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115 黒狐が行く!⑧
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ちょっと前の自分を、殴り飛ばいたい。
「こっちだよ~」
「ちょっとまって、何ここ、何あのデカい木」
「僕たちのお家だよ、あそこにご主人が居るんだ」
息苦しい程の魔力に満ちた空間、森の木々から覗く、崖と見間違えるほどの巨大な大樹。高さは、霧か雲か分からないけど、視界を遮られて判別がつかない。
近づくについて、起伏が激しくなる。地面が盛り上がっているんじゃなくて、木の根が地面を這う様に伸びて行っている。元をたどれば、あの巨大な大樹の根である事はすぐにわかった。だって、周りの木々が纏っている魔力の濃度と、明らかに違うもの。ナニコレ濁流か何か? 触れるのも怖いんだけど、この上を通らなくちゃダメ? ダメですか、そうですか。
そのまましばらく進むと、一気に森が開け、その大樹の姿が露になる。
魔力の塊が地面から沸き立ち、独特な淡い光を放ちながら上空へと上って行く。周囲には色々な子が思い思いの時間を過ごし、ゆったりした時間が流れていた。
なにこれ、パラダイス? ……違った、地獄だった。何こいつ等の雰囲気、全員私と同じ位の実力あるんじゃないの? 今まで戦って来た相手が、ガキに思えて来るんだけど。
「あ、ビャクヤだ」
「隣の黒いのなんだ?」
「同型の女?」
「ビャクヤが女連れてきたぞーーー!!」
「「「なんだと!?」」」
「嫁か!? とうとう嫁を決めたか!?」
「おいお前、ちょっとマスターの所まで知らせてこい!」
「プルさーん! プルさん! マスターに繋いでーーー!」
「違――――――――――――う!!」
おぉう、なにこの賑やかな場所。野生から切り離されたかのような、何と言うか文化的な、学生時代の馬鹿なノリに近い雰囲気がする。
てか嫁とか…まだそんな関係じゃないし?
「あ、ビャクヤだ。帰って来たの?」
「裏切り者だ! 待ってって言ったのに、見捨てた裏切り者だ!」
「嫌だな、もう。僕はただ、邪魔しちゃいけないと思っただけだよ」
あ、真っ白な兎だ。名前に違わず、本当にモッフモフしているわね。モフりたいけど、この子も私よりも強いわよね、こんなにかわいいのに。
「ご主人のとこに行ってくる」
「番の紹介?」
「いい加減にしないと怒るよ、ワッフゥ!」
「あはは、逃げろ~~~」
そう言って、白いモフモフは姿を消した。何処行ったし、目で追えなかったんだけど。
「もう……ごめんね~、後で皆には一撃入れとくから、それで許して」
「「「え˝?」」」
「先に行くよー」
「あ、はい」
何故か周りの子達の表情が、絶望に染まる。そんなになるなら止めれば良いのに、ノリが良いのか馬鹿なのか……一撃って、死んだりはしないわよね?
大樹に向かって進むビャクヤの後に付いて行く。その先、大樹の根元には、巨大な門が設置されていた。あれが目的地の入り口か。何と言うか、ラストダンジョンの入り口って感じね。大きさと威圧感がとんでもないわ。
「そっちじゃ無いよ」
「え、じゃぁあの門は?」
「侵入者用の入り口。僕たちの住処には続いてないよ」
あれでダミーかよ!? ここまで来て、そりゃないでしょ。
門から少し逸れた壁に前足を置くと、絡み合った蔦がほどける様に道が現れた。こっちが本当の道って訳ね。
「うっぷ」
「大丈夫?」
「うん、歩くだけなら」
一歩木の中に入ると、余りの魔力濃度で吐き気を催す。少しは回復したけど、空っぽの状態に、この濃度はきついものがあるわね。普通なら、染み込む様に外から魔力が流れて来るけど、外の方が圧力が強くて、押し込まれる様に魔力が入り込んでくる。
「……肩貸す?」
「……うん」
ビャクヤに体重を掛けながら、前へと進む。あぁ、適度な反発が心地いい。
「ご主人、連れてきた!」
「!?」
え? あれ? もしかして私寝てた!? 慌てて周囲を見渡すと、壁一面に本やガラクタが置かれた棚が設置された、ちょっと大きめの小部屋に居た。
床には、高価そうな絨毯が敷かれている。うわ、これ踏んじゃって良いものなの? せめて爪は出ない様にしないと。
「くく、そんなに緊張しなくても良いですよ、大切に使うのは良い事ですが、物は使ってなんぼなんですから」
声のする奥の方を向けば、これまた高価そうな机と、そこで作業する人の姿が見えた。
「やぁ、こんにちは」
「こ、こんにちは」
人だ、人が居た!
温和な雰囲気を醸し出す、若くて優しそうな黒髪の人。良かった、顔つきは日本人だ、知った顔では無いけど、同郷の可能性が上がったわね。
「気分はどうですか? 魔力に当てられていたようなので、少し濃度を下げて見たのですが」
「あ、はい、そう言えば、少し楽になった気がします」
おぉ、流石日本人! 気遣いもできる、とってもいい人だ! 実際、外から押し込まれるような感覚が、大分緩和されている気がする、これは有り難い。
「ビャクヤさんが番を連れてきたと聞き及んでいましたが、君で間違いないですか?」
「ご主人迄そんな事言う! 唯、見込みがあったから連れてきただけ!」
「そうなのですか? 皆さんからは、かなりその気だと聞いていましたが、担がれましたかね?」
見込みがあったから…ははは、そうよね~、いや、うん、そもそもよ? 私は元人な訳で、大分獣に引っ張られている気はしなくは無いけど、感覚も人な訳ですよ。だから、ガッカリ何てして無いし? 期待なんてしてないし? ただただ、あの毛並みを堪能できないのがさみしいだけだし!?
「え~と、何を葛藤しているかは分かりませんが、落ち着きましょう?」
「うぇ? あ、すいません!」
自分ではそんな気はしなかったのだけど、表に出てたかしら? 気を付けないと。
取り敢えず、トップはかなり温厚そうな人である事が分かって、一安心かしらね? 後は、敵対しないで済むかどうか。この世界で、私達は決して強くない事は、今回の一件でハッキリした。可能なら、ここの加護を受けられればいいのだけど……その前に確認しないと。
「あの、質問良いでしょうか!?」
「はいはい、何でもどうぞ。答えられるものなら、答えますよ」
「あ…あなたは、日本人ですか!」
「はい。君も転生者かい?」
軽!? そんなに直ぐにばらしていいの? そもそも何でそんなに余裕そうなのよ! 他にも日本人ってか、転生者? が居るの?
「魔石が二つある様に見える面白い相手だって、ルナさんが言って居ましたからね、当たりを付けていただけですよ」
「え…と、つまり?」
「あぁ、え~と…君のような魔物は、心臓の代わりに魔石って言って、魔力を溜め込んで体内に循環させる機関が有るのですが、それ以外の生き物には、普通に心臓が有って、魔力の貯蔵は魂が受け持っているんです。君の場合、その臓器が二つあるみたいなんですよ。つまり、魔石を持った魔物の体に人の魂、この二つがあるって事。話を聞いた時、その可能性があるかな~と思っていたので、そこまで驚きは無かったですね」
お、おう? なんか良く分からないけど、相手はこっちの素性を予測していたから、驚きは少なかったと、監視されていたとかではないのね。
「それで? 君はこれからどうするのですか?」
「この後ですか?」
「そう。このまま、ビャクヤさんのとこに付くか、今まで通りの生活を送るか、ここから出て行くか…選択肢は色々ですね」
「私が、この…ビャクヤの配下になると、何をする事になるの?」
「特に何も。普通に生活して、遣りたいことをやって、仲間が危険に晒されたならば助けて、まぁ、そこは、日本人だった頃の感覚で考えれば、そんなに変な事にはならないと思いますよ」
「他の子達も良いの?」
「そこはビャクヤさん次第ですが」
「僕はどっちでもいいよ」
「とのことです」
なら、傘下に入って損は無いかな。皆を説得するのが面倒そうだけど。
てか入らないと、ここで生きて行けるか分からない。同郷相手に敵対する気も起きないし、そもそも敵対したら終わる。このままの生活をしても、敵対できるくらい強く成れるとも思えないし……
「分かった、傘下に入るわ」
「それは良かった。なんせビャクヤさんは一匹狼でしたからね。しかし…う~ん、折角の能力も、分散していると勿体ないですね。分けて無ければ、ビャクヤさんとももっといい勝負ができたかもしれませんし…」
「え?」
「そう言えば、沢山“名付け”してたっぽい?」
「名付け?」
なに? 私、何かやっちゃいけない事でもしてたの? 名付けって…名前を付ける事よね。それがどうしたのかしら?
「これは、分かってないですね。えっと、“名付け”は、契約の様なものです。自分の配下になって貰う代わりに、自分の力の一部を分け与える効果が有ります」
「う、う~ん? つまり、名前を付けた子達の分だけ、私が弱く成ってるって事? …名前を付けただけで!?」
そんな簡単な事で…じゃぁ普段、名前のない子達はどう呼べばいいのよ。
「名前を付けるのは、人の感性ですからね~、魔物は普通しません。名前なんかなくても、誰が誰だか判別がつくでしょう? 他の方に、特定の子を指すときも、何となく相手に通じますしね」
そう言われれば……なんで?
「言葉と共に、放たれる魔力に意味が乗るので、大体感覚で伝わるんですよ。それを突き詰めると、他種族、多言語の方とも会話できますよ」
マジか! 通訳不要ね、考えて見たら鳴き声で、何で会話が成立してるって話よね。成る程、便利な世界ね。
「仕方がない、上書きしておきましょう。名付けをして、君が分けて居る力を肩代わりしますけど、希望とかありますか?」
「え、そんなことできるの? ……貴方が弱く成らない?」
「俺には、チートスペックなダンジョンコアこと、コアさんが居ますからね。大丈夫でしょう」
~ 肯定、現存スペックに不足はありません ~
うぉ、びっくりした!? 唐突、直接頭の中に声が響いた。周りを見渡しても、私たち以外誰も見当たらない。
「コアさんは、ここにはいませんよ。大事なダンジョンの心臓部ですからね。それでどうです?」
コアさん、成る程、ダンジョンコアの声か。ダンジョン内だから、何処にでも話すことができるってところかしらね? それよりも名前か……人だった頃の名前もなぁ、色々戻れない所まで来てる自覚は有るのよね~。
「元居た世界にも戻れないんでしょ? 人に戻れるとも思えないし……任せるわ、やり直すいい機会よ」
「ふむ……では、“キョクヤ”でどうです?」
極夜《キョクヤ》、白夜の対義語。なんて安直な。
「真っ白なビャクヤさんと、真っ黒なキョクヤさん。名は体を表すとも言いますし、即興の割には悪くないんじゃないですか?」
「そ、そうね…えっと、これで貴方の配下になったって事だから、そち等の支援を受けられるのよね?」
「支援と言うか…仲間なら、普通に助けますよ」
「うん! キョクヤは友達!」
「その代わり下手な事はしないで下さいね。日本人としての感性が在るなら、滅多な事は無いでしょうが、度が過ぎる行動は切り捨てる理由になりますので、覚悟してください」
「わ、分かったわ」
こ、怖! 何、あの絶対零度の視線は。人のニ、三人は殺してる目だよぉ。もしかして
ヤバい奴だったの? うん、しばらくは大人しくしよう、あれは堅気の目じゃないよ、自分に都合が悪いものは、一切の情けなく切り捨てる奴の目だよ。
「あぁ、それと。自分には素直になる事をお勧めしますよ。元が人だとしても、今は今でしょう?」
「うぐ」
「……婚期を逃しますよ?」
「ウッサイ!」
あぁもう、さっきの雰囲気は何処行ったのよ! 完全にこっちの事見透かして、面白そうにしやがって!
いいのね? 本気にするわよ!? 親公認って事で、我慢しないわよ!?
