上 下
10 / 11

異世界で病院を経営する

しおりを挟む
ーー この世界で病院を医者を治療方法を確立しよう。


王都に戻った俺は、この世界で医者の真似事をすることにした。
先ずは
本拠地となる建物を・・・それからできれば病名ごとに治療方法を記した本を作りたいが・・。

タケヒロは、建物を取り扱う商会を訪れては、病院として使えそうな建物を探した。
「これなら何とかなりそうだ。」
気に入った地上3階地下1階の建物を購入し、内装を整え始める。
「ここは受付と待合室で、奥が診療室と水回り。2階が病室で3階はここで働く者の宿舎、地下は薬や食糧庫と実験室でいいだろう。」
一人設計図を書きながら悦に入るタケヒロ。
前世では健康体をいいことに全く医療や薬学に興味がなかった自分が、これほど恨めしいことはなかったが魔法の能力によって何とかなりそうだと気づいて、意欲が湧いているのだ。

その根拠は、先日レベルアップのメッセージと共に
「レベルが一定値に達しました、「竜の知識」「創造魔法」を使用できます。」
と言うのを聞いていたのだ。

竜に知識というのは、自分が知りたいことを念じると頭の中に表示されるのだ。
創造魔法は、具体的な物を創造できる能力なのだ。
二つを使えば、この世界のものはほぼ全て魔力によって創る事が可能だという事だ。

人手の確保、治療するのに自分一人だけでは問題がある。
そこで奴隷商に向かい、薬師や錬金術師、回復師の能力があるものを探して買い入れた。
・セシル~元薬師  30歳
・コルトバ~元錬金術師  35歳
・タウト~元回復士  28歳
の3人と、補助をする看護師・介護士役の女性を4人採用した。
その他孤児院の子供を使い走りに日雇で雇うことにした。


病院オープンの日、病人が来ることはなかった。
今まで存在しない施設で有る、興味はあっても効力や報酬の関係で足が向かないのであろう。
「しまった!料金表を明示するのを忘れていた。」
俺は慌てて、基本的な料金表を作り外からも見える場所に表示した。

料金表
・診察のみ~銅貨3枚
・薬~3日分、銅貨3~銀貨10枚
・ポーション
 初級~銅貨5枚
 中級~銀貨1枚
 上級~金貨1枚
・回復魔法~
 初級~銅貨10枚
 中級~銀貨2枚
 上級~金貨2枚
・治療魔法~銅貨20枚~金貨4枚

と書いた。
人が対応する場合は、割高に薬やポーションならば低めに設定して、多くの場所で対応できるように工夫した。
さらに効能が続く期間を設定した、販売日から15日間で有る。
15日を過ぎる前に持ち込めば半額で買い取ることにした。
ダンジョンや危険な森の奥に依頼で向かう冒険者にとって、常備しなくてはならないが使わない場合の買い取りは助かるものだった。
時間経過の確認は、5日ごとに色が変わり、15日過ぎると黒くなるのだ。

これで仲介して高く売る事が難しくなる。
他の薬師や回復士の仕事を奪わない手法でもあった。


ーー 商業ギルドと薬師ギルドとの関係


新しく事業を始める場合、既得権を持っている者や企業がいれば抵抗するのはしょうがない。
特に人の命に関わる商売の場合、売り手の言い値というところがある。
大きな儲けを新規の何処の馬の骨かも分からない者に、侵される事に黙っている者はいなかろう。
俺は商業ギルドと薬師ギルドに顔を出すと、貴族の意向を存分に発揮して登録をごり押ししたのであった。

さらに両ギルドから商品の納入を条件に出された事について、
「我が商品には使用期限が15日間と明確に決まっている、どの期間でどれくらい欲しいというのか?」
と尋ねれば、
「取り敢えず月に30本納めてください。」
と答えるのに
「15日しか持たないのに月に30本と言うのは、明確な理由が知りたいですね。私の治療魔法は新国王も認めたもの、無意味に廃棄されたのであれば王国に損失となります。いかに?」
と問い詰めると、明確な回答はできずさらに、国王の名を出されて下手なことも言えず。
「後程回答致しますのでこれで勘弁してください。」
と涙声になった。

薬師ギルドでも同じような事があり、こちらもその後何も言ってこなくなった。


俺は、日々病院を訪れる患者が増える中、病名と治療薬の書き取りを行い、約6ヶ月で最初の治療教本を出版する事になった。
その後も新しい病名や患者の様子を書き込むと、第二編という感じで出版を継続した。


身体の丈夫さを自慢し全く薬やポーションを準備しないどころか、金が入れば飲み食いに使い果たす多くの冒険者に、過去の自分を見ているようだった。
ここで健康保険という考えどころか制度自体無理なのは分かっている、でも何とかできないのかと思わずにはいられない。
特に残された幼い子供を見た時などは・・そうか!子供らの面倒を見る施設を作ろう。


