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英雄ラルフの覚醒と祖国への想い

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ーー ミセール王国


ミセール王国は、魔王軍の配下身のタウルス率いる中央大森林の魔王軍に、王都を半壊される被害を受けた王国である。
王都内でミノタウルスを討伐したエストニアのことを、その後国王を通じて知ったミセール国王は、是非我が国に来てほしいと熱望していた。

今は復興に全力で望んでいるようだ。
そこに馬車で現れた男が、セガール王国のエストニア伯爵であると王都の門番に告げれば、上を下への大騒ぎになったのはいうまでもない。

かなり復興していると言えども、まだ多くの廃墟が目に付く王都内。
エストニアはその復興の手伝いを願い出た。
国賓級の相手が廃墟撤去を願い出て、どうしたものかと思っていたがすぐに動き出したエストニアを止めることもできなかった。
しかしそのエストニアの働きは、違う意味で目を見張るものだった。

廃墟に着くと手をかざし
「収納」
と唱えるだけで、廃墟は忽然と消えてきれいな更地のみが残る。
すると所有者の者に箱を用意させ、その中に大切と思われるものを次々に取り出していく。
探していたのもがあっという間に見つかった上、撤去が終了し感謝をする所有者。
その光景が数日続いて王都内の廃墟が綺麗になくなった。
予定では半年はかかると思われていた作業だったのに。

更に王都郊外の田畑に向かうと、魔物の死骸を山と出して荒らされた田畑の土と混ぜ込み肥沃な田畑を復元したのだ。
まるで神のような奇跡であった。
それをそばで見ていた弟子ラルフは、
「この人は、英雄という枠では語れない。神に最も近い人物でないだろうか」
と思い始めていた。


数日後に国王からの呼び出しが来た。
王宮に案内されたエストニアが見たのは、国王以下ミセール王国内の高位貴族らが出迎えた歓迎であった。
「私のような若輩者に過分すぎる歓迎、心が震える思いです。」
と答えるエストニアに国王が
「何を申される、貴殿があの魔王軍を退治してくれなんだったら、この国はトラザール王国の二の舞になっていたに違いない。救国の英雄を歓迎するには未だ国力が戻っていないが、可能な限りお礼をしたい。」
という言葉を下さった。
「身に余る光栄であります。」
膝をつき礼を尽くすエストニアに、更なる尊敬の雰囲気が溢れた。

今回の魔王軍の氾濫は、この世界の大きな影響を与えた事件だった。
世界が滅ぶこともありうる事態であったと、その時感じたエストニアであった。

歓待されていても毎日の訓練は続けていた、エストニアとラルフ。
その訓れを見聞きしたミセール王国の騎士団も、訓練に参加し始めたのは無理勝たぬことであった。
しかもその流れで、騎士団が壊滅的に倒されることも。
「やはり我が王国軍が弱いわけではなかったのだ。」
と呟くラルフだった。

日毎に実力を付けていくラルフ、しかし稽古相手があまりにも強く歯が立たないために、自分が強くなった実感が得られないのも確かであった。

その後王宮を辞してセガール王国に旅を続ける2人が、中央大森林に辿り着いた。

「大森林の中でここは特別な場所だ。己の力を確かめるにこれ以上の場所はないであろう、見事修行に結果を見せてくれ。」
と言われたラルフは、半信半疑に森に踏み入る。


ーー 英雄ラルフが覚醒する


中央大森林の中には、ドラゴンの生育場所が存在する。
エストニアはわざとその場所を目指して、進んでいく。

初めにラルフが出くわしたドラゴンは、青竜になったばかりの地竜であった。

「アース・ドラゴンだと!これを我が倒すのですか?」
「そうだまだ若いドラゴンだ、問題ない。」
と言われいやとは言えずに対峙するラルフ。
ラルフの気配に気づいたアース・ドラゴンは、素早くその太く長い尾で攻撃してきた。
避けることを諦めたラルフが、ドラゴンの尾を手で受ける。
「ドーン。」
空気を震わせるような衝撃が走り、手が痺れたがドラゴンの尾はラルフ手で塞がれていた。
「おお!俺の力がここまで上がっていたのか。」
勢いづいたラルフはそれから、無双状態でアース・ドラゴンを剣で切り刻んで倒した。

1人の男がドラゴンスレイヤーとなった瞬間だ。
その時ラルフの身体に力が漲る。
ドラゴンスレイヤーとなり、基本的な理が人外となったのだ。
「これがドラゴンスレイヤーの力なのか。」
英雄ラルフが覚醒した瞬間だった。

その後は、ラルフが出会う魔物を次々に屠ってそれを収納するエストニアという感じで進み、大森林を横断し切った。
「ようこそ、我がセガール王国に」
とエストニアがラルフに言うと
「師匠今後もよろしくお願いします。」
と頭を下げた。


エストニアがセガール王国に戻ってきた情報は、直ぐに王国に伝わった。
その頃王国では、魔王の討伐、勇者のヒカルの聖皇国への帰属、被災国でのエストニアの活躍の情報が次々にもたらされていた。
「エストニアを侯爵にするしかないか。他国に取られるわけにはいくまい。」
と言うような話がされていた、それを聞きながら父ケンドール公爵は
「エストニア伯爵を、地位や名誉で転がるような育て方をした記憶はない。他国の目を気にしたような態度こそが、エストニア伯爵に不信感を持たせると感がないのか。」
と叱りつけるように会議の高位貴族に対して言った。
それを聞いていた国王も
「その通りだ。エストニア伯爵は実績で侯爵にするのは構わぬ、十分な働きをしている。しか他国の目を気にするような言動は、今後厳に禁ずる。」
と付け足した。


それから数日後、エストニア伯爵が王都に着いたと報告を受けた国王が、エストニア伯爵の報告を受けるために王宮に呼び出した。

「長い間苦労をかけた。魔王討伐見事である、我がセガール王国の名を高めてくれたその働きに、我が王国はその方を侯爵とすることが決まった。」
「ありがたき幸せ、慎んでお受けいたします。」
と首を下げるエストニア。

「してその方の後ろに控える者をワシは初めて見るが」
と聞かれ
「はい陛下。これに控えし者は、トーラル王国の者で私の弟子となった者です。」
と答えると
「お主も弟子を取る歳になったか。分かった。」
と話は問題なく通った。

その後は両親に挨拶を行い、パーティーメンバーと集まって魔王討伐の話と弟子のラルフがマッケンジー君と模擬戦をしたりと、楽しいす日を過ごした。

ラルフはここに来て思い知った。
「エストニア様が規格外だとは分かっていたが、パーティーメンバーの方々もあの年齢で、信じられぬほどの実力者ばかり。多分一人一人が他国では英雄と言われる者以上の実力者であることは間違いなかろう。」
その事実を知ったラルフは、セガール王国の底力を目にした気がしたが、それもエストニア他メンバーの領地を見て回ると、まだまだだと実感した。

「何ですかこの地下都市は、そして移転陣による商品の運搬、夜でも明るい街中、うまい食事にふかふかの寝具と温かな屋敷。ここは本当に同じ世界なのですか?」
と食いつくラルフは、貧しい騎士家に生まれ育っていた。
「このような家に、食事を我が王国に持ち込めないのであろうか?」
ポツリとこぼした独り言を聞きつけたエストニアが
「可能だよ、ここと同じような都市は既にセガール王国にはいくつもある。
ラルフの国に作る事など、大した苦労でもない。」
と言われたラルフは、光明を見た気がした。

その後ラルフは、剣技を研鑽するとともにエストニアの街を回り、自国に導入する技術を覚えて回った。

2年ほど修行して技能を身につけたラルフが、
「師匠お願いがあります。修行途中の身でありますが、一時帰国して身につけた技術を故郷に伝授してきたいと考えております。承諾していただけるでしょうか?」
と頭を下げて言った。

「いいだろう、私も指導に同行しよう。明日にでも国王に許可を得てこよう。」
と言ってくれた。


ーー 英雄ラルフ故郷に戻る


エストニアの魔法で国境沿いにまで転移魔法で移動したラルフ。
「私はまだ師匠について知らないことが多くあったようです。」
と驚いていた。

国境を越えて砂漠を越えてトーラル王国に入ったラルフはまた驚くことになる。
サンドワームに荒らされた我が故郷が、実り豊かな穀倉地帯に蘇っていたのだ。
「これはどお言うことですか?以前ですらここまでの実りは無かったと記憶しております。」
と驚くラルフに、
「お前は知らなかったのか?私は荒れた田畑を耕して回っていたことを。」
「ええ!我が王国でもしてくださっていたのですか?」
と今更ながら驚き感謝していた。

王都が近づくにしたがい、新しく建て直された町や村を見ても驚かなくなったラルフが、
「私の心も幾分強くなったようです。」
と苦笑いしていた。

王都に着くと直ぐに王宮から呼び出しを受けた。
「英雄ラルフよ、早い帰国であるが、修行は終わったのか?」
と問う国王に
「修行はまだ半ばでございます。しかしそれ以上に私が身につけた技が、この国の豊かさの一助になると思い一時帰国を許されました。」
と答える、それに対して
「この国をこれ以上の豊かな国に出来ると?」
「はい、実り多くなった我が国を見て確信しました。国王に申し上げます、私に都市開発を命じてください。永年の問題解決の技を学びました故に。」
「そこまで言うなら許そう。して期間は?」
「はいこの王都であれば、6ヶ月頂きたいと思います。」
「分かった、それでは6ヶ月後に確認しよう。」
と言うと一時帰国が許され、王都開発が許された瞬間だった。

それからラルフは、エストニアの力を借りて、王都の地下に大きな地下都市を作り上げたのだった。
更に温泉を掘り当てると、大きな大衆浴場を作り、温泉熱と温泉を使った床暖や家温泉を作り始めた。

地下都市は、セガール王国と同じように雪に閉ざされる白の季節に、活動できると大喜びで受け入れられた。
さらに移転陣は、貴重なものの搬送に活躍し始めた。
地方で豊作が続き、それを運ぶ手段が限られていたトーラル王国でも数本の鉄道を敷き、大量輸送を可能にした。

1年後、ラルフは国王の前に頭を下げ待機していた
「ラルフよ頭を上げよ。」
国王からの言葉に頭を上げるラルフ
「お主の言葉の通り、1年待った今日はその結果を見よう。案内せよ。」
と言われたラルフは、国王を地下街へと案内した。
「これが地下都市と言われるものか、確かにこれであれば白の季節も関係ないのう。」
と感心する国王を鉄道機関車の客車に案内する。
「これは何か?」
「はいこれは、地方で収穫した穀物などを、大量には早く安全に運搬する魔道列車でございます。」
と言うと合図をして走ら始める。

「何とも早く乗り心地が良い。」
と喜んでいた国王に小腹を満たす程度の料理を提供する。
「何ともうまいものじゃ。これを我が王国で食べられるのじゃな。」
と言ってる間に終点についた。

国王を案内して地上の出口に、
「ここはどこじゃ?」
「ここは大砂漠に直ぐ北の街です。」
「何!今の時間で・・あそこまできたと言うのか」
信じられぬ思いで周りを見回した国王が見慣れたものを見つけた。
大砂漠を見張る見張りの塔である。
「確かにここは大砂漠のそばであるな。ラルフよでかした、これらのものは我がトーラル王国をさらに豊かにするものと確信した。さらなる修行をして胸を張って帰ってくることを、わしは待っておるぞ。」
と言葉をかけられたラルフは涙するほど感動していた。
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