「ワ、ワフ?」(ぶるる)
「こっちだよ~」
「ちょっとまって、何ここ、何あのデカい木」
「僕たちのお家だよ、あそこにご主人が居るんだ」
息苦しい程の魔力に満ちた空間、森の木々から覗く、崖と見間違えるほどの巨大な大樹。高さは、霧か雲か分からないけど、視界を遮られて判別がつかない。
近づくについて、起伏が激しくなる。地面が盛り上がっているんじゃなくて、木の根が地面を這う様に伸びて行っている。元をたどれば、あの巨大な大樹の根である事はすぐにわかった。だって、周りの木々が纏っている魔力の濃度と、明らかに違うもの。ナニコレ濁流か何か? 触れるのも怖いんだけど、この上を通らなくちゃダメ? ダメですか、そうですか。
そのまましばらく進むと、一気に森が開け、その大樹の姿が露になる。
魔力の塊が地面から沸き立ち、独特な淡い光を放ちながら上空へと上って行く。周囲には色々な子が思い思いの時間を過ごし、ゆったりした時間が流れていた。
なにこれ、パラダイス? ……違った、地獄だった。何こいつ等の雰囲気、全員私と同じ位の実力あるんじゃないの? 今まで戦って来た相手が、ガキに思えて来るんだけど。
「あ、ビャクヤだ」
「隣の黒いのなんだ?」
「同型の女?」
「ビャクヤが女連れてきたぞーーー!!」
「「「なんだと!?」」」
「嫁か!? とうとう嫁を決めたか!?」
「おいお前、ちょっとマスターの所まで知らせてこい!」
「プルさーん! プルさん! マスターに繋いでーーー!」
「違――――――――――――う!!」
おぉう、なにこの賑やかな場所。野生から切り離されたかのような、何と言うか文化的な、学生時代の馬鹿なノリに近い雰囲気がする。
てか嫁とか…まだそんな関係じゃないし?
「あ、ビャクヤだ。帰って来たの?」
「裏切り者だ! 待ってって言ったのに、見捨てた裏切り者だ!」
「嫌だな、もう。僕はただ、邪魔しちゃいけないと思っただけだよ」
あ、真っ白な兎だ。名前に違わず、本当にモッフモフしているわね。モフりたいけど、この子も私よりも強いわよね、こんなにかわいいのに。
「ご主人のとこに行ってくる」
「番の紹介?」
「いい加減にしないと怒るよ、ワッフゥ!」
「あはは、逃げろ~~~」
そう言って、白いモフモフは姿を消した。何処行ったし、目で追えなかったんだけど。
「もう……ごめんね~、後で皆には一撃入れとくから、それで許して」
「「「え˝?」」」
「先に行くよー」
「あ、はい」
何故か周りの子達の表情が、絶望に染まる。そんなになるなら止めれば良いのに、ノリが良いのか馬鹿なのか……一撃って、死んだりはしないわよね?
大樹に向かって進むビャクヤの後に付いて行く。その先、大樹の根元には、巨大な門が設置されていた。あれが目的地の入り口か。何と言うか、ラストダンジョンの入り口って感じね。大きさと威圧感がとんでもないわ。
「そっちじゃ無いよ」
「え、じゃぁあの門は?」
「侵入者用の入り口。僕たちの住処には続いてないよ」
あれでダミーかよ!? ここまで来て、そりゃないでしょ。
門から少し逸れた壁に前足を置くと、絡み合った蔦がほどける様に道が現れた。こっちが本当の道って訳ね。
「うっぷ」
「大丈夫?」
「うん、歩くだけなら」
一歩木の中に入ると、余りの魔力濃度で吐き気を催す。少しは回復したけど、空っぽの状態に、この濃度はきついものがあるわね。普通なら、染み込む様に外から魔力が流れて来るけど、外の方が圧力が強くて、押し込まれる様に魔力が入り込んでくる。
「……肩貸す?」
「……うん」
ビャクヤに体重を掛けながら、前へと進む。あぁ、適度な反発が心地いい。
「ご主人、連れてきた!」
「!?」
え? あれ? もしかして私寝てた!? 慌てて周囲を見渡すと、壁一面に本やガラクタが置かれた棚が設置された、ちょっと大きめの小部屋に居た。
床には、高価そうな絨毯が敷かれている。うわ、これ踏んじゃって良いものなの? せめて爪は出ない様にしないと。
「くく、そんなに緊張しなくても良いですよ、大切に使うのは良い事ですが、物は使ってなんぼなんですから」
声のする奥の方を向けば、これまた高価そうな机と、そこで作業する人の姿が見えた。
「やぁ、こんにちは」
「こ、こんにちは」
人だ、人が居た!
