神の加護を受けて異世界に

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覚醒

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ーー ある日の森の中 ー


俺はハル、教会で育てられている孤児の中で1番の年長だ、次の春には鍛冶屋の親方に弟子入りする為にもう直ぐみんなとお別れだ。

 そこで森で最後の思い出に皆んなで大物を狩ろう言う話になり5人で森の奥に来ている、しかしまずいことに奥に入りすぎた為魔物に囲まれ身動きができなくなっている。

 一番年下のカイがメソメソし始めた、俺でも泣きたいもうすぐ日が暮れ始める、暗くなるまでに何とか森の外に出なければ大ごとになる、いや命さえ危ない。

 周りを取り囲んでいるのは、ウルフ系の魔物で群れで狩りをする為子供では逃げ切ることは難しい、するとカムイが俺に

 「ハル兄、俺が魔法でウルフを追い払うからみんなを連れて逃げてくれ」

と言い出した、魔法が使えるなんて聞いていないし孤児に魔法が使えることなんか聞いたことがない。

きっと嘘を言って俺たちを逃がそうとしてるのに違いない

 「だめだ、魔法なんか使えるはずがないだろういざとなったら俺が何とかするから何もするなよ。」

ときつく言ったが、俺自体なんとかできるとは思っていない。


俺たちは木の上に逃れて魔物が立ち去るのを待っていたが、カイが泣き疲れたのかおおきくバランスをくずし木の下に滑り落ちた!慌てて助けようと木の下に飛び降りた俺だがそれを待っていた魔物が直ぐに襲いかかってきた。

ウルフの牙に噛みつかれると覚悟して目を瞑っていたが大きな音が聞こえたと思ったら噛みつかれることもなく時間が過ぎた、目を開けると目の前にウルフ3頭の死体が横たわっていた。

 「早く、逃げるよ皆んな!」

カムイがそう言いながら周りを囲むウルフに雷を落としてゆく。

カムイは本当に魔法が使えるようになったみたいだ、俺はここで逃げなければこの音を聴いた魔物がどんどん集まってくると考えて

 「おい、メイ・ヒロ直ぐ降りてこい逃げるぞ」

と掛け声をかけ怯んだウルフの間を抜けて森を走り出した。

その後も、雷の音が連続して聞こえていたが誰一人として襲われることもなく森の外に逃げることができた。
森の外では、帰りの遅い俺らを心配したシスターらが探しに来ていた。

 教会についた俺らはその日はシスターらからしこたまお説教を受けたのは言うまでもない。



ーー シスターアリアー

 今日、教会の子供らがみんなして森に入っていったまま帰って来ないので森の入り口まで探しにいった。

森では雷の音が連続して聞こえ、何か異常があっていると思えた。

すると走って子供らが森から飛び出してきた、怪我はないようだが皆んな真っ青な顔で私を見つけると涙を流しながら抱きついてきた、最後に森から出てきたのはカムイで彼だけはいつも通りの顔で汗一つ流していなかった。

話を聞くと魔物に囲まれカムイの魔法で追い払いながら逃げてきたと言うではないか。
直ぐに教会に連れて帰ると皆んなを集め説教を行った。


しかしあの雷の音がカムイの魔法とは信じられない気持ちであった。

何故なら雷はかなりの高位の魔法使いでなければ使えない属性魔法でしかもあれほどの数を連続して行えるなど聞いたことがない。

やはりカムイはかなりのスキルを授けられたことが窺えるがそれでも習いもせずに魔法は行使できるのであろうか?

それからしばらくして、村人の1人が大怪我を負ったと教会に運ばれてきました。

その怪我は本当にひどく生きているのが不思議なぐらいの怪我で、ひと目見ただけで助からないことは分かりました。
するとカムイが私に

 「シスター僕が回復魔法を使ってみるのでどこかの部屋に運んでいいですか」

と耳打ちしてきた

信じられない気持ちもありましたが傷ついた人をそのままにするわけもいかず、小部屋に運び込むとカムイは扉を閉め私と2人きりになると回復魔法を発動したのです。

私もシスターの修行で回復魔法の中まで使えますがそれでも今回の怪我は治すことができません、それをカムイはいとも簡単に回復させたのです、多分回復魔法上以上の能力があるはずです。

 「シスター、体の構造をよく知ると回復魔法は同じ能力でも一つも二つも上の効果が上げられます、病気についても同じです。僕は僕の手の届く範囲の人を助けることを基本に生きていこうと思っています、ただ教会に残るかはわかりません。」

