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プロローグと最初の開拓村

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   プロローグ

 俺の目の前に土下座をする自称女神がいる。

「あのう、何方かとお間違えではないですか?俺はただのサラリーマンで初めてお会いしますよね。」
俺は頭を上げない派手なドレスを着た、女性に声をかけた。

「分かった。と言ってください、そうすれば私は直ぐにでも頭を上げます。」
と言う女性は頭を上げそうにもない。
そこで俺はそっとそこを離れる事にしたのだが、後ろを振り向いた瞬間に足元に女性が土下座の姿のままで移動している。
「何これ!怖すぎるだろ。」
と思わず声を出してしまったが、どうやら彼女は俺に「わかった。」と言わせたい様だ。

「これは新たな詐欺の手法ですか。通報しますよ。」
と言いながらスマホの画面を見ると「圏外」になっていた。
「え!どうして?」
思わず周りを見回すが、人っ子1人歩いていない。
ここはどこだ?俺はどこにいるんだ?そしてこの子は誰?

連続する、疑問にパニックになりながら俺は決断した。
「分かった」
と一言。
すると土下座の女性が突然飛び起きた。
「おっと!」
慌てて距離をとる俺に、起き上がった女性は
「初めまして「引きこもり」さん、私は女神スベラートです。」
と自己紹介を始めたがそこで俺が
「誰が引きこもりだ。俺は小森一(コモリ ハジメ)35歳だ。」
と言うと、首を傾け
「だから・・一(引く)、小森(コモリ)でしょ?」
と言うので、
「確かに昔そんなあだ名で呼ばれたことはあったが・・でもこのリーマンの大人を捕まえてそれは間違いでしょう。」
と言うと。

その女は
「昔・・たかだか20年ほどのこと、今と変わらないでしょ。もう契約は終わったので、私の世界に転生させますね。」
とまた意味のわからないことを言い出した。

「わたしの世界?転生?あんたどこかのコリン星人かい?」
と言いながら俺はダッシュでその場を離れようと試みたが、足が動かなかった。
「なんで足が動かないんだ。」
俺の言葉を聞き取った女は
「いまから転生するからですよ。下手に動くと身体バラバラになりますからね。」
と怖い話をし始めた。

               ◇

39分後。

「あんたの話が本当なら、俺はもう転生するしかないのか。ならいくつか条件をつけるぞ。」
と言うと
「もちろんです。一応5つまでは応じる準備があります、どうぞ。」
と言われ俺は
「そうだな・・先ずは若くしてもらおうか。次には定番のアイテムボックスと鑑定だな。魔法が使える全属性と魔力最後に・・丈夫な身体だ。」
と言うと自称女神は
「それは定番すぎますね、いいでしょうもう一つ私からプレゼントして送り出しますね。」
と言うと俺は突然、目の前が真っ暗になった。


ーー 女神スベラート  side


「やっと転生することができたわ。誰にも気づかれていないし・・これで私の世界も助かったのよね・・。」
そう呟きながら女神は男に何をしてもらいたいか伝えるのを忘れていた事に気づいた。
「・・多分大丈夫よね。」


ーー 異世界に転生しました。

意識が覚醒し始めた俺は、目を開けて周りを確認した。

「また森の中か。・・どうしてアイツらは・・森に放り出すんだ。」
と愚痴をこぼしながら、俺は体と身の周りを確認し始めた。

手足を見ると「小さいな」子供だ、服は麻の貫頭衣の様なものに腰紐か。
魔力を感知しながら「鑑定」と唱える。

「女神スベラートの世界」
「センターターク王国東の森の中」
と鑑定結果が出た。

それなら「ステータス」と唱える。

ステータス
名前 ※※※      年齢10歳 性別 男 種族 人族(?)   レベル1(200)
HP 10(22000)    MP50(50000)   VIT20(30000)   STR30(45000)
AGI15(12000)    DEX8(3000)     LUK5(30)
スキル
 アイテムボックス  鑑定   身体異常無効  魔法全属性  魔力超回復
 創造魔法
加護
 女神スベラートの加護

これを見て俺は
「バカだろアイツ。HP10の子供を森の中にって・・何人生きられるのかて言うレベルだろう。」
と愚痴った。
俺はステータスを見ながら
「まだ昔のパラメータが生きてる様だ、これならなんとかなりそうだが・・どうするか?」
と呟いた、そう俺は以前別の神から異世界に飛ばされた経験があったのだ。
その時のステータスが()内の数字だ、さっきの感覚からすると使えそうだ。               

