41 / 330
40 黒い濁流(平民)
しおりを挟む
エスタール帝国:貿易都市エンバー 街道
魔の森と街を繋ぐ街道、先日の雨でぬかるんだその道を、一人の人間を乗せた二足歩行の蜥蜴の姿をした魔物が、本来ならあり得ない速度で疾走していた。
「シュー! シュー! シュー!」
「踏ん張れ、アムド! もう少しだ! もう少しで、エンバーに着く!」
「フシャーーー!!」
地蜥蜴は、その馬力と速度、何より優れた持久力から昔から足として親しまれている。
アムドは、生れた時から一緒に居る俺の相棒だ。そこら辺に居る地蜥蜴では、足元にも及ばない。
「カシュー! カシュー! ゲボゥ、カ˝シュー!」
そんなアムドでも、全速力で一日中走れば流石に限界だ。いや、限界なんて、もうとうに過ぎている。
嘔吐しながらも走り続ける姿を見ていると、何もできない自分が無性に情けなくなってしまう。それでも、止まる訳にはいかない。速く、少しでも早く! この事を伝えないと。手遅れになる前に!
道中頃、進路に影が見える。あれは、馬車? 商人か! 道のど真中で止まりやがって!
「おーい! 道を開けろーーー!」
聞こえてないのか? いや、車輪が道にハマって動けないのか? クソ!
「そこのお前! 止まれ!」
商人の護衛か? 動けなくなった馬車なんて、魔物や盗賊からしたら格好の獲物だ。
普段なら警戒して当然。だけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない!
「緊急事態だ! そこを通し――!?」
突然、空中に投げ出され、地面に叩き付けられた。まともに受け身も取れず、激痛が走る。あばらが折れたか?
「ゲホッ、ゴホ! ・・・!? アムド!!」
先日の雨で泥んだ街道、そこに空いた溝に足を取られてしまった様だ。相棒も泥のせいで、気が付かなかったのだろう。馬車もこれにハマったのか?
急いで相棒に駆け寄る・・・足が折れてしまっている、これでは、・・・もう走れない。
「何もんだてめぇ! 盗賊か!」
「違う! スタンピードが起きたんだ! 直にここまで来る、お前たちも荷物を捨てて速く逃げろ!」
「・・・プ! アハハハ! スタンピードだってよ!? 吐くならもっと上手いウソを吐けよ」
「今の体制になってから約20年、スタンピードを見逃したなんて、聞いたことがない」
「そんなもんが起きたら、すぐに知らせが入るようになったもんな」
「今時、そんなので騙される奴なんて居ねーよ! 仲間は何処だ? それとも、置いていった荷物を掻っ攫う算段か?」
護衛の人間たちが口々に否定してくる。殆どが20代の若造共、こいつらはスタンピードの恐ろしさを知らないんだ。
しかも、護衛の一人が剣先を向けてくる。このガキどもが! 説得する時間も無いと言うのに!
「スタンピードだと!? それは本当か!」
馬車から人が降りてきた。現れたのは、五十代半ばの男だ。その顔には、驚愕と恐怖の色がありありと現れていた。
この方なら、分かってくれるか!?
「貴方か主人か! 足が無くなってしまった。貴方の地蜥蜴を一匹貸してほしい! 頼む!!」
その男は、私と相棒のアムドを一瞥すると、少し考える素振りを見せる。
「・・・分かりました、お譲りします。馬車から外しますので、少々お待ちください」
「助かる!」
「おい、マジかよ」
「君達も手伝いなさい、荷物を下ろします。全てですよ」
「はぁ!?」
言い争いが聞こえてくるが、気にする余裕もない。俺は相棒のアムドへと向き直る。
アムド、すまないアムド、最後まで一緒に居たかったが、その足ではもう無理だ。置いていく俺を許してくれ。
― ドゴ! ―
「フシャーーー!!」
「ア、アムド・・・」
鼻先で殴られ、威嚇される。長年一緒に居たんだ。何を言いたいかくらい・・・わかる。
馬鹿にするな、サッサと行け!
そう、言われてしまった。
「外しました、急いでください!」
「助かった!」
譲ってもらった地蜥蜴に跨り、相棒を改めて見る。
「・・・シャ!」
「・・・あぁ、じゃぁな相棒」
今度こそ前を向き、走り出す。急げ、相棒の犠牲を無駄にしないために!
