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130 獣人さん、行ってらっしゃい

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周りに散っていたフワフワさんが、同行者の周りに全て集まり包み込み、そして、本来の雲のような鳥の姿を現す。

「じゃぁ、いっくよー」
「え? あ、待ってー!?」

フワフワさんが羽ばたくと、フワリと全く抵抗を感じさせずに、浮き上がる様に飛び立ち、その後ろに鳥人さん達が続く。
あ~、これは……付いて行けるかギリギリかな~。体力的には絶望的かも。ダメなら、途中で回収するでしょうから、心配は不要ですね。

さて、フワフワさんの移動速度なら、今日中には報告が入る事でしょう。

「……あいつらは、その、大丈夫なのか?」
(何か問題があったでしょうか?)
「白い鳥、フワフワって言ったか? あれが現れたら、皆消えたんだが……」

あ、あぁフワフワさんの能力を知らないと、何処に行ったか分からないか。

現在、獣人さん達はフワフワさんの体内、異空間の中に居る。
それこそ、フワフワさんの体である霧が届く範囲は、全てフワフワさんの領域になる。その領域内は、外の空間とは隔絶され、フワフワさんの許可なく出ることも、外から干渉する事もできない。
その影響力は、濃ければ濃い程強くなる。今フワフワさんの中は、とんでもない広さになっていることでしょうね。あの程度の人数なら、余裕で入る。

(なので、心配しなくとも大丈夫ですよ。寧ろ、此処より快適な空間かも知れないですね)
「そ、そうか」

心配なのは分かりますが、そこは信用してもらうほかない。

(では、わたくし達も行きますわよ)
(おう)
(ん)

更にルナさん竜族一行も続く。
北東の灼熱地帯から噴竜ふんりゅうが、ジェットエンジンの様な轟音を響かせながら空中を飛び。東の山脈地帯から斬竜ざんりゅうが、木々の間を流れるように地上を駆ける。

ほうほう、二体とも結構速いですが、確かに運ぶのには適していませんね。自分で【創造】しておいてあれですが、近づいただけで弱い存在は死にかねない。

まぁ、フワフワさんの体内に居るなら、万が一もその影響に晒されることは無いでしょう。

(行ってらっしゃい。無理はしないで、危なく成ったら帰ってくるんですよ~)
(ハイですわ)
(行ってきまーす!)

あっという間に、フワフワさんに追いつき、共に領域外へ行ってしまった。

さてさて、話を戻しましょうか。聞きたいことは沢山ありますからね~。
これからご近所さんになるのですから、文化とか常識とかも聞いておきたいですし、森人エルフに付いても聞かないと。一番知りたいのは東のアルベリオン王国ですか~……て、獣人さん方が、飛んで行った一行の方向を向いて唖然としている。どうかしましたか?

「あ……アレが、あんたの戦力なのか?」
(ん~~~、あの竜族ですか? 戦力と言うよりも、このダンジョンの住人ってところでしょうか。ここでは結構強い方ですが、あのレベルなら、そこそこいますね)

外に縄張りを持っている子の近く、魔力の濃い所には、あのレベルの子は偶に見ます。その中でもトップクラスでしょうけど。

(あ、でもビャクヤさんと戦ったら、ビャクヤさんが勝つでしょうね)
(うん、ルナには勝てないけど、さっきの二体となら、同時でも勝ったことあるよ)
(ルナさん強いですもんね~)
「うん、次こそは勝つ! ワッフゥ!」
「は、ははは……」

獣人さん方の顔が引きつっている。まぁ、相性とかもありますからね。
ビャクヤさん相手では、ブレス特化の噴竜では真面に撃たせてもらえないでしょうし、近接攻撃特化の斬竜は瞬発力があっても、速度ではビャクヤさんに勝てず、追いつけないでしょう。後は、遠距離の魔法で削られて終わりです。
ちゃんと役割分担して戦えば、勝てないまでも負けなかったでしょうけど、即席じゃ無理でしょうね。抵抗できても、勝てないと分かったら、ビャクヤさん逃げるでしょうし。今のままでは、勝つのは難しいですかね?

(他に急ぎは有りますか? 無いのでしたら、先ほどの要望、情報の提供をお願いします)
「分かった、何が知りたい?」
(まずは、アルベリオン王国ですね。何故あなた達を襲ったのです?)

―――

え~、話をまとめると。

東の森には、獣人と人間の部族がひしめき合って覇権を争っていたが、五百年位前に、東西に流れる河を境に停滞。今の状態に落ち着いたのだとか。

しかし、領地内の資源を取りつくしたのか、頻繁に河を渡り獣人側の領地を侵略、森の木を伐採しだした。
交渉も、宣言も無し。元々人間側は、彼等獣人達を家畜や獣としか見ておらず、対話も容赦も無いのだとか。
その為これらの行為に対して、獣人側は徹底抗戦を開始。河を渡ろうとするものを積極的に撃退し、陸地に上がってきたものは、森からの狙撃等で仕留める。
そんな小競り合いを、百年ほど前から続けていたんだとか。

獣人側は大きな被害が出ることも無く撃退できていたのと、人間側の領地に、碌なものが無い事が分かっていたから、進行する魅力も無い。
特に、近年になって無理な侵攻を繰り返して、内政にまで影響が出て来ていたので、その内力尽きる算段だったのだが……その均衡を崩す化け物が、人間側に登場した。

人間の姿をしたその化け物は、領地内の獣人を虐殺。次々と森の中にある集落を潰し周り、渡河先に拠点を作り上げてしまった。
それに対して、獣人の国であるアルサーン王国は、領民の退避を決定。前線で戦い傷を負った戦士と共に、逃がしたのだそうだ。

それが、今目の前に居る彼等なんだとか。

(その化け物みたいな人間って、そんなに強いんですか?)
「あぁ、強い。全く勝てる気がしなかった。そこの魔物、ビャクヤでも勝てるとは思えない、そんな化け物だ」

片腕のない牛人さんが、そう語る。

おぅ、まじですか。
国が領民を助けるのではなく逃がすって事は、守っている余裕が無いか、国自体の存亡が怪しいレベルって事ですかね? 降伏なんて、聞きそうにないですし。
王が自分の身を惜しんで、戦力を出し渋る様な人の可能性も有りますが、そんな人ではないとの事。

なんでも、アルサーン王国は君主制ではなく、各部族から代表を出しその中から王を決める、共和制を取っているんだとか。自分たちを見捨てる様な奴を、王には選ばないって事ですね。

……あれ、共和制なのに王国? と思ったら、共和制って言葉が存在していなかった。
う~ん、こんな所にも異世界ギャップが。

そして、東に人間の国はアルベリオン王国しかない。その更に東には、伐採して何もなくなった荒野と砂漠のみ。南は人間至上主義の同盟国、イラ王国がある。

あれ? つまりそれって、獣人の国を亡ぼしたら、次はこっちに来ますよね?
個人で国を潰しかねない奴と、対峙することになるんですか? いやだな~。

そもそも、資源を取りつくしたら、侵略すればいいじゃんって考え方、俺大っ嫌い。自分で何とかしなさいよ、それじゃ、唯の蛮族じゃないですか。そう言う奴らに限って、その点を指摘すると逆切れするんですよね~……面倒くさい。

……まぁ、戦わないって選択肢は無いですけどね。もう、世界樹さんの敵って、こいつ等でしょ?

「そう言えば、世界樹の素材が市場に出回ったって話があったな」
(それって、いつ頃の事でした?)
「あいつらが、こっちに攻めてくる前だがら、大体2ヵ月近く前か。世界樹が市場に出回るって宣伝していたな」
「その頃、軍が西にむけて移動していくのを確認して居たはずだ」
「出回ったのが、約一ヵ月前。唯の丈夫な木材で、いつもの法螺吹きって事になったんじゃ無かったか?」
(あ、多分それ、世界樹さんの力が全部抜けた、残りカスです)

位置、東唯一の人間の国。
時間、俺が呼ばれた日、今から約一か月前に、世界樹の素材が宣伝ありで市場に出回る。
状況、軍を動かした形跡が有り、進行方向は西の山の先、世界樹さんが居る森の中。
人格、他国の人を家畜呼ばわりし、宣戦布告も交渉もしない蛮族の集団

はい、諸々合わせまして~……アルベリオン王国、敵に完全認定!!

ははは……如何してくれようか。これで間違いでしたって事になっても、ぶっちゃけこんな国、どうなろうと俺の心は痛まない。

まぁ、警告位はして上げますよ。俺達は野蛮人では無いですからね。
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