ーー 私立孤児院という名の受け皿。


冒険者が依頼中に大怪我を負ったり、死ぬことは珍しいことではない。
その為、家族がその後の生活苦のために子供を孤児院に預けたりする気とも、責められないところで有る。
俺はその受け皿を作る事にした、俺の考えに専属の冒険者や従業員が必要だからだ。
病院の近くの廃屋を買い取り、更地にすると子供であれば50人は生活できる建物を作った。
当然食事や身の回りの世話をする者も必要になる。

スラム街の教会を卒業し始める子供らがいる。
仕事のあてがない子供を小さな子供の世話をさせる、さらに仕事を求める遺族らに料理や洗濯の仕事を住み込みでさせれば、一石三鳥くらいになった。

孤児院も勉強や目的に合わせての訓練をさせる、女の子らには魔クモの糸から作る布を使った、服の縫製などを身につけさせると、俺個人の商会で扱う商品も増えて言うことなしで有る。

今日も大怪我を負った冒険者が仲間と家族に連れ添われて病院にやって来た。
「この怪我は上級ポーション以上でないと命に関わるぞ。」
と言うと、怪我人の冒険者が
「それならこのまま死なせてくれ、家族や仲間に払いきれない借金を残せない。」
と言うのに俺は
「勘違いしてはいかんな、治した場合お前が治療費の分働いてく返す事になる、その間は家族はここで病院の仕事を手伝う事になるが、金はいらん。どうする?仕事も俺の専属として素材集めなどをする事になるが。」
と言うと、初めは言葉の意味がわからなかった冒険者も
「ありがとうございます、どうか俺の怪我を治してください。」
と涙ながらに訴えた。

怪我を治し、冒険者は家族と共に病院横の施設に引っ越してきた。
仕事がないときは、施設の維持管理をしてもらう。
そんな冒険者家族が5組ほど常に常駐する事になった。


ーー スラム街の生活


タケヒロ子爵様の領地となった旧スラム街の住民は、今どう言う生活をしているのだろう。
仕事は、沢山ある。
スラムの住民なら優先的に斡旋される仕事が、多種多様に存在している。
怪我や病気で働けなかった者も殆どは、治療を受け元のように働けるようになったものが多く、スラムを出てもう一度夢を追いかける者や旧スラム街で新たに生きる目的を見つける者など、色々で有るが誰も活き活きとしていた。

子供たちは教会で行われる、勉強と訓練で日々力をつけ、14歳ほどになると身につけた物を使って外で働く者や俺の商会や病院で働く者も多い。

今では飢えて腹をすかせる者や、人のものを狙うものは皆無と言って良い。
街の見た目も下手な平民の住居よりも立派なアパートメントで有るので、ここに住まわせて欲しいと言う入植者も多い。

税金は医療費の原資となるわずかな金額のみで、アパートメントの滞在期間は最大5年または上の子が14歳になるまでと言うと約束になっている。
ここで5年も真面目に働けば、市民街に家を持つことも十分可能で、店を持つ者も多い。

旧スラム街は今や夢を叶えるための場所としての地位を確立したといえる、今日も家族を連れた旅人が宿を探して旧スラム街に足を運んだが、あまりの綺麗さに場所をも違えたかとオロオロしている。
そこに教会の子供らが声をかける
「こんにちわ。ようこそタケヒロ子爵様の領地にいらっしゃいました、ご用件をお伺いします。どうされました?」
「いや。この街に今来たばかりなんだが・・泊まる場所がわからなくて・・」
「お仕事は決まっていますか?旅の途中ですか?」
「仕事を探しに来たんだ、ここに仕事を斡旋する場所があると聞いて来たんだ。」
「はいここで大丈夫ですよ、役所に案内しますね。どうぞこちらについて来てください。」
と言われ子供らに案内された家族が、役所で必要事項を書き込みながら仕事の斡旋を待つ。

「はい、3番の方。こちらに来てください。これをどうぞ、宿泊先と仕事先の名前と地図です。」
わからない時は、見かけた住民に聞いてくださいね。」
と紙を渡され、頭を捻りながら地図の宿泊所に着く。

「はい、新入りだね。名前と紙を見せて・・3番の部屋ですね。これが鍵です、2階に上がって3番と書かれた部屋に入ってくださいね。食事は朝6時、12時、夕方6時ですからね、食堂で食べてください。食費は5日間は無料ですからね。」
と言われ部屋に向かう、大きな建物で部屋がいくつも並んでいる。
3番と書かれたドアを鍵を開けて入ると、寝室二つ居間一つに倉庫一つの部屋だった。
トイレは部屋の中にあり、お風呂は一階に大浴場が男女別で備え付けられている。
部屋のベッドはとても寝心地が良く、お布団も軽くて暖かった。
部屋自体とても清潔で、下手な宿よりも立派だった。
一緒に部屋を見た娘が
「お父さんこんなとこに泊まって大丈夫なの?」
「大丈夫みたいだ、今から仕事先に顔を出してくるから、お母さんと待っていてくれ。」
と言うと父親は紙を手に仕事先に向かった。

