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44 黒い濁流(将軍)

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エスタール帝国:国境の砦 アザック
最高責任者:将軍 バルバロッサ・アックス・ガルガンディア

「範囲は!?規模は!?」
「不明です」
「種類は!?」
「不明です」
「いつ頃到達する!?」
「不明です」
「不明!不明!不明!全く分からんではないか!ハハハハハ!!」

こんな、国境の砦に配属になった時、それを決定したあの礼儀がなって無い小僧の頭を、何度かち割ってやろうと思った事か!
何が隠居だ!俺は生涯現役だ!
だがしかし!しかしだ!スタンピード!最後に起きたのは何時だったか!フハハハ! 腕がなるな!

「・・・見えました」
「ほう!相手はなんだ!テテレテか!?スレッチか!?」
「・・・分かりません、見たことがない魔物です。大きさは・・・3~4mほどの虫型です」
「ほうほう!デカいな!規模は!?」
「・・・正確な規模は不明です」
「ん?お前にしては珍しく曖昧だな!」
「・・・多すぎて視界に収めきれません。辺り一面、黒一色です」

なんと!<千里眼>でも見渡せない程の規模か!これはちと不味いか?・・・取り逃してしまうかもしれん。

「ガルガンディア将軍、ご指示を」
「砦にて迎撃する!騎馬隊は出陣!奴らを挑発して砦前に誘い込め!一匹残らず潰すぞ!!」
「ハ!」
「俺は出る!エナ!後の指揮はお前に任せる!」
「・・・何を仰っているのですか?」
「お前も、戦場というものを体験してみてもいいだろう!訓練では十分な――」
「戦いたいだけですね?」
「何を言うか、エナ!俺はな?お前のこと――」
「ガルガンディア将軍」
「な、何だ!その目は!それが上司に、将軍に向ける目――」
「お じ い さ ま ?」
「・・・」

いたたまれなくなり、視線を逸らす。むぅ、どうしても、あの目には逆らえん。
ますます親に似てきやがって。娘といい、孫娘こいつといい、しっかりとかあちゃんの血を継ぎやがって。

「・・・」
「・・・は~~~~、分かりました。指示はこちらで行います。好きなだけ暴れて下さい」
「フハハハ!分かっているじゃないか!」
「ただし!!」

武器を取り、出陣しようと行動を再開したところで、声が響く。おっと、悪寒が・・・。

「戦場に出るからには、しっかり指示に従ってもらいますよ?」

かあちゃん似の美人顔で、にっこりと微笑みながら言い放つ。周りの若いもん達の顔が赤く染まる。
ふ、若いな。あの笑顔の裏を読み取れんとは・・・昔の俺も若かった。
喜べかあちゃん、『冷妃』の名はしっかりと受け継がれているぞ・・・。

―――

副責任者:指揮官 エナ・ガルガンディア

北・・・問題なし。
南・・・問題なし。
東・・・

「オラオラオラァ!!どうした虫ども!その程度かー!!」

・・・問題なし。
将軍を先頭に突き進み、その勢いのまま、敵を押し込む。倒し切れていない敵は、他の兵士が仕留める。
防壁の方も対処できていますね。ここを突破されることは無いでしょう。

「指揮官殿!鑑定の結果が出ました!」
「報告を」

フム、【ベテルボロ・ラッチ】ですか、聞いたことが無いラッチ種ですね。能力的には体力が優秀で他は平均的、魔力関係が低いと。魔法や特殊能力を使うところも見られないですし、やり易いですね。

「指揮官殿、後ろ!」

報告に来ていた兵士の一人が、私の方向へと駆け寄ってきた。後ろを向くと、ラッチの一匹がこちらに向かって来ていた。
まったく、一匹取り逃しましたね。

「<アイシクル・エッジ>」

<詠唱破棄>で魔法を発動させる。氷の刃が伸び、足を切り落とし、胴体を貫く。そして、冷気によって体内から動きを封じる。
魔法への抵抗、対応もお粗末・・・弱いですね、数だけですか。

「鑑定官をここに、サンプルが増えました」
「ッ、ハ!」

データは、多いに越したことはありません。<鑑定>は近くで確認したほうが、精度が上がります。やって損は無いでしょう。
しかし、終わりが見えないですね。ペース配分を考えなければ。
<風魔法>を使い、音を遠くに飛ばす。

「ガルガンディア将軍、一度撤収してください」
「何故だ!!!俺はまだまだイケるぞぉ!!!」
「命令違反ですか?」

渋い顔をしながらも戻ってきます。あの距離から、魔法も使わずこちらまで声が届くとは、どんな声量ですか。
帰還して早々、不機嫌な気配を隠すこともせず、ズカズカと足音を立てながらこちらに向かってくる。

「何故撤退しなければならない!?」
「ペース配分を考えて下さい、将軍が問題なくとも周りの兵が持ちません」
「軟弱者め!鍛えなおしてやる!」
「後でお願いします、今はスタンピードの対処を」
「おう!兵士どもを置いて行けばいいんだな!すぐに出るぞ!」
「将軍お一人で殲滅されるおつもりですか?」
「ふむ、それもアリだな!」
「功績も経験も独り占めですか?」
「むぐぅ・・・」

伊達に将軍の地位にまで就いていません。こう言っておけば、一人での暴走は控えるでしょう。
兵士全体の実力上げももちろん必要ですし、嘘ではありませんよ?本当の理由は、いつまで敵の襲撃が続くか分からないので、戦力を温存する為ですがね。
おじい様が居ないと、殲滅が間に合いそうにないんですよ。兵士の魔力、体力、精神面の管理に敵の誘導。おじい様が動けなくなった時が、この砦が終わる時でしょう。
私に指揮を丸投げしたのは貴方です、しっかり使って差し上げます。

ツ カ イ ツ ブ シ テ ア ゲ マ ス カ ラ 、 カ ク ゴ シ テ ク ダ サ イ ネ?
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