             ◇

1時間後。

「ほんとここどこだよ。今回もLUKの数値は低いから運に任せるわけにはいかないし・・!」
とこぼしていたところで、何かの声を聞いた。

「・・助けて・・誰か・」
幼い子供の声だ。
声のする方向に走る、そして今にもオークに捕まりそうな少女を見つけた。

「ウォーリャー!」
と叫びながら俺はオークの後頭部に蹴りを喰らわせた。
普通なら10歳児の蹴りなど、蚊に刺された程度の威力だが。俺の隠されたステータスなら当然。
「パーン」
頭が破裂した。

「ドサッ」
朽木の様に倒れるオーク、その向こうに意識を無くした少女が1人。


             ◇

30分後。

河原でかまどの準備をしていると、少女が目を覚ました様だ。
俺は知らないふりをしながら、かまどに火をつけて肉を焼く準備を続ける。
肉はオークだ、意外と美味いのがオーク肉。
「ジューッ」
いい音と匂いに誘われたように少女が近づいてきて
「あのう。私を助けてくれたの?」
と尋ねてきた、俺は振り向きながら
「ああそうだよ。腹減っただろ、肉食うか?」
と言いながら焼き上がった肉に竹を刺して、少女に差し出した。
「あ、ありがとう・・美味しいわ。」
少女はそう言いながら、オーク肉を食べ始めた。


腹が膨れたところで俺が少女に
「君の名は?ここから人のいるところに帰れる?」
と聞いたら。周囲を見ながら
「多分帰れる。・・わたしはアリスよ。貴方は?」
と聞かれたところで、『名前かどうするかな。』と思いながら
「俺は・・ファースト、10歳だ。」
と答えた。

アリスの案内で川沿いを歩くこと2時間、森の切れ目が見えてきた。
「あの先に開拓村があるの。」
と言うアリス。
どうやらここは開拓村がある辺境の様だ。
『あの女神め本当に子供をどこに放り出すんだよ。』と思いながらついて行くと。
木の柵で囲まれた集落が見えてきた。
『この程度の柵では大型の魔物は防げないな、広さもあまりないとこを見ると狩りなどが主な仕事か。』と感想を持ちながら出入り口に向かうと。

「待て。ん!アリスかそれと・・誰だその坊主は。」
と門を警備している男が俺を見ながらアリスに尋ねる。

「彼はファーストよ、私がオークに襲われていたのを助けてくれたの。」
と答えるアリスを見ながら男は
「コイツがオークを・・信じられんが、まあいいだろう。入んな。」
と門を開けてくれた。


ーー 初めての集落。


開拓村は人口50人ほどの村で、20世帯ほどが暮らしている。
産業は主に森で採れる、魔物・獣それと薬草だ。
素材を加工して街に運び売るようだ。

リーダーはアリスの父親で、Aクラスの冒険者のようだ。
開拓村の場合、冒険者を引退した者や現役の冒険者が成功報酬の貴族位を狙って挑戦することが多いようだ。

この世界には川が非常に少なく、川のあるこのあたりが唯一開拓できそうな場所ということで、今までも沢山の開拓村ができては消えているそうだ。
『あの女神、環境作りも下手なのか。井戸は掘れるのかな。』と思いつつ土魔法で地中を探ると、深さ50~100m程のところに地下水脈を見つけた。
『こんなに深いと普通掘れねえだろうが。』ほんと使えねえなアイツ。

俺はこの開拓村の新しい住民にとなった。



              ◇


「ファースト。今日はどこに行くの?」
アリスが俺に聞いてくる。
「今日も森さ。欲しいものがあってね、行ってくるよ。」
と言いながら俺は森に入る。

俺が探しているのは、鉄鉱石などだ。井戸を掘るにも滑車を作るにも畑を耕すにも道具がいるが、その素材がないのだ。
日干しレンガを作りカマドを作り耐熱レンガを作る準備をしている。
石炭はこの前見つけた、炭も準備したので後は鉄などの鉱物だ。