と言うではないですか。

これだけの回復魔法を使え人助けをすると言うのに他に何になろうと言うのでしょうか?ひょっとして私の知らない魔法やスキルがまだあるのでしょうかそうなると英雄や勇者のようなお伽話のような人生を送るのかもしれません。

シスターカリーナに早速手紙を出して知らせておきましょう。



ーー シスターカリーナ ー


今日シスターアリアから手紙が届いた、今度私が教育する予定の孤児の話のようだ。

手紙を読み進める手が感動に震え出しました。

その子はまだ10歳の子供であるにもかかわらず、すでに回復魔法(上)以上の使い手で、攻撃魔法についても連続で森の奥から森の外まで走り抜ける間雷魔法を撃ち続ける魔力量と能力があるそうで、更に他にも高度な魔法が使えそうだと書いてある。

 その上人助けについては「手の届く範囲の人助けは行う」と言い切っているが教会の枠には収まらないようだとも書かれていた。

この子は多分私が最後に育てるべき子供に違いない、神が私の命を長らえさせたのはこの子に出会う為だと本気で感じました。

私は、早速魔法関係のあらゆる書物と優秀な家庭教師を探し始めました。



ーー 王都へ ー


僕も11歳になり王都に出ることになった、同行するのはハーゲン神父とシスターアリアだ、これは中央教会のお偉いさんからのお達しのようで専用の馬車で10日ほどの旅である。

途中町々に立ち寄り病気や怪我人を癒しながらの旅のため街を観光するようなことはできなかったが、シスターアリアと共に怪我人や病人を癒すのは楽しかった。

当然のこと皆んなはシスターアリアが癒していて僕はその手伝いだと思っている。

かなりの数の人々を癒しながら旅をしたため、途中からはその噂で多くの人たちが列を作って待っていたほど。

神父は金を取ると言っていたので誰も神父の治療は受けず、シスターの方に集まっていた。

大きな城壁が見えてきた、この世界では魔物の氾濫などがあるため高く丈夫な城壁で王都を守っていると言う。

王都に入ると、遠くに立派な城が見えてきたあれが王の住む城のようだ、そしてそこから北に進んだところに王の城と見比べても見劣りのしない教会が悠然と佇んできた。

その教会の中央の門を潜り大きな広間に案内された僕らはそこで、シスターカリーナと対面した、ハーゲン神父はどこかの司祭に用があるとか言ってさっさといなくなった。

シスターカリーナはアリアと僕を個室に連れてゆくと

 「遠いところよくきました、私が貴方の教育をするカリーナよ。
 貴方のために可能な限りの教育をするつもりだから力を出し尽くして努力してくださいいいですね」

と力強い言葉と温かい声で僕に話しかけた。

 「はい、13歳までは期待の応えられるように努力します。その後は改めて相談させてください。」

と答える僕をしっかりと見つめながらカリーナ様は

 「ええ、いいわ。その代わりしっかり神に感謝をしてくださいね。」

と言ってくれた。



ーー シスターカリーナ ー


今日待ちに待ったあの子が教会に来ました。

アリアもしっかりシスターとして成長した様子が見て取れましたが、あの子はやはり特別でした。

私は、魔力を見ることができるのうりょくがあります、あの子を見た瞬間、雷に打たれたかのような衝撃を受けました。

体から少しも魔力が漏れていないにもかかわらず、内包する魔力が桁外れに大きく強いのが一眼で分かるほど彼の身体が輝いていたのです。

そしてその目は、澄みきっていながら知性の色が濃ゆく意思の力を感じさせるものでした。

早速次の日から教育が始まりましたが、王都でも指折りのはずの教師らが数日もせぬうちからサジを投げ出し始めました、彼の方が優れており教えることができないと言う理由からです。

そう、彼は教養については礼法等の実技以外なら国の最高峰の頭脳があり、回復魔法については上級以上と言えるほどで息さえしていれば助けられると思えるほどの力量で使え、魔法も呼んだ教師以上の威力と繊細さを持っていました。

そこで試しに剣術や体術の教師を呼ぶと一月ほどで誰も勝てないほどの腕前になったのです。

彼は、女神の使徒様の可能性さえあります。

使徒様は、世界中を旅しながらありとあらゆる魔法と剣を使い人々に平和と癒しを与えたと伝えられています。



ーー 2年があっという間に経ち ー


 明日の成人の式を控えて僕は部屋の中でこれからのことを考えていた。

この2年間この教会で学び実践してきたことは、無駄ではなかったと思う。

回復魔法でも他の魔法でもこの教会いやこの国で僕以上の魔法使いは存在しないと思う、これは奢りでも何でもない事実だ、しかしここで助けられる人はここにこられる人ばかりまたは、貴族や王族のような恵まれた人ばかり、僕はこの力を貧しく力ない人のためにこそ使うべきではないかと考えている。

 僕個人のできることはそれほど大きなことではないかもしれないしかし、それでも何もせずにはいられない。
その夜、シスターカリーナの部屋を訪ね

 「明日の式が終わったら僕はたびに出たいと考えています。
 世界を回って貧しさや病気で苦しむ人々を1人でも助けながら回ってみたいと思います。」

と言うとシスターは

 「お前がそう言うことは分かっていた、世界を回って自分の力と下々の生活を確認してくるがいいだろう。」

と言って旅立ちを許してくれた。

成人の式の日、僕は多くの同年代の子供と式場にいた。

1人ずつ名前を呼ばれ成人したことを女神に祈り式は終わるはずだった、僕の名前が呼ばれたその時、天から一条の光が降りてきて僕を照らし光が僕を包み込んだその時間はごくわずかな時間であったがその異常性は誰の目にも明らかであった。

僕はそこでこの世界の女神の加護を得た。

ステータスの数値が異常に上がり、上限が無くなっていたそして称号に

 「神に連なるもの」

と記載されていた。

7日後僕は教会の騎士と身の回りの世話をする従者を連れて馬車の旅に出た。

本当は1人で旅立ちたかったが、色々なしがらみと利害のため女神の使徒様として派遣される形として旅立つことになった。



ーー 旅の仲間 ー


 教会はその信者が国家を揺るがすほどいるため、組織も巨大で王国のように近衛兵や騎士団のような軍事力も持っている。

その名を「聖騎士」と言い白い鎧に身を固めた騎士である。

僕のそばにいるのもそんな騎士の1人で女性である、名前をエストレーナと言い女性といえどその戦闘力は高く一騎当千と呼ばれる豪のものである。

従者は、教会で育てられた孤児であったり神父やシスター見習いのものであったりするが僕のそばにいるのは、中央教会に来てからずっと世話をしてくれている

 ダンク 25歳の男とエレナ15歳の女の2人で孤児院育ちでダンクは神父見習い、エレナは回復師見習いである。

 馬車は、一見すると4人乗りのこじんまりとした代わり映えのしない馬車だが中は、僕の空間魔法で大きな屋敷ほどの空間があり幾つもの部屋が備え付けられている。

乗り心地についても異世界の知識を使いエアサス式のクッションで揺れや振動がほとんどなく車輪も鋼鉄を空気の入った硬質ゴムのような不思議素材で巻いている。

水は魔法でも魔道具でも出すことができ風呂が備え付けられている。

食料についても僕の時空収納で数年分の食料が新鮮なまま保存されている。

馬車を引く馬は、僕の召喚魔法で呼び出した精霊種の馬で力強く寿命自体がない、さらに空に神獣と呼ばれる雷鳥を召喚し広範囲に上空から監視している。



ーー 聖騎士エストレーナ ー

私は教会の聖騎士団の副隊長をしていた、ある日教皇様から呼び出しを受け或る命令を受けた。

呼ばれた場所には教皇様とシスターカリーナ様がおられ

 「5日後お前は、使徒様をお守りしながら世界を旅してきなさい。」

そう言われた、そういえば数日前の成人の式の日に女神の加護を受けたものがいるとうわさされたことがあった。

女神の加護それ自体は珍しいが「使徒様」と呼ばれるほどのものではないと記憶している、そんな私の心を測ったようにシスターカリーナ様が答える

 「彼は、加護以外全てを持ってここに来た、そして加護を先日受けた教皇様が認める「使徒様」と言えるそんな彼をそばで手助けする騎士が必要になり貴方に白羽の矢が立った。期間の定めのない旅であるよく考えて応えて欲しい。」

と言われた、使徒様として必要なものを全て持っている彼とはどんな人物なのか、そんな物語のような人物と世直しのような旅をすると言うこれを断れる聖騎士がいようかいやいないであろう、私はすぐに決断し応えた。

