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プロローグ

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プロローグ


「ここ3日が山だな。家族の方に連絡しなさい。」
白衣を纏った医師が看護師に指示をしていた。
彼の担当の末期患者が、モルヒネの投与で痛みを和らげてはいたが、意識朦朧状態のまま心脈が弱り始めたのだ。

患者は45歳の男性、働き盛りの彼は健康診断を受けることもなく親の心配をよそに、徹夜上等の働き詰めで倒れるまで自分が病気をした記憶がなかった。

  1月前。

「癌です。」
「え!癌て誰が?・・もしかして俺が。でも治るんですよね?」
「・・余命3ヶ月です。末期癌です。」
「先生、本当に俺、癌なんですか?あと・・3ヶ月ですか。」
「いや余命は平均的なもので、保証するものではないんですが。これからの事について話しましょうか?」
「・・・1人に・1人で考えさせてください。」
と男性は言うとその夜に病院を抜け出していた。

「先生、205号室の患者さん戻ってきませんね。」
看護師が呟く、
「でも彼、下手すると一月持たないかもしれないかもね。」
と答える。
病気をしたことがない、健康にだけは自信のあるものによく見られる事で、末期癌だと告知されるとあっという間に病気が進行し短命になることがるのだ。


   1月後。


医師の予言通り、患者は戻ってきた。
かなり病状が進行している、仕事の後始末をしてきたそうだが生きる気力も無くしているようだ。

患者の名前は、田育 健康(タイク タケヒロ)45歳 中堅建設会社の課長として辣腕を振るっていた。
家族は両親のみで独身者だ。
趣味は仕事、他は仕事のためになる事を習得する事。
完全な仕事人間だ。


1人で戻ってきた男は、すぐに自分で動けないほど衰弱し始めた。
「ちょっと衰弱が異常だね。肝臓に転移していたのが影響しているのか。」
医師は既に治療ではなく痛みを和らげる対処法に切り替えていた。

7日後には意識が朦朧状態で、呼びかけにも反応が鈍い。


ーー  田育 健康 45歳


俺は自分で言うのもなんだが、健康だけには自信があった。
名前が健康と書いてタケヒロと呼ぶほど健康は持って生まれたものだったのだ。
それが「末期癌」と言われ、続けて「余命3ヶ月」と。

もう生きる気力を失ったよ、だって今まで生きて何をしたのかと考えても仕事以外思いつかなかった。
会社に顔を出せば、普通に回っていた。
俺はただの代用可能な歯車の一つだったのだ。

それが分かると急に体から何かが抜け出た気がした。
それから急速に体力がなくなり、ひと月もしないうちに病院に逆戻りだ。
しかも意識すら朦朧として定かじゃない。

夢心地の俺の枕元で、医師と看護師の声が聞こえる
『あと3日が山か。』できれば聞きたくなかったな。

その夜は妙な夢を見た。
俺が病気で倒れる少し前の状態で、森の中にいるのだ。
深い森で何も持っていない俺は、生きるためにあらゆる努力をするんだ。
武器を作り、家を作り、土器や道具を作り、そして大きな森の獣と戦い喰らうのだ生きるために。
とても「生きている」と言う実感がして、楽しくも苦しかった。

何故だかそんな生活をしているうちに、日々俺は若返るのだった。
さらに身体も強く力強くなっていった。
そんな時アイツにあったんだ。



ーー 奇跡か?それとも最後の命の炎か。


「先生、この患者おかしくありませんか?1日1日と顔色が良くなって来ていませんか。」
「うん~。たまに見られる症例だと思うが、定期的に血液とMRIを撮っておくか。」

その後も注意深く末期癌の患者は、見守られながら著しい変化を見せていった。

「先生、この患者。若返っていませんか?私ちょっと怖いんですが。」
看護師が不安を口にする。
「患者が元気になるのに怖がる看護師もあるまい。」


そしてある日。
患者の男は消えた。
防カメを確認しても部屋から出た形跡はない、本当に消えたのだ。



ーー 森の中。


「ここはどこだ?」
「えらく深くて大きな森だな。」
「誰もいないのか?と言うかここ日本か?」
独り言を連発しても、どこからも答えや返事は返ってこない現実。

「先ずは身を守る術を考えるか。」
何故かその場にいる疑問より、そこで生き抜くことが大切だと感じていたのだ。

自分で持つべき木を探す、重く身の詰まったまっすぐな木を。
「いい木を見つけたが・・・どうやって切るか・・。」
俺は石を探し始める、木を切る為の鋭くなりそうな。
石を拾っては叩いて使えるか試しながら、木の蔓をシゴいて紐のようにする。
適当な木に括り付け、斧がわりにして木を切り倒す。

時間がかかるがその日はいいと思える木を倒し続ける。

石包丁に石斧、石槍を作り狩に出る。
獣が通ったような道を探す、フンはないか、食べそうな木の実はないか。

罠も作る、木や蔓を使い小物なら大丈夫だろう。子供の頃を思い出すな。

穴を掘り落とし穴も作る、どんな事をしても生きるためには食べなければならないのだ。
「生きるために。」

川を見つけた、喉を潤す。
近くに竹に似た植物が生えていた、フシを利用して水筒がわりに水を汲む。
その日は獲物を捕まえることが出来ず、水で腹を満たした。

次に日の朝、罠を見て回る。烏大の鳥とウサギが掛かっていた。
鳥は首を挟まれ既に死んでいたが、ウサギは脚を挟まれたためまだ生きていた。
罠からウサギを外そうと、足を掴んだ瞬間ウサギの突進を受けた。
腹に思い一撃を受けたのだ、なんとか踏ん張り石包丁でウサギの首を掻き切る。
血を振り撒きながらウサギは暴れる、足を掴み逆さにもつとしばらく暴れていたウサギも、動かなくなった頭に変な角がある。

その時頭にメッセージが。
[経験値が一定に達しました、レベルアップします。]
と流れ、身体に力が湧く不思議な感覚があった。

獲物を河原に運び火を焚きながら捌いておく、羽を焼き内臓を取り除くとそのまま火にかけながら、焼いてかぶりつく。
味はあまりしないが、旨いと感じた。
その時頭にメッセージが。
[スキル俊速を手に入れました。]
「ん!俊速?スキル?これもよく分からない。」

川辺から少し森に入った場所に、3日かけ河原の石を積んで家の土台と壁を作った。
気を切り倒し屋根や床を張るのに同じく3日かかった。
河原にカマドを作り、鍋になるものを探した。

ここにはその様な容器や金属は落ちていない様だ。
海を探すしかない様だ、次に日から狩りをして川を下る事にした。


ーー 海を探す

川幅が広がるにつれて、魚の魚影が濃くなった。
竹を割いてモリの様にすると、川に潜り魚を突いて食糧にした。
10日川を降下り海に出た。

大きな二枚貝を海の中で見つけた、ホヤ貝の様なものだ。
石のカマドに貝をおき火を付ける、貝が開いた大きな貝柱に身を食べると塩味が効いて旨い。
貝殻はちょうどいい調理器具になった。
他にも帆立の様な皿に似た貝やウニの様な棘の鋭く丈夫な物を、見つけ道具に変えていった。

そう言えば昔本でローマンコンクリートの作り方を読んで、作ろうろしたことがあったあの時は・・貝殻を燃やして・・苦汁を入れたが・・温度は足らなかったんだ。

「木炭を作ろう。」
砂に深い穴を掘りいろいろな種類の木や枝を2m程の長さで、詰め込むと乾燥した木の皮に火を付ける穴に放り込む。
木に火がつき始めたところで、土の蓋をして空気穴を作る。
うまく燃えなかったり、炎が強すぎて燃え尽きたり失敗を繰り返しながら、なんとか木炭を作れる様になった。
その間にも貝殻を集め、大きく深い鍋の様な貝殻で海水を熱し塩と苦汁を作り始めた。

昆布の様な海藻も見つけ燃やしては灰にする。
かなりの量の木炭と塩に苦汁を作ったところで、川辺りに川から水を引いて石風呂を作る。
隙間は海藻と貝殻を燃やして作った、石灰と苦汁を土に混ぜて作ったコンクリートを詰めて防水した。
同じように石垣とローマンコンクリートで作った壁で、小屋を作り上げた。
ここまで2ヶ月近くかかっている。

小屋ができると保存食を作る事にした、魚の干物や肉に燻製だ。
甘いものが食べたいが今は見つけられていない。
貝殻の中にはカミソリのような鋭さを持つものがあり、ナイフや包丁がわりに使い始めた。

粘土を見つけ素焼きにして食器や壺を作り始めた、焼き入れ時によく割れたりして苦労した。
一度夜中に小屋の中から匂う燻製の匂いに誘われた、熊のような獣が襲ってきたが流石わコンクリート。
びくともしなかった、覗き穴から石槍を突き出し熊を攻撃し、足を怪我して逃げられなくなった所で、落とし穴に誘い込み落としてから顔を滅多刺しでトドメを刺した。
その時もあのメッセージが流れ力が湧いた。
やっとも思いで穴から引き上げ、皮を剥ぎ肉を捌いて焼き肉と燻製にした。

食べると例のメッセージが
[スキル剛力を手に入れました。]
と流れた、すると今度は明らかに腕力が強くなったことが分かった。
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