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学園剣武大会

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ーー 学園祭剣武大会


王都にある学園では、入学6ヶ月ほどで学園祭剣武大会が開催される。
通常は中級クラスの腕に自信がある騎士希望と、上級の騎士希望または騎士仮入団の者達がその実力をアピールする場である。

しかし今大会には、新入生の化け物といえるベティーが出場する。
出なければいいではないかと思われる方もいるかもしれないが、騎士団は実力主義者である。
実力がある者が出らずに誰を出すと言うのであろう。
例年この大会の優勝者が騎士団のエリート部隊への登竜門となっていた。
今年の選手は、いかにあの新入生に対して健闘するかが見どころとなろう。

「ええ!私が出場するんですの?」
ベティーは担任教師からの出場命令に唖然としていた。
「そうです、貴方が先日王宮で騎士団相手にその実力を披露したことは、すでに多くの人に伝わっております。この大会は実力にある者がその実力を貴族や庶民に顕示することで、我が王国の実力と安心感を与えるものです。」
そこまで言われると断ること目できず、がっくりと項垂れて家路についた。

屋敷に帰ると、お母様とお父様が待ち受けてくれていた。
「ベティー、お前は我がホワイト伯爵家の誉だ。十分にその実力を発揮して、我が領民に安心を与えてくれ。」
「そうよベティー、貴方は強く美しいレディーよ。」
と両親とも大乗り気ではないか。それなら自分は全力で臨むしかないと考え直したベティーだった。


大会当日。
組み合わせは事前に公表されていたので、ベティーはそれに合わせて会場に現れた。
この大会は、賭けも行われていて今回ベティーは、ごく一部の者のみが知るお金のなる木である。当然両親は大金をベティーに賭けており、負けるわけにはいかない。

総勢32人の選手が4つの会場でその武を競い出した。
大きな歓声が上がり拍手が会場を盛り上げる。
最初の相手は、中級の騎士希望の少年だ。
大きな体に見合う大剣を手に会場に上がる。
その反対側に8歳の小柄な少女が体に見合う大きさの剣を腰に、会場に登場すると会場が別の意味で大きく騒つく。
「おいあんな少女が出て大丈夫なのか?」
「この大会に出るほどだ、きっと強いんじゃないか?」
「でもよ相手の大剣の大きな選手は、優勝候補の1人だろ。」
などと大会通の見学者の声が聞こえて来る。

コクリと頭を対戦相手に下げ、剣を抜いて対峙するベティーに、薄笑いの対戦相手が
「こんなガキが俺の初戦なんて、全くアピールにならねえじゃないか」
と愚痴る少年は、身体もだが態度も大きいようだ。

「始め!」
の審判の声で試合が始まるが、両者動かない。
「おいお前の一撃を受けてやるんだ、早く攻撃してこいよ。」
と馬鹿にしたように声をかける少年にベティーが
「その言葉そっくりお返ししますわ。貴方が動くところを見たい人もいるでしょうから、倒れるだけでは格好がつかないでしょう。」
と挑発すると、怒りに顔が赤黒くなった少年が大剣を構えたままベティーに突っ込んできた。
その突進を軽く交わすベティー、すれ違いぎわに少年の足を引っ掛ける。
前のめりに転びながら会場脇まで転がる少年にベティーが、
「そのまま場外に逃げてもいいのですわよ。」
とさらに挑発。
さらに怒り狂った少年が武技を使い本気でベティーに躍りかかる。

しかしその剣も手もベティーに触れることも叶わない、それ以上に見えない剣速で急所を数カ所軽く叩かれて、赤くあざが浮き出る。
「それではゴブリンも倒せませんわよ。」
煽るベティーに、観客が湧き上がる
「すげーぜあの女の子、動きが全く見えねえ」
「賭けとけばよかったぜ。」
「やっちまいな嬢ちゃん!」

少年はもう恥も外聞もなく無茶苦茶な振りで剣をベティーに叩きつけるが最後は、額に剣の腹でしこたま叩かれて気を失って終了した。
この様子を見ていた騎士団の面々は、
「相手の実力が分からぬまま突っ込んで自爆のような戦い、まだまだのようだ。」
と手厳しい。


第二回戦は、会場が2つになってより注目が注がれる。
第2戦目に現れたベティー、既に分がついているように応援の声が聞こえる。

相手は優勝候補の上級生の男子、魔法剣士のようだ。
「始め!」
の声で魔法攻撃が飛んできた、さすが優勝候補の選手だ。
しかしその魔法はベティーには全く効果がない、ベティーは既に魔法無効及び物理無効のスキルを習得している為、ベティー以上のレベルを持たなければ効果が全くないのだ。
先制攻撃が無効化されたがすぐに次の攻撃を繰り出す選手、身体強化を行いさらに縮地に似たスキルでベティーの目前まで移動すると、風を纏った剣で斬りかかるがその時すでにベティーは、その場に居ない。
相手を見失った選手の後ろから首元に剣が添えられる。
「勝負アリ」
と言う審判の声に、潔く負けを認める選手。
騎士団側から
「連続攻撃も効果的で考えられている、今の実力でもそこそこできそうだ。」
と高評価だ。

第3回戦からは1会場での戦いだ。
第4戦目に登場したベティーはすでに今大会の優勝候補となっていた。

相手は同じく優勝候補と言われている魔法に特化した中級の少女だ。
「始め!」
の合図と共に少女の身体が分裂し始めた、分身体を作り出す魔法でさらに速さが抜きん出ているようだ。
ベティーの周辺を高速で移動しながら攻撃して来る少女の斬撃は、その細身から考えられないほど重いようだ。
しかし速度という時点で少女は負けていた、ベティーが一旦動き出すと少女にもその動きが捉えることができず、全ての分身体と本体が同時的に攻撃を受け倒された。
「勝負有り」
の言葉にどっと湧く会場。

第4回戦は残った4人での戦いだ。
すでにこのメンバーは騎士団入りが確実と言われる者達である。
第一戦も激しい試合が行われて、会場の雰囲気も最高潮。
第二戦目にベティーが現れると、大きな拍手が迎えてくれた。

相手の選手は優勝候補と最有力の上級生の1人、ケンウッド選手だ。
王都で1番の門下生を誇る剣術道場の麒麟児と呼ばれる少年は、じっとベティーを見定める。
「胸を借りるつもりで参る」
短い言葉を呟く構えるケンウッド選手。
「始め!」
の言葉が終わるかどうかという瞬間にベティーの目の前に移動していたケンウッド選手、コンパクトかつ急所を確実に捉える斬撃がベティーを襲う。
「キーン」
今大会初めてベティーの剣に触れた斬撃は、雨のようにベティーに降り注ぐ。
「かんー、キーン」
連続的に剣戟が聞こえる中、次第に音が小さく魔が空いてきた。
ベティーがその速度に完全に合わせてき出したのだ、とうとうとこがしなくなった。
今度は逆にベティーの剣がケンウッド選手に襲い掛かり出す。
次第に早く鋭くなる剣撃に思わず後退してしまったケンウッド選手。
最後は、喉元に剣を突きつけられ
「参りました」
と負けを認めた。
どっと湧く会場、決勝戦は1時間後に開催されるとアナウンスされる。


「ベティー、素晴らしい試合でしたよ。」
お母様がベティーを褒める。
「はいお母様、ホワイト伯爵家のために全力を出しています。」
と答えると
「我が娘ながら驚きの実力だ、早めに家督を譲るべきか?」
本気でそんなことを呟く父に
「お父様、私まだまだです。カッコ良いお父様をまだ暫く見ておきたいと思っております。」
と言うとデレっとした父親が
「任せておきなさい、いつまでも若く強い私の姿を。」
と本気で言ってたのは微笑ましい家族の会話だった。

1時間後。
「だだ今より本年の剣武大会の決勝戦を行います。」
「まず赤コーナは、昨年の剣武大会の優勝者上級生のダンダダン選手の入場。」
大きく湧く会場、
「続きまして今大会のダークホース、新入生にして騎士団を総なめにしたと噂のベティー嬢ですどうぞ入場お願いします。」
の声で姿を表すと、割れんばかりの大歓声が出迎えてくれた。

「始め!」
の合図で、距離をとる2人。
ダンダダン選手は、ケンウッド選手と同じ剣術道場の門下生。今剣聖と噂の選手なのだ。
剣術関係のスキルを多くものにしているダンダダン選手の戦績は、99勝無敗で今日100勝の到達するかと言う記念の一番となっている。

その剣術スタイルは、無形自在と言われ相手のタイプに応じて変化すると言われる。
そのダンダダン選手が、先手をとって襲いかかる。
スキル縮地で瞬間移動のように距離を詰めると、鋭く思い斬撃を振るう。
それを軽く剣を動かして流していくベティー。
残像が見えるほどの素早い動きで、5段突きから稲妻斬りと持てる剣技を浴びせるダンダダン選手。
両者の手はすでに常人には見えないほどの速さに、音のみがその異常なスピードを表す。
そして一際大きな音が
「ガガガーン!」
と響くと、ダンダダン選手の持っていた剣が半ばから折れていた。
そしてベティー嬢の剣先がダンダダン選手の喉のピタリとつきつけられていたのだ。
「勝負有り、勝者ベティー選手!」
の勝ち名乗りに、手を振って応じるベティー。

「素晴らしい攻防であった、あの斬撃を一つも受けることなく交わし続ける目と剣技、既に剣聖すら叶わぬかも知れぬ。」
騎士団長がそう唸る。

こうして今年の剣武大会は歴史に残る幕切れとなった。


ーー 打ち上げパーティーにて


学園の剣武大会の結果を受けて、王宮内でパーティーが例年通り開催された。
メインは成績優秀な学生であるが、来賓として王族や高位貴族がこぞって参加するのも例年のこと。
王国内における実権を握るためには、強い駒が必要なのだ。
将来有望な選手を若いうちからその傘下に収めようと、高位貴族が押し寄せて来るのだ。
「これより、表彰式をとり行おます。先ずは第3位の選手から・・」
こうして皆にお披露目を兼ねた表彰式を行う。
「続きまして第二位、昨年の覇者ダンダダン選手どうぞご登壇を」
ダンダダン選手が、騎士団長から記念のメダルと剣を受け取る。

「今年度の優勝者ベティー選手どうぞご登壇を。」
と言う言葉に、その場に不似合いなドレスを着た少女が登壇する。
ベティーの前には国王が立ち、記念のメダルと剣を一振り渡しながら。
「我が王国にまた1人、英雄が立ち上がった。王国の力となって民を守ってほしい。」
と言うとベティーは
「ありがたきお言葉、私ホワイト伯爵家の名誉にかけて王国の剣となることをここに誓います。」
と答えるとどっと歓声が上がる。

その後は普通のパーティーの様相を見せ始めるが、ベティーの近くだけ雰囲気が違う。
ベティーのドレスは、ベティーデザインでベティー創造の生地で作られた一点もの。
そばにいる母親も同じくベティーと同じデザインのドレスを大人の貴婦人として着こなしている。
その艶やかなドレスに魅了された、ご婦人達が目の色を変えて集まっているのだ。
「ホワイト伯爵夫人、このドレスはどこでお求めですか?」
「素晴らしいデザインでございます、商会を是非教えてくださいまし。」
とドレスの話題で盛り上がる中、夫人は
「これは我がホワイト伯爵領でのみ作られる生地と、娘ベティーのデザインのドレスでございます。近々少量でありますが、我がホワイト伯爵家の商会が販売いたします。その時は是非にご利用いただきくださいませ。」
と言うと、大きな反響が溢れる。
希少で素晴らしいドレス、どの言葉も貴婦人らの心を揺り動かす言葉なのだ。

その夜のパーティーの主役は、ベティー母娘の一人勝ちであったことは言うまでもないことだった。
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