温和な雰囲気を醸し出す、若くて優しそうな黒髪の人。良かった、顔つきは日本人だ、知った顔では無いけど、同郷の可能性が上がったわね。
「気分はどうですか? 魔力に当てられていたようなので、少し濃度を下げて見たのですが」
「あ、はい、そう言えば、少し楽になった気がします」
おぉ、流石日本人! 気遣いもできる、とってもいい人だ! 実際、外から押し込まれるような感覚が、大分緩和されている気がする、これは有り難い。
「ビャクヤさんが番を連れてきたと聞き及んでいましたが、君で間違いないですか?」
「ご主人迄そんな事言う! 唯、見込みがあったから連れてきただけ!」
「そうなのですか? 皆さんからは、かなりその気だと聞いていましたが、担がれましたかね?」
見込みがあったから…ははは、そうよね~、いや、うん、そもそもよ? 私は元人な訳で、大分獣に引っ張られている気はしなくは無いけど、感覚も人な訳ですよ。だから、ガッカリ何てして無いし? 期待なんてしてないし? ただただ、あの毛並みを堪能できないのがさみしいだけだし!?
「え~と、何を葛藤しているかは分かりませんが、落ち着きましょう?」
「うぇ? あ、すいません!」
自分ではそんな気はしなかったのだけど、表に出てたかしら? 気を付けないと。
取り敢えず、トップはかなり温厚そうな人である事が分かって、一安心かしらね? 後は、敵対しないで済むかどうか。この世界で、私達は決して強くない事は、今回の一件でハッキリした。可能なら、ここの加護を受けられればいいのだけど……その前に確認しないと。
「あの、質問良いでしょうか!?」
「はいはい、何でもどうぞ。答えられるものなら、答えますよ」
「あ…あなたは、日本人ですか!」
「はい。君も転生者かい?」
軽!? そんなに直ぐにばらしていいの? そもそも何でそんなに余裕そうなのよ! 他にも日本人ってか、転生者? が居るの?
「魔石が二つある様に見える面白い相手だって、ルナさんが言って居ましたからね、当たりを付けていただけですよ」
「え…と、つまり?」
「あぁ、え~と…君のような魔物は、心臓の代わりに魔石って言って、魔力を溜め込んで体内に循環させる機関が有るのですが、それ以外の生き物には、普通に心臓が有って、魔力の貯蔵は魂が受け持っているんです。君の場合、その臓器が二つあるみたいなんですよ。つまり、魔石を持った魔物の体に人の魂、この二つがあるって事。話を聞いた時、その可能性があるかな~と思っていたので、そこまで驚きは無かったですね」
お、おう? なんか良く分からないけど、相手はこっちの素性を予測していたから、驚きは少なかったと、監視されていたとかではないのね。
「それで? 君はこれからどうするのですか?」
「この後ですか?」
「そう。このまま、ビャクヤさんのとこに付くか、今まで通りの生活を送るか、ここから出て行くか…選択肢は色々ですね」
「私が、この…ビャクヤの配下になると、何をする事になるの?」
「特に何も。普通に生活して、遣りたいことをやって、仲間が危険に晒されたならば助けて、まぁ、そこは、日本人だった頃の感覚で考えれば、そんなに変な事にはならないと思いますよ」
「他の子達も良いの?」
「そこはビャクヤさん次第ですが」
「僕はどっちでもいいよ」
「とのことです」
なら、傘下に入って損は無いかな。皆を説得するのが面倒そうだけど。
てか入らないと、ここで生きて行けるか分からない。同郷相手に敵対する気も起きないし、そもそも敵対したら終わる。このままの生活をしても、敵対できるくらい強く成れるとも思えないし……
「分かった、傘下に入るわ」
「それは良かった。なんせビャクヤさんは一匹狼でしたからね。しかし…う~ん、折角の能力も、分散していると勿体ないですね。分けて無ければ、ビャクヤさんとももっといい勝負ができたかもしれませんし…」
「え?」
「そう言えば、沢山“名付け”してたっぽい?」
「名付け?」
なに? 私、何かやっちゃいけない事でもしてたの? 名付けって…名前を付ける事よね。それがどうしたのかしら?
