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76 竜と蟻の戦士②

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「!?」

外した? 違う! 気配だけで、姿は見えていない!! 騙された!?
マズイ、何処に行った!? 周りは火の海。隠れられる所なんて……いや、空中に居ないって事は!

全力で後ろに飛び跳ね、その場を離れる。それと同時に炎の海を突き破り、黒い爪が飛び出して来た。この炎の海を突っ切ってきた!?
危な……イヤ、この距離は当たる!!

腕に魔力を集め、狙われた首を庇う。
防げるなんて甘い考えはしない、腕一本は覚悟する。だけど、タダではやらん! 攻撃が当たると同時に、その爪を捕らえ、残った手で仕留める!
気配が迫り、相手の間合いに入る。攻撃の衝撃に対し身構える……が、まるですり抜けるかのように、気配が体を通り抜け、消え去った……。

「え?」

いったい何が起きたの!? いや、それよりも本物の彼は何処に行った!?

― ザシュ! ―

混乱する私の意識を、激痛が現実に引き戻す。

「~~~~!?」
「はー、はー、はー……へへ、そこを斬られると、アンタら竜種は、踏ん張りが利かなくなるんだろ?」

声がした斜め後ろを向けば、全身から煙を上げる、コクガ殿の姿があった。
あはは、良く分かってらっしゃる。斬られた足の指から流れて来る激痛を堪え、現状の把握に努める。

斬られた右足は……使い物にならない。
接近戦では、小回りの利く相手の方が有利な上、踏ん張りがきかない。
私の魔法や魔術では、あの速度を捕らえるのは難しいだろうし、ブレスの威力と発射までの時間も把握されてしまったでしょうね。

「どうする? まだやるか?」

降参を促してくる。向こうも、こちらの状態を把握しての発言でしょうね。暗に、何もなければ負けを認めろと言ってきた。
降参……降参ですか……。

「……私は賢竜の母と、吐竜の父の間に生まれました」
「?」
「竜族は、母の種族が大きく反映し、そこに父の種族の特性が加わります。私の場合は、ブレスが得意な賢竜になるはずでした」
「…………それで?」

クフフ、話に乗ってくれるなんて、優しいですね。

「母は賢竜と飛竜との間に、父は吐竜と地竜との間に生まれた竜でした。私は…………その全ての特徴を受け継ぎました。幼竜の時は、それはもうチヤホヤされたものです。一時期次の竜王はお前だとか言われてたんですよ? …………でも、そんな旨い話がある訳無いんです。私が受け継いだ特徴は、全て半端なものだったんです。その事に気が付いた周りの奴らは、掌を返したかの様に、蔑む様になりました。半端者、無能者とね」

賢竜の様に魔法や魔術を使えても、それを大量に処理する能力は無く。
吐竜の様に高威力のブレスを吐けても、それを活かせる魔力量も強度も無く、撃ち分けもできない。
地竜の様な体力があっても、それを活かせる強靭な肉体も鱗も無い。

「そして、飛竜ほど速く飛ぶことはできません……が、“滞空”という一点に置いては、飛竜に匹敵します!」

私は魔術を組みながら羽ばたき、空中へと舞い上がる。足の出血は、既に止まっている。

「私は、私を舐めて突っかかってくる相手を、全て捻じ伏せてきました。どうするかですって? 続行に決まってるじゃ無いですか! 私はね、負けるのが大っ嫌いなんだよ!!」
「ハハハハ、そうかよ! そんな気がしてたよ!」
「いくわよ! 『ファイヤーボール』!!」

狙いを定め、魔術で作ったファイヤーボールを放つ。

(ま、当たらないわよね)

高速移動からの急旋回、真っ直ぐ飛ぶだけの攻撃なんて当たるはずもない。分かっていたことだ。
でも向こうだって、空中に居る私には近づけない。遠距離攻撃を持たないのであれば、こっちの方が圧倒的に有利!
魔力袋に魔力を溜める、残りの魔力量からしたら、次の一撃ブレスが最後でしょうね。だからこそ、魔術による攻撃は緩めない。撃って、撃って、撃ちまくる!
このまま、やられっぱなしってことは無いでしょ? さぁ、どうする!?

― バゴン! ―

今まで以上の炸裂音が響いたかと思えば、支柱の間を、黒い影が縦横無尽に飛び跳ねる。ちょと、地上の時より早くない!?
あっと言う間に背後を取られ、黒い影が高速で迫る!
魔術で迎撃? ダメ、躱されるか、撃ち落とされる未来しか見えないし、他の種類の魔術を組む余裕もない。
ブレス? これもダメだ。この程度の溜では、この速度、恐らく倒す前に突っ切られる。そうしたら、急所を突かれ負け確定だ!
だったら、残る手は一つしか無いじゃない!!

「ガァ!!」
「ギィ!?」

振り向きざま、翼で魔力を乗せた空気を払いのけ、風の“魔法”を放つ。
流石に、風による広範囲攻撃は躱せなかった様ね。失速し、地上へと落ちて行った。
処理限界を超えて力を使った為、頭にチリチリと焼け付くような痛みが走る。これ以上の術の執行は、後遺症へ繋がる可能性だってある。けど!

「知った事かーーーーー!!」

限界まで溜め込んだ魔力を、無理やり圧縮する。操作しきれない魔力の反動に、頭と体が悲鳴を上げるが、そんなもの無視する! どうせこの一撃が最後なんだ! 今の私が撃てる、限界の一撃を!!

「ガァーーーーー!!!!」

地上に向けて、圧縮したブレスを放つ。ブレスの高温に耐えられず、口が、喉が焼けるのが分かる。
吹き飛ばしや焼き切りが撃てれば良かったけれど、今までと同じ焼き払いの形が限界だった。けど、熱量はさっきまでのブレスの比じゃないわよ?

「ヒュー、ヒュー、ヒュー」

魔力袋に溜めた魔力を全て出し切る、これでブレスは撃ち止めだ。喉が焼け息苦しいが、何とか呼吸はできる。
地上すべてが火の海に沈む。このまま終わる様な存在じゃないでしょ?
警戒しているところに突如、火の海から何かが飛び出してくる。ここに来て遠距離攻撃!?

「ク!」

咄嗟に羽ばたき、後ろに下がり回避しながら、何が飛んで来たか確認する。
そこには……何もなかった。

(また!?)

クソクソ! これで何度目よ!? 警戒していたのに、また引っ掛かる何て。
それよりも、彼は何処!? 視線を逸らしに来たということは、何かしらの行動をしてくるはず!
地上も、支柱にも何処にも気配は感じない。姿も……見えない。
ヤバい……ヤバいヤバいヤバい!!?? 何処から攻撃されるか、これじゃ分からないじゃない!

そんな私の焦りを余所に、上から何かが覆いかぶさってきた。目と、魔力袋に黒い爪が突き立てられる。

「どうする? まだやるか?」

同じ言葉を投げかけられる。あぁ……これは。

「……降参」
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