川を遡りながら河原の石を確認する、鉱石が混ざり出せばその付近か上流に地層がある可能性があるのだ。

「見つけた」
目的の鉱石を河原で見つけた俺は、付近の地層を確認する。
鉱石が種類別に段違いで地層を成している。
『またいい加減な仕事だ』と思いながら掘りながら収納してゆく。


「ついでに水脈を探って・・おおこれは!温泉の源泉か?」
水脈に沿うように温泉の源泉も流れている水脈を見つけた。
可能な限り開拓村に近い場所まで探って、水と温泉を掘り当てる。
土魔法で作った土管を高台に位置する場所のタンクに接続し、高低差の水圧で村に流すのだ。

さらに森の中を流れる川の一部を開拓村の外堀用に水路を作ってゆく、幅と深さを大きくすれば魔物避けにもなる。
開拓村の外周を大きく巡るように、水濠を掘ってゆく俺にアリスが。
「こんなところで何をしてるの?」
と聞いてきた。

「将来の発展を考えると、この付近まで村が大きくなると思うからそれに合った外濠を掘っているんだよ。」
と答えたがよく分からないようだった。


               ◇

1月後。

開拓村を外側に大きく巡る水濠が出来上がった。
内側に土魔法で石作りの外壁を作ってゆく、大きさは高さ10m幅3mの規模だ。
これも一月ほどかかった。

村人が高く丈夫な外壁と深い水濠を見て
「ファースト、こんな大層なものを作って何をしてるだ?」
と聞いてきた。
「この壁までが開拓村の敷地だよ。空いてる場所に畑を作ったり、新しい入所者用の家を作るんだよ。」
と言うと皆大笑いしていた。
この開拓村が大きくなる想像が出来ないのだ。


               ◇

それからまた一月後。

上下水道を開拓村のメイン道路を中心に敷設した俺は、新しい場所に大きな建物を作り始めた。
温泉だ。源泉を引いてタンクに貯めると、大きな湯船を左右対称に作り壁を作りながら洗い場や脱衣場を作ると。
一部天井がないが、立派な温泉施設が出来上がった。

さらに土を耕し、森の腐葉土をすき込むといい具合の畑が出来上がった。
そこに商人から手に入れた麦と米と芋などを植えて育て始めた。
畑には横に穴を開けた竹のような植物を埋め込みそれに定期的に水を流すことで、水やりができる。
森の腐葉土のすき込まれた土は栄養が豊富で、植えた穀物がみるみるうちに育ち上がった。



               ◇

半年後。

見事に実った畑を見た開拓村の住民は、驚きながらその黄金色の実を見ていた。
「皆さん、見ているだけでは腹は膨らみません。俺1人では食べきれない量です、手助けする人にも分けますから・・手助けしてもらえますか?」
と聞くと皆が刈り取りを手伝ってくれた。
乾燥させた後、穀物用の倉庫に収めると俺は村人に言った。
「今回手伝ってもらった人に、報酬代わりに穀物を差し上げます。」
と言うと皆が袋を持って来たので、手伝い1人に対し半年分の穀物を渡した。


俺はその後すぐに、畑に次の種を蒔いた。
この世界は年に一度の収穫ではなく条件さえ揃えば、2~3回収穫できるのだ。
さらに畑を広げることにした、この話は開拓村のリーダーに通して参加者を募った。
すると家族の多い家からの参加が多かった。
俺が最初に耕した畑の3倍の面積が耕され、腐葉土がすき込まれた。

土づくりが終わると、水撒き用の竹のパイプを埋めてゆく。
種を蒔き草を抜くなどの手入れをすると、半年でよく実った畑が広がり開拓村での食糧自給は100%を越えて備蓄ができるようになった。



            ◇

11歳になった俺。

大きな温泉施設の横に家を建てていたが、それが完成した。
水回りは、蛇口をひねると水とお湯が出る仕組みだ。
お風呂はシャワー付でいつでも入ることができる。
耐熱レンガでカマドを作り、薪ストーブも作ったが床に温泉の源泉で温めたお湯を通しているので床暖になっている。
隙間は少なく丈夫な柱で屋根を支え、採光と風通しを考えて設計した。


その頃になると突然開拓がうまくゆき裕福になった開拓村の、旨みを横取りしようとするものが現れた。
この地を治める領主だ。
ただ開拓村については、王に許可を受けての開拓であるため領主といえども横取りはできないのだが。
ここを治めるスノーメル=トランド子爵は、強欲で強引な男だった。

「視察名目で兵を送り、鹵獲して我が子爵領の村として来なさい。」
と、子爵の私兵に命じた。
兵の数200人、対する開拓村は女子供合わせて50人。
とてもではないが抵抗できるものではない、普通ならば。

突然開拓村の前に兵士200人が現れたが、水濠と見上げるような城壁に焦り始めた。
「これはどういうことだ、まるで城塞都市のようではないか。こんなものを開拓村で作ることが可能なのか?」
現場に現れた兵の隊長が焦りながらも
「中に入ればなんとかなるだろう」
と思い直して、門に向かって声を張り上げた。

「我らはこの地域を管理するトランド子爵の者だ、責任者は門を開け我らを中に入れよ。」
と。
すると城壁の上からリーダーのステファンが
「何用で開拓村に来られた。」
と臆することなく兵士に尋ねる。

突然の問いに慌てた隊長が、
「トランド子爵の命できた。我らを迎え入れよ。」
と命令口調で答えると、城壁の男は
「そのような要件は聞いていない。出直して来るように。」
と言って姿を消した。

このままおめおめと帰ることはできないと思った兵らは強硬手段にで始めた。


ーー 村を襲う兵士200、そして1000の兵士とファースト


「弓を打て!」
隊長の言葉に兵士が弓を引き絞り放つ。
数百の矢が城壁を越えて行くが効果がわからない。
弓が尽きるほど打ち込むも全く反応がない事態に焦る兵士。

すると城壁の上に盾を手にした男らが現れた。
何をするのかと見ていると大きな何かを操作しているようだったが、兵士に向かって置かれたその道具が自分達を狙っているのがわかり始め、慌て出す兵士らに火を吹く何か。
そして吹き飛び始める兵士。

怪我をした兵士を抱えて命辛々逃げ帰った兵士たちは、子爵に報告した。
「とてもではありませんが、あの開拓村は攻め落とすことは無理です。」
と言う兵士の言葉に納得できない子爵は、隣の男爵の兵を借り受けて1000の兵士で自ら先導して開拓村に向かった。


「コレはなんだ。」
城壁を見ながら子爵は隊長に声をかける。
「報告したように開拓村の城壁です。」
と答える。

万一を考えて攻城兵器を持ち込んでいた子爵は、
「扉を壊して攻め込め。」
と命令した。

命令されたのは良いが兵士たちは困っていた。
幅10mほどの堀が行手を拒んでいる、深さもかなりありそうだ。
「隊長どうしますか?」
と聞かれた隊長は
「周囲を探って狭いところを探せ」
と部下に命令した。

その頃開拓村内では、ステファンがファーストを呼んで、コレからのことを協議していた。
「あれだけやられてまた来るとは、トランド子爵は馬鹿なのか」
と言うファーストにステファンが
「この開拓村を直接目にしなければ分からないさ。」
と言いながら
「コレからどうする。」
と聞いてきた、俺は最近作った魔道具を見せながら
「コレは目の前の映像と音を取り込むことができる魔道具だ。コレを城壁の上に設置してから子爵軍を叩くよ。」
と言うと城壁に登り出した。

「ここにこうして・・上手く設置できたぞ、後は・・コレの起動をして・・よし。」
と呟きながら準備を終えた俺は、横に立つステファンに魔道具を持たせて紙を見せた。
「コレを読んで」
という。

ステファンが魔道具を口元に紙に書かれた文章を読み上げる。
「こちらは王より許可を受けた開拓村である、ここを武力で攻めるは国王に弓引くこと直ちに立ち去りなさい。これ以上の武力攻撃は武力を持って対抗する、トランド子爵の返事はいかがか?」
と魔道具による大きな声は子爵のもとにはっきりと聞こえていた。
馬鹿にされたと感じたトランド子爵は、
「思い上がるな!この開拓村の全てをこのトランド子爵が接収する。」
と大声で答えた。

「よし。」
と横のファーストの声を聞きながらステファンは、もうなるようになれと思った。

周囲を調べていた兵士が戻ってきた
「どうだどこかいい場所はあったか?」
との隊長の問いに兵士は首を振りながら
「どこもここと一緒です、しかもものすごく長大です