「これは、分かってないですね。えっと、“名付け”は、契約の様なものです。自分の配下になって貰う代わりに、自分の力の一部を分け与える効果が有ります」
「う、う~ん? つまり、名前を付けた子達の分だけ、私が弱く成ってるって事? …名前を付けただけで!?」
そんな簡単な事で…じゃぁ普段、名前のない子達はどう呼べばいいのよ。
「名前を付けるのは、人の感性ですからね~、魔物は普通しません。名前なんかなくても、誰が誰だか判別がつくでしょう? 他の方に、特定の子を指すときも、何となく相手に通じますしね」
そう言われれば……なんで?
「言葉と共に、放たれる魔力に意味が乗るので、大体感覚で伝わるんですよ。それを突き詰めると、他種族、多言語の方とも会話できますよ」
マジか! 通訳不要ね、考えて見たら鳴き声で、何で会話が成立してるって話よね。成る程、便利な世界ね。
「仕方がない、上書きしておきましょう。名付けをして、君が分けて居る力を肩代わりしますけど、希望とかありますか?」
「え、そんなことできるの? ……貴方が弱く成らない?」
「俺には、チートスペックなダンジョンコアこと、コアさんが居ますからね。大丈夫でしょう」
~ 肯定、現存スペックに不足はありません ~
うぉ、びっくりした!? 唐突、直接頭の中に声が響いた。周りを見渡しても、私たち以外誰も見当たらない。
「コアさんは、ここにはいませんよ。大事なダンジョンの心臓部ですからね。それでどうです?」
コアさん、成る程、ダンジョンコアの声か。ダンジョン内だから、何処にでも話すことができるってところかしらね? それよりも名前か……人だった頃の名前もなぁ、色々戻れない所まで来てる自覚は有るのよね~。
「元居た世界にも戻れないんでしょ? 人に戻れるとも思えないし……任せるわ、やり直すいい機会よ」
「ふむ……では、“キョクヤ”でどうです?」
極夜《キョクヤ》、白夜の対義語。なんて安直な。
「真っ白なビャクヤさんと、真っ黒なキョクヤさん。名は体を表すとも言いますし、即興の割には悪くないんじゃないですか?」
「そ、そうね…えっと、これで貴方の配下になったって事だから、そち等の支援を受けられるのよね?」
「支援と言うか…仲間なら、普通に助けますよ」
「うん! キョクヤは友達!」
「その代わり下手な事はしないで下さいね。日本人としての感性が在るなら、滅多な事は無いでしょうが、度が過ぎる行動は切り捨てる理由になりますので、覚悟してください」
「わ、分かったわ」
こ、怖! 何、あの絶対零度の視線は。人のニ、三人は殺してる目だよぉ。もしかして
ヤバい奴だったの? うん、しばらくは大人しくしよう、あれは堅気の目じゃないよ、自分に都合が悪いものは、一切の情けなく切り捨てる奴の目だよ。
「あぁ、それと。自分には素直になる事をお勧めしますよ。元が人だとしても、今は今でしょう?」
「うぐ」
「……婚期を逃しますよ?」
「ウッサイ!」
あぁもう、さっきの雰囲気は何処行ったのよ! 完全にこっちの事見透かして、面白そうにしやがって!
いいのね? 本気にするわよ!? 親公認って事で、我慢しないわよ!?
「ワ、ワフ?」(ぶるる)
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