 「ありがたくお受けいたします。」

と。

その日のうちの彼と顔合わせがあった、彼は私も何度か顔を見たことのある少年だった、なんせ13歳になる前から聖騎士団の訓練に参加しているのだ、ただ参加しているだけではない先頭を切って訓練をこなしているそれも汗ひとつかかずに。

私はその少年を聖騎士見習いだと思っていたが話を聞くと回復師だと言うそれも高位の、信じられなかったあれほどの武を持つ少年が癒し手だと言うことに。

私の記憶では使徒様はあらゆる魔法を使いとあったが彼も他の魔法が使えるのだろうかと思いながら出発の日になりこじんまりとした馬車に荷物を持った私がどこに積み込もうかと思案していると、

 「エストレーナさん、どうぞ荷物は中にしまってください扉に名前が貼り付けてありますからその部屋に置いてください」

と彼が言う、意外と冗談も言うものだと思い馬車に乗り込んだ私は固まった。

馬車の中はどこの屋敷かと思うほどの空間が広がり本当にいくつもの扉があり私の名前の貼ってある扉もあった。

恐る恐るその扉を開けるとそこには20畳ほどの部屋で大きなベットにテーブルセットにタンスがや化粧台が置かれてあった。

取り敢えず荷物を置くと名前のない扉を開けて部屋を確かめ始めたするとそこには、食堂であったり調理場であったり更には大きな浴室が備え付けられていた。

馬車から降りて周りを確認するが特別感はない、その後馬車を引く馬を見てまた驚いた。

それはただの馬ではなく精霊種の馬型精霊ではないか!その存在は強く気高く使徒様のための生き物ともいえた。

 『彼は空間魔法や召喚魔法も高位で使えることがわかる、ひょっとすれば私など警護する必要さえない可能性もある、そういえばあの時そばで手助けしてくれるものが必要と言われた、守る必要のない人物なのだ。』

私はこの時今まで考え違いしていたことにやっと気付いた、これは物語として後世に残る旅なのだと。



ーー 従者 ダンク、エレナ ー


私は、カムイ様の従者をしているエレナ。


今回カムイ様の旅に先輩のダンクさんとついてゆくことになった。

カムイ様は、恐ろしく賢くまた魔法が達者な使徒様だ、今までも色々なことをしてはみんなを驚かせていたが、今回の馬車は特別だった。

今まで制限していたのが外れたと言っていたように、この世のものとは思えないほどの魔法と改造をしていた。

それに馬車を引く馬でさえこの世のものではない精霊様だ。

ダンクさんはこの旅から帰ると神父になれると喜んでいるが、カムイ様の力を見るとほとんどの人は自分の力のなさに絶望するものだが大丈夫だろうか。

そう言えば聖騎士様のエストレーナ様はあの若さで騎士団の副団長というすごい経歴の方。



ーー 先ずはあそこに行こう ー


旅の最初の目的地は隣の国サハラ王国と決めている。

その国は砂漠の国で雨が降らなく水がとても貴重な国で、そのため作物の育つ場所が少なく隣国からの輸入に頼っていると、その代わり貴重な鉱石がよく取れる。

富裕層と貧困層の格差が大きく貧しい民が病気や飢餓で亡くなると聞いている。

シスターアリアがよく話してくれた、この世界にはとても生活が厳しい世界があると、できればそんな土地を回り少しでも人々を手助けしたいと。

その最初の目的地がそのサハラ王国だった。

馬車で行けば20日ほどで国境を越える、超えた途端砂漠が広がる世界、魔物も蛇や蜘蛛など毒を持つ魔物が多い国なのだ。

順調に旅を続けた僕ら一行、街道沿いの村や街に立ち寄りながら進むこと18日で国境に差し掛かった。

そこは切り立った山の谷を通る街道でそびえる山々が雲を堰き止め雨の降らない気候を作り出していることがわかる。

この山々を少し削ると少しはマシな土地になるかもしれないがどうしようか?

この世界は一信教で、教皇様の書状を持って旅をする僕らはほとんどフリーパスで国境を越えることができる。

最初の村についた、やはりそこは貧しい村だった。

雨の降らない痩せた農地は何も実らない、ぼくは村長の家に立ち寄るとあるものを差し出した

 「これはサツマイモという種類の芋です、こちらはジャガイモと言いますどちらも痩せた畑でもよく育つ品種です。沢山あるので先ずは腹ごしらえをしてから畑に植えつけましょう。」

と言いながら魔法収納袋からたくさんの芋を取り出し更に魔道具の水生成器を取り出すと魔石をセットして水を生成し始めた。

すぐに村人が集まり水を汲み始め、芋を籠いっぱい分けてもらうとそれぞれの家に帰り食事を始めた。

この規模の村なら魔石10個ほどで1年間の飲み水を賄うことができるだろう。

僕は土魔法で大きな穴を掘ると石で表面を固め泉を創り出し魔道具の水精製機を設置した。

その後水脈を探り井戸を掘ることにした、国境の向こうではあふれるほどの雨が降るため水脈自体は深いが大きな水脈が何本も走っている。

村の近くの水脈に狙いをつけ土魔法で穴を掘り下げながら壁を固めてゆく、一日中掘って100m程、3日目に水脈に届いた水圧で水が吹き上がると村人が僕を拝むように頭を下げた。

飲み水用の泉と別にさらに大きな泉を作るそこに井戸の水を引き入れ、それから畑沿いに灌漑用水を設置していった。
一番奥の畑まで灌漑用水が抜けると水をさらに先の大きな穴に引き込み池を作った。

これから先何年かすればここも豊かな村にらるだろう。

僕らは見送る村人を後に旅を続ける。



ーー 従者ダンク 神父見習い ー


砂漠の国サハラ王国の国境の村についた、山を抜けただけの場所なのにここは雨がほとんど降らない、そのため作物が育たず貧しい生活を余儀なくされている。

センターターク王国では貧しいと言えどもここまで貧しい集落は存在していないだろう、雨が降らないということがここまで生活を辛くするとは考えもしなかった。

この国の民は何故このような不毛の大地で暮らさなければならないのか?

この地こそ女神の教えや手助けが必要とされる場所ではないか。

しかし自分の無力さを痛いほど痛感させられることも事実だ、こんな国ではたとえ「使徒様」と呼ばれるカムイ様でもどうしょうもないだろう、そう考えていました。


しかし、カムイ様はやはり違っていました。

魔道具で飲み水を確保すると、「芋」と呼ぶ作物を大量に供出され、飢えと渇きを満たすとすぐに井戸掘りを始められ3日で溢れんばかりの水脈を掘り当てそのまま田畑への灌漑用水路を敷設してしまったのです。

村人は狂喜しカムイ様を拝んでいましたがカムイ様は何事もなかったように次の目的地へと旅立たれました。

これこそ神の使徒様の身技、奇跡を目の当たりにした瞬間で信仰とは何かと考えさせる事柄でした。



ーー 聖騎士エストレーナ ー


この旅はとても快適な旅でいつ迄でも何処へでも行けそうな旅でした、国境を越えるまでは。

隣国砂漠の国サハラ王国についた途端、わたしはこの世の地獄のような生活を目の当たりにしました。

砂漠の国と呼ばれるほどこの国は雨が降らないことは、知っていましたが、知っていることとそれを体験することは大きな差があったのです。

聖騎士としてわたしは自分の無力さを感じずにはいられませんでした。

そんな中、カムイ様は当然の如く水を生み食糧を与、村人の渇きと飢えを癒されました。

ここまでなら準備さえしていれば可能なことです、しかしカムイ様はそれからわずかな日数で井戸を掘り灌漑用水を敷設するという大きな事業をたった1人で行い作り上げたのです。

さらに乾燥に強い「芋」と言う作物の作付けまでされて、何の見返りも名声すらあの方には意味のないもののようでした、「ただそこで暮らすものたちの笑顔が見たい」と言われたのです。

カムイ様の話を聞くにあの険しい山々を少しばかり削り、川の水をこちら側に引けば砂漠の国サハラ王国もかなり豊かになると言われていました。

普通ならあのような剣山を削るなど夢のような話ですが、カムイ様が話されると片手間にできるのではないかと本気で思えるところが凄いのです。

カムイ様の話で心に残った話が一つ、

 人の人生や国の隆盛は、川のようなもの、豊富な水流があれば高いところから下々まで水は行き届く、しかし流れが止まれば水は淀み腐り果てついには干上がって誰もそれを手にすることはできない、川は険しい山々を日々削りながら幸せを運んでいるのだ。

人も国も同じだ豊富な水を得るための弛まぬ努力と、氾濫を抑える強い意志が未来を見せられる。

と言われた、なるほどと思ったと同時に奇跡とは干上がった川に今一度水の流れる川にすることなのだと納得が行った。
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