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79 竜と迷宮②

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「有難うございました。とっても参考になりました」

うん、食べ過ぎた。これではテレの事を強く言えない。
賢竜は基本草食寄りの雑食なのだが、焼いた果実が相当気に入った様だ。シスタの方も満足そうにしている。

長く生きた竜程、<人化>を取得する理由が分かった気がする。美味しいものを食べると、これ程満たされるとは。今まで食事にそれ程の興味は無かったが、もう戻れそうもない。

「やっぱり、属性に合った食べ物が口に合うのは、外も同じみたいだね」
「味覚も殆ど変わらないね。違うのは好みと体質位かな?」

迷宮側は、つらつらと私達の意見をまとめている。
向こうは全然気にしていない様ですけど、こっちは普通に食事をしていただけに、罪悪感があるわね。情報を提供できたと思っておけば良いんでしょうけど。
しかし、待遇が良すぎて、逆に不安になってきました。このままで良いのでしょうか? せめて一言で良いので、ここの主と直接話をしてお礼がしたい。

「ん~? 別に問題ないと思うよ?」

クロカゲ殿にそのことを伝えるが、軽く流されてしまった。

「しかし、これ程のもてなしを受け、何もお返しができないのも……」
「いやいや、こっちも情報提供には感謝していますから、お気遣いなく」
「まぁこっちも、敵対は望むところではないからね~♪ 喧嘩とか、やらないに越したことは無いよ」
「主様は基本、平和主義者」

周りの魔物たちも、口々に必要ないと言っている。平和的なダンジョンマスターなんて、聞いたことないわよ。

「でも、一応聞いてみる?」
「う~ん、そろそろ平気だと思うけど~……あ、まだ無理っぽいね~」
「そう…ですか、残念ですが仕方がありません」

相手側の予定が合わないなら仕方がない。となると、これからどうしましょうか。寝床は、ダンジョンの隅にでも借りられれば問題ないですし

「この後、何か要望とか、予定とかある?」
「寝床を決める以外、特には思いつきませんね。森の隅を貸していただけると有難いです」
「そう? じゃ、風呂にでも入りに行く?」

風呂? 確か、人種が身を清めるときに湯に浸かる行為、又はその施設……だったかしら?
二人も興味が有るのか、反対意見は出なかった為、挑戦してみる事となった。私達の体格でも入れるか確認したら、余裕だと言われてしまった。相当広いんでしょうね。

クロカゲ殿の案内に従い、ダンジョン中を進むと、複数の穴が空いた地面から、湯気がモクモクと上がっている場所に案内される。どうやら、この穴の下が風呂になっているらしい。
湯気から複雑な草の匂いが漂っている……風呂、ですよね?

クロカゲ殿や、他の魔物と共に穴の中へと降りていく。
天井から降り注ぐ月明かりが、柱の様に湯けむりに移り込み、水面に反射した光は、柱や天井で波打つ。
そこには、私たちが余裕で飛び回れるほどの巨大かつ、幻想的な空間が広がっていた。

「すごい……」
「プルー! プルさ~ん! 何処ですか~?」
(な~に~? ……おきゃくさ~ん?)

プルンプルンと跳ねながら現れたのは、スライムと言う名の魔物。初めてスライムを見た時は、知能を感じない植物の様な存在かと思っていたが、高位の存在になると、しっかりとした自我も持てるタイプか。

「そうそう、お風呂なんだけど、何処かお勧めの湯ってある~?」
「ん~~~~~~……ん! こっちー」
「皆さ~ん、ついて行きますよ~」
「はい、よろしくお願いします」

プルンプルンと跳ねる後に付いて行く……て、速!? ちょっと待って!?

(ここ~)

何とか置いて行かれない様に付いて行き、たどり着いたのは、グツグツと煮えたぎる琥珀色の池だった……風呂ですよね?
人種だと、こんな煮えたぎった湯の中に入ったりしないでしょうけど、私達なら問題ないと判断したのかしら? 少々の不安はあるが、興味もある。大丈夫だとは思うけど、流石にちょっと戸惑うわね。

「エレン様、まずは私から。エレン様に何かあっては、いけませんから」

などと言っているが、説得力がない。鼻息荒く、キラキラした目で風呂? を見ている……好奇心に負けたか、そこはやっぱり賢竜ね。
尾の先でツンツンと水面を突き、感触を確かめた後にそのままゆっくりと湯に浸かっていく。

「……どう? シスタ」
「………………」

あれ? 無反応?

「シスタ~、どうしたの~?」
「フ~~~~~~……良いです、これ」

たっぷり間をおいて、溜息の様な声で答えてきた。
おぉう、こんなゆるゆるなシスタ、初めて見たかも。体の力を完全に抜き、肩までドップリ浸かっている。

「私も~、入ります~」
「では、私も」

シスタの真似をして、尾からゆっくり入っていく。

「「……フヘ~~~~~~……」」

ヤバい、これいい。余りの気持ちよさに、思わず声が漏れて仕舞う。体の芯に残っていた疲労が溶ける様に消えていく、癖になりそう。
帰ったら、巣の近くにでも造ってみましょうか? ただの湯だと同じ効果は無理でしょうけど、試してみる価値はあるわ。

「は~~~、癒される……」
(そこは~、はやくあがったほうがいいよ~)
「なぜですか?」
(つよいから~)

ん~? 強い? 何が強いのかしら~。ちょっと気持ち良すぎて、私までゆるゆるになってきた。

「薬効が強すぎるんだね。竜だから平気みたいだけど、長湯は危険だよ」
「……成る程、分かりました。テレ、シスタ、上がりますよ」
「はい~」
「……はい」

名残惜しいが仕方がない。テレは満足した様だが、シスタのほうは、本当~に渋々と言った感じで湯から上がる。相当気に入ったみたいね。
私も、体の調子が良い。薬の効果が残っているのか、体に魔力が満ちていくのが分かる、ちょっと時間を置けば、全快に成りそうだ。

「普段、皆さんも入っているんですか?」
「他の所には入ってるけど、ここは無理かな~。薬として採取はするけど、うちらには熱すぎ」

確かに、私たちは平気ですけど、耐性が無い方が茹っている湯の中に入るのは、辛いものがありますね。

(つぎは、こっち~)

またスライムが跳ねて、誘導しようとして来る。う~ん、私としては今ので、十分満足なんですがね。むしろ今は、体を動かしたい気分だ。許可が下りるなら、このダンジョンを空から見て回るのも良いかしら?

(だめ~)
「何故ですか?」
(げどくがさき~)

げどく……解毒!?

(くすりをぬくの~)
「あ~、お姉さん方、ちょっと興奮状態っぽいかな? 落ち着くためにも、付いて行くと良いよ~」

興奮状態。た、確かにちょっと気分が高揚してる気はする。ここは、大人しく付いて行こう。視線があちこちに泳ぐテレの頬を、尾で軽く小突きながら後を追う。うん、他竜を見ると、いつもと様子が違うのが良く分かる。シスタは新たな風呂に興味がある為か、大人しくついてくる……あ

「そう言えば、先ほどの湯はどんな効果があったのですか?」
「ん? なんだろ。世界樹様とプルさんが好き勝手弄ってるから、詳しくは把握して無いんだよね~」

何か分からないものを勧めてたの!? いや、進めていたのはプルってスライムの方か。

「シスタ姉さんは<鑑定>持ってたでしょ? 見てみたら?」

シスタが先ほど入った池の方を向く。早速<鑑定>を使った様だ。
やっぱりシスタも、何時もよりちょっとテンションが高いわね。許可も貰っているし、良いんでしょうけど、ちょっと無配慮だ。私も同じ状態だとしたら、何時どんな失態を犯すか分からない。ここは大人しくしておきましょう。

<鑑定>の結果を聞くため、シスタの方を見ているが、様子がおかしい。血色が良かった顔が、見る見るうちに青ざめていく。そして、まるで岩石竜ロックドラゴンの様に、ゴゴゴと鈍い音が聞こえそうな程ぎこちなく、此方を向く。

「(パク)……、(パク)……」
「シスタ? シスタしっかりして!?」

何とか話そうと口を動かしているが、声が出ていない。言葉にならないとは、まさにこのことか。貴方は一体何を見たの? 怖いから早く正気に戻って!?
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