―――――
「行っちまった」
「雇い主さんよぉ、あいつが言ったこと、マジで信じるんですか? 今時スタンピードなんて・・・」
「当然だ、地蜥蜴を、相棒を犠牲にしてまで何故馬車なんぞを襲わねばならん」
「犠牲?」
「・・・この子、もう死んでるよ。全部出し切ったんだね、命が燃え尽きてる」
「え?」
「長年商売をしているとな、相手がどんな事を思っているか分かるようになる。命懸けなら尚更だな」
「・・・」
「事の重大さが分かったか? ・・・ターニャ、来なさい。若いもんも、死にたくないなら急げ、出発だ」
「わ、分かった」
「・・・うん・・・じゃあね、蜥蜴さん」
全ての荷物を捨て、全速力で街道を突き進む。この英断が、彼らの命を救う事となる。
魔の森と街を繋ぐ街道、先日の雨でぬかるんだその道を、一人の人間を乗せた二足歩行の蜥蜴の姿をした魔物が、本来ならあり得ない速度で疾走していた。
「シュー! シュー! シュー!」
「踏ん張れ、アムド! もう少しだ! もう少しで、エンバーに着く!」
「フシャーーー!!」
地蜥蜴は、その馬力と速度、何より優れた持久力から昔から足として親しまれている。
アムドは、生れた時から一緒に居る俺の相棒だ。そこら辺に居る地蜥蜴では、足元にも及ばない。
「カシュー! カシュー! ゲボゥ、カ˝シュー!」
そんなアムドでも、全速力で一日中走れば流石に限界だ。いや、限界なんて、もうとうに過ぎている。
嘔吐しながらも走り続ける姿を見ていると、何もできない自分が無性に情けなくなってしまう。それでも、止まる訳にはいかない。速く、少しでも早く! この事を伝えないと。手遅れになる前に!
道中頃、進路に影が見える。あれは、馬車? 商人か! 道のど真中で止まりやがって!
「おーい! 道を開けろーーー!」
聞こえてないのか? いや、車輪が道にハマって動けないのか? クソ!
「そこのお前! 止まれ!」
商人の護衛か? 動けなくなった馬車なんて、魔物や盗賊からしたら格好の獲物だ。
普段なら警戒して当然。だけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない!
「緊急事態だ! そこを通し――!?」
突然、空中に投げ出され、地面に叩き付けられた。まともに受け身も取れず、激痛が走る。あばらが折れたか?
「ゲホッ、ゴホ! ・・・!? アムド!!」
先日の雨で泥んだ街道、そこに空いた溝に足を取られてしまった様だ。相棒も泥のせいで、気が付かなかったのだろう。馬車もこれにハマったのか?
急いで相棒に駆け寄る・・・足が折れてしまっている、これでは、・・・もう走れない。
「何もんだてめぇ! 盗賊か!」
「違う! スタンピードが起きたんだ! 直にここまで来る、お前たちも荷物を捨てて速く逃げろ!」
「・・・プ! アハハハ! スタンピードだってよ!? 吐くならもっと上手いウソを吐けよ」
「今の体制になってから約20年、スタンピードを見逃したなんて、聞いたことがない」
「そんなもんが起きたら、すぐに知らせが入るようになったもんな」
「今時、そんなので騙される奴なんて居ねーよ! 仲間は何処だ? それとも、置いていった荷物を掻っ攫う算段か?」
護衛の人間たちが口々に否定してくる。殆どが20代の若造共、こいつらはスタンピードの恐ろしさを知らないんだ。
しかも、護衛の一人が剣先を向けてくる。このガキどもが! 説得する時間も無いと言うのに!
「スタンピードだと!? それは本当か!」
馬車から人が降りてきた。現れたのは、五十代半ばの男だ。その顔には、驚愕と恐怖の色がありありと現れていた。
この方なら、分かってくれるか!?
「貴方か主人か! 足が無くなってしまった。貴方の地蜥蜴を一匹貸してほしい! 頼む!!」
その男は、私と相棒のアムドを一瞥すると、少し考える素振りを見せる。
「・・・分かりました、お譲りします。馬車から外しますので、少々お待ちください」
「助かる!」
「おい、マジかよ」
「君達も手伝いなさい、荷物を下ろします。全てですよ」
「はぁ!?」
言い争いが聞こえてくるが、気にする余裕もない。俺は相棒のアムドへと向き直る。
アムド、すまないアムド、最後まで一緒に居たかったが、その足ではもう無理だ。置いていく俺を許してくれ。
― ドゴ! ―
「フシャーーー!!」
「ア、アムド・・・」
鼻先で殴られ、威嚇される。長年一緒に居たんだ。何を言いたいかくらい・・・わかる。
馬鹿にするな、サッサと行け!
そう、言われてしまった。
「外しました、急いでください!」
「助かった!」
譲ってもらった地蜥蜴に跨り、相棒を改めて見る。
「・・・シャ!」
「・・・あぁ、じゃぁな相棒」
今度こそ前を向き、走り出す。急げ、相棒の犠牲を無駄にしないために!
