通の家庭だったと思いますよ。

生れてから数年は、問題なく過ごして居たと思います。おかしくなったのは……おかしい事に気が付いたのは、小学校に入る前だったから、5~6歳頃かな?

その頃の俺は、周りの人の“様子を見て”、その人が喜ぶように話しかけたり、動いたりしていました。
何故って? 喜んでもらえればうれしい、その程度の理由だったと思います。そもそも、理由とか考えていませんって。

たまに関わる人なら、気の利く子供で済みましたが、近くに居る母親はそうではなかった。
初めの頃は、周りと同じ反応で喜んでくれていた。だけど、それが何回も何日も続けば、疑問に思う、疑問は不信に変わる。

始めは、本当に小さなものだった、それこそ違和感程度のモノ。
見えると言っても、それが何を意味しているかなんて、初見では分からない。だけど、それが良いものか悪いモノかぐらいは、何となく分かる。

どんどん大きくなってくる、俺に向けられる負の感情。更にそこに、怯えや恐怖の感情が募ってくる。
その理由が分からない俺は、如何にかその感情を払拭しようと、余計に干渉することになる。自分が原因だなんて、分かって無かったですからね。だって、こちらに接するとき、いつも普通の表情でしたから。

え? 自分が原因である事に気が付くとか、無理でしょ。物心つく前から見えていたんです。当時の俺にとって、この状況が当たり前、普通の事だったんです。普通の事を、疑う理由は無いでしょう?
俺も子供でしたからね、疑うことも無く、その情報を元に行動しましたとも。

そして、限界が訪れる。
その感情が表に、表情に、言葉に現れた時、その感情が何なのかを知った。
自分が原因であることを知った俺は、母から距離を置くことにした。近づくだけで、不信と嫌悪を向けてくるようになって仕舞いましたからね。暫く時間をおいて、改めて話をしようと思ったんです。

でも、その機会が訪れる事は無かった。

父の急な転勤、家族は、当時小学1年生だった俺を置いて出て行った。理由は聞いていない。まぁ、母親の精神状態が理由でしょうけど。

家政婦は居ましたけど、午前中だけで殆ど会うことは無い。実質独り暮らしですね。
学校側は、母が残っていると思っていたらしいですし、家政婦の方も、午後には家族が戻っていると思っていたらしい。家政婦は、俺の生存確認の為に置いて行ったのでしょうね。

父は仕事人間で、殆ど話した事が無かったですし、母には近づくわけにはいかなかった。
まぁ、必要な書類等は出してくれていましたし、そこまで不便は無かったですがね。

寂しい? 寂しいですか……考えたことも無かったですね。寧ろ人が誰もいない時間ができて、少し気が楽になっていた気がします。何だかんだ、気疲れしていたんでしょうね。

生い立ちはこんなもんでしょうか。

あ、見える感情については、学生生活の中で大体把握しました。
一般の人は、他人の感情が見えない事を含めてね。他人の行動を見ていたら、分かりますとも。
虐めで、加害者側が遊んでいただけですとか言った時、理解できなかったからね。周りも、それで済ませていましたし。

それからは、適度に察知して、面倒ごとにならない程度に指摘して、ちょうどいい塩梅を掴んでいきました。

社会に出てからも、それは変わらない。まぁ、これのお陰で、顰蹙を買うようなことを避けられたのは、良かったかな?

それも有って、かなり速く出世したと思います。周りへのフォローが大変でしたけど。
……出世したかった訳では無かったんですがね~。

就職して数年後には、新人の教育係を任された。相手は御得意様の所の息子さん。その親御さんとも面識がありましたし、その人からの指名もあっての抜擢だった。

うん、まぁ良い子でしたよ? 真面目でしたし、やる気も在りましたしね。でも、ちょっと適当な所があって、カギの閉め忘れとか、サインの書き忘れが多かったですね。何度言っても治らなかったし、本人も真剣に捉えていなかった。

そんなある日、とうとうやらかした。
出社して、顔を合わせてすぐに分かりましたとも。顔にも感情にも出ていましたから。

何があったか聞いても、何でもないとしか言わない。俺自身、思い当たる事が無い。彼の性格から、何かの管理等は任せていませんでしたからね。個人的な事かと思い直し、その日はそのまま仕事に移った。

そこで、脅してでも吐かせれば良かったんですよね~。次の日、俺は会社の金を横領したとして、会社側から訴えられた。

告発はその新人君……と、それを唆した同僚ですかね? 感情を見た限り、そうだと思いますよ?
その同僚、俺の出世を妬んでいましたからね。めんどうだから放置していましたけど。部署も違うし、話すことも無いのに、そこまで干渉するのも変でしょ?

そこからは速かったですね~。
内容は、会社の金を不正使用。目的は、借金の返済。
あ、覚えはないですよ? そもそも、借金とかした事なかったですし、それ位の額なら、返済できるだけの貯蓄在りましたし。

詳細は、俺が新人君に命令して、会社の金を引き落とし、渡したって事になっていた。
その金の行き先の確認者として、同僚が一緒に告発したらしい。

その二人の証言が重要視されて、碌に捜査もしなかったんじゃないですか?
真面目に話を聞かれることも無く、有罪判決が出ましたね。弁護人も、示談しか進めませんでしたし、俺の話を一切信用していませんでしたからね。

えぇえぇ、初めて、殺意ってものを覚えましたよ。関わった連中の事は、全部覚える位には。
ちなみに告発した同僚、借金で首が回らなかったらしい。俺を告発してから、羽振りが良くなったみたいですけど。
ん? えぇ、調べましたとも……その後? さぁ、どうなったんでしょうね~? ふふふ。

その後は、数日警察に拘留されていました。あそこは~、そうですね、肥溜でしょうか?
まるで、穴と言う穴に、汚物を流し込まれているかのような状態。
犯罪者扱いに、決め付け、侮蔑、軽蔑、何よりもそんな感情を抱きながら、俺は味方ですよ~と近づいてくるクズ。吐き気しか無かった。

まぁ、金払って、その件は終わりになりましたけどね。

その頃からでしょうかね~、他人の感情が見えるだけでなく、音や嗅覚でも判断できるようになったのは。
今までは、視界にさえ入れなければ良かったですが。その頃からは……もう無理でしたね。
他人に近づくだけで、不快感しか無かった。視界に入れるなんて、苦痛しか無かったです。

そこからは、如何にかこの感覚を消せないか、抑えられないか模索することになる。
結果としては、相手や周りへの興味を無くせば、抑えられることに気が付いた。

後はまぁ、知っての通りですね。バイトを転々として、犯罪者でも関係なく雇ってくれるところに就職。内容はブラックでしたけど、データを入力するだけの、人と一切関わらなくていい場所に配属して頂けました。会社がブラックだとしても、社員がブラックとは限りませんからね、当時の人事担当者には感謝しています。

大体こんなもんですかね? ね、面白くなかったでしょ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

伯爵令嬢に婚約破棄されたので、人間やめました

えながゆうき
ファンタジー
 うー、ダイエット、ダイエットー!  子爵家の庭を必死に走っている俺は、丸々太った、豚のような子爵令息のテオドール十五歳。つい先日、婚約者の伯爵令嬢にフラれたばっかりの、胸に大きな傷を負った漆黒の堕天使さ。髪はブロンド、瞳はブルーだけど。  貴族としてあるまじき醜態はすぐに社交界に広がり、お茶会に参加しても、いつも俺についてのヒソヒソ話をされて後ろからバッサリだ。どっちも、どっちも!  そんなわけで、俺は少しでも痩せるために庭を毎日走っている。でも、全然痩せないんだよね、何でだろう?  そんなことを考えながら走っていると、庭の片隅に見慣れない黒い猫が。  うは、可愛らしい黒猫。  俺がそう思って見つめていると、黒い猫は俺の方へと近づいてきた! 「人間をやめないかい?」 「いいですとも! 俺は人間をやめるぞー!!」  と、その場の空気に飲まれて返事をしたのは良いけれど、もしかして、本気なの!? あ、まずい。あの目は本気でヤる目をしている。  俺は一体どうなってしまうんだー!! それ以前に、この黒い猫は一体何者なんだー!!  え? 守護精霊? あのおとぎ話の? ハハハ、こやつめ。  ……え、マジなの!? もしかして俺、本当に人間やめちゃいました!?  え? 魔境の森にドラゴンが現れた? やってみるさ!  え? 娘を嫁にもらってくれ? ずいぶんと地味な子だけど、大丈夫?  え? 元婚約者が別のイケメン男爵令息と婚約した? そう、関係ないね。  え? マンドラゴラが仲間になりたそうな目でこちらを見てる? ノーサンキュー!  え? 魔石が堅くて壊せない? 指先一つで壊してやるよ!  え? イケメン男爵令息が魔族だった? 殺せ!  何でわざわざ俺に相談しに来るんですかねー。俺は嫁とイチャイチャしたいだけなのに。あ、ミケ、もちろんミケともイチャイチャしたいよー?

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

最強の男ギルドから引退勧告を受ける

たぬまる
ファンタジー
 ハンターギルド最強の男ブラウンが突如の引退勧告を受け  あっさり辞めてしまう  最強の男を失ったギルドは?切欠を作った者は?  結末は?  

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...