仕事先は歩いて5分ほどの工房だった。
「あのー。仕事の斡旋できた者ですが。」
と言いながら紙を見せると、棟梁のような男が紙を見ながら
「大工の経験と家事もした事があるのか?よし明日の朝から仕事だ、遅れるなよ。」
と言うとカードを渡した、これが個人の記録を取るカードなのだ。

5日間働いた男は、見習いから正規の職人として働き始めます。
5日分の賃金を貰い、今日から食事代を払う事になりますが家賃は無料です。
妻も縫製の仕事をし始めました、娘は教会に毎日通い文字を教わっています。

「お父さん今日はね、私の名前が書けるようになっらのよ。」
と誇らしげに、父に伝える娘を見ながら
「本当に噂通りのところだ、これなら5年でみせを持つことも夢じゃない。」
「本当ね、私も縫製の仕事が上手くいけばもっと給金が上がると言われたわ。頑張りましょう。」
と笑顔で答えた。
小さな家庭に小さくはない幸せが灯りだした瞬間だった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

現代の知識と科学で魔法を駆使する

モンド
ファンタジー
山奥に住む男は定年後、実家のあった田舎に移り住んだUターン者である。 古くなった母屋を取り壊し、自分で家を立て始めていたがその作業中に埋蔵金を掘り当てた、時価総額100億円以上。 そんな悠々自適な生活を送っていたところ、子供の頃から不思議に感じていた隧道が自宅裏山にあったことを思い出す、どこに通じているかと興味に惹かれ隧道に入ると、歩くほどに体が若返っていくのが分かる・・・、そのまま進むと突然、光に飲まれ気づくと石積みの部屋に立っていた。 その部屋には脇に机が一つ置かれてあり和紙の紙束と日本刀が一振り置いてあった。 紙束を開くとそこには自分の先祖と思われる人物の日記が書かれていた。 『この先はこの世でない世界が広がり、見たことも聞いたこともない人々や 動植物に恐ろしい魔物、手妻の様な技に仙人の様な者までいる、しかもその 世界において身に付いた技や力は現世に戻っても変わることがない。志ある ならひと旗あげるのも一興、ゆめゆめ疑うことなかれ。』 最後のページにはこの言葉と「後は子孫に託す」との言葉で締められていた。 男は刀を腰に下げると出口と思われる方に歩きだした、10歩も歩かぬうちに光に包まれ森の洞窟の出口あたりに立っていた。 立っていた場所から車一台分の幅で未舗装であるがしっかりとした道路がなだらかな地形に沿って続いているのが見える、そこで男は食料や水を持っていなかったことに気付き一旦洞窟の方に歩き出すと、いつのまにか石室に立っておりそのまま歩くと隧道の入り口に立っていた、違っているのは17・8歳の若々しい身体の自分と腰に下げた刀が不思議な体験を事実と肯定していた。 冒険の準備を済ませ、自衛隊仕様のジープに荷物を載せて隧道に車を走らせると、あの石室を通過して洞窟の前にたどり着いた。 ここから男の冒険の始まり、セカンドライフよろしく21世紀の科学と不思議な世界で得たスキルで成り上がる男の物語。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

土下座で女神に頼まれて仕方なく転生してみた。

モンド
ファンタジー
ドジな女神が失敗を繰り返し、管理している世界がえらい事になって困っていた。 ここに来て女神は「ここまできたら最後の手段を使うしかないわ。」と言いながら、あるカードを切った。  そう、困ったら「日本人の異世界転生」と言うのが先輩女神から聞いていた、最後の手段なのだ。 しかし、どんな日本人を転生させれば良いかわからない女神は、クラスごと転生を先ず考えたが。 上司である神に許可をもらえなかった。 異世界転生は、上司である神の許可がなければ使えない手段なのだ。 そこで慌てた女神は、過去の転生記録を調べて自分の世界の環境が似ている世界の事案を探した。 「有ったこれだわ!・・何々・「引きこもりかオタクが狙い目」と言うことは・・30歳代か・・それから、・・「純粋な男か免疫のない男」・・どういうのかわからなくなったわ。」 と呟きながら最後は、 「フィーリングよね、やっぱり。」 と言い切ってカードを切ってしまった、上司の許可を得ずに。 強いのか弱いのかよく分からないその男は、女神も知らない過去があった。 そんな女神に呼ばれた男が、異世界で起こす珍道中。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

処理中です...