―――――
「行っちまった」
「雇い主さんよぉ、あいつが言ったこと、マジで信じるんですか? 今時スタンピードなんて・・・」
「当然だ、地蜥蜴を、相棒を犠牲にしてまで何故馬車なんぞを襲わねばならん」
「犠牲?」
「・・・この子、もう死んでるよ。全部出し切ったんだね、命が燃え尽きてる」
「え?」
「長年商売をしているとな、相手がどんな事を思っているか分かるようになる。命懸けなら尚更だな」
「・・・」
「事の重大さが分かったか? ・・・ターニャ、来なさい。若いもんも、死にたくないなら急げ、出発だ」
「わ、分かった」
「・・・うん・・・じゃあね、蜥蜴さん」
全ての荷物を捨て、全速力で街道を突き進む。この英断が、彼らの命を救う事となる。
22
お気に入りに追加
5,428
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う
馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない
そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!?
そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!?
農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!?
10個も願いがかなえられるらしい!
だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ
異世界なら何でもありでしょ?
ならのんびり生きたいな
小説家になろう!にも掲載しています
何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします
モブ以下転生者のゲーム世界無双〜序盤で死ぬモブの女の子を守るために最強になったら、物語に巻き込まれました〜
あおぞら
ファンタジー
主人公である長谷川空は、不登校の高校生。
そんな空の唯一の楽しみは、【ダンジョン☆スクール・ファンタジー】と言う世間ではクソゲーと呼ばれているゲームをすることだ。
空はそのゲームの中で、序盤に殺されてしまうサラと言う女キャラが好きだった。
どうにかして救おうとするが、いくらプレイしてもサラを死から救うことはできなかった。
そこで気分が落ち込んだ空は、ゲームを一旦やめてサラを救いたいと願いながら寝ることにすると……。
目が覚めたら【ダンジョン☆スクール・ファンタジー】の世界で空は、ソラと言うモブですらないキャラに転生していた。
そこでソラは、今度こそサラを救うためにゲームの知識を使って圧倒的な速さで強くなっていく。
全てはサラを死から救うために……。
○カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています。
○2022.08.04 HOTランキング10位
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
危険な森で目指せ快適異世界生活!
ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・
気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました!
2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・
だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・
出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!
♢ ♢ ♢
所謂、異世界転生ものです。
初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。
誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。
内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。
「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。
※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開を少し変えているので御注意を。
中ボス魔物【メタモルスライム】に憑依して復讐を誓う
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公ユノンは、同じ村出身の幼馴染たちと組んだパーティーで、パーティーリーダーを務めていた。だが、パーティーリーダーとは名ばかりで、その実態は、戦闘以外を全部押し付けられる雑用係だった。ユノンはそれでも、仲間たちと冒険できることに満足していた。なぜなら彼は病気の妹を村に残しており、仕送りを続けなければならなかったからだ。お金さえちゃんともらえればそれでよかった。
パーティーは順調に成長していき、Aランクパーティー【金色の刃】として名を馳せていた。Aランクパーティーになった彼らは《上級スキル》の選定式に参加する。今年は魔王が復活したこともあって、《勇者》の登場がまことしやかに噂されていた。そんな中、新進気鋭のパーティー【金色の刃】に注目が集まるのは必然だった。
仲間たちは順調に最強スキルを手にしていく、そしてなんとついに、《勇者》が出たのだ。だがその勇者はユノンではなく、前衛職のギルティアだった。だが勇者パーティーのリーダーとして、当然ユノンのスキルにも期待がかかる。そんな中ユノンが手に入れたのは魔族が得意とする闇スキルと呼ばれるスキルの一つ《憑依》だった。
ユノンはあらぬ疑いをかけられ、殺される。だが、その間際にユノンが使った《憑依》によって、運良くある魔物に憑依することができた。その魔物は中ボス魔物の【メタモルスライム】だった。これではすぐに殺されてしまう!そう考えたユノンだったが、ダンジョンの仕組みが自分のよくしっているゲーム《ダンジョンズ》にそっくりなことに気づく。これならなんとかなりそうだ!
※カクヨム、なろう、アルファ、ハーメルンにて掲載。カクヨム版のみ内容が少し違います。
※第5,6話は少し溜め回になってるので、はやく読みたい場合は読み飛ばし可能です。
※ピンチでも、ヒロインは無事なので安心してください。
※17~19話は強烈なざまぁ回です。作品の雰囲気だけでもお試しで読んでみてください!
※ダンジョン運営好きの方は、本格的なダンジョン運営は《SANDBOX》編からはじまるのでぜひそこだけでも!
※なろうハイファン日間8位週間10位!日間総合39位!
幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています
ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら
目の前に神様がいて、
剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに!
魔法のチート能力をもらったものの、
いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、
魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ!
そんなピンチを救ってくれたのは
イケメン冒険者3人組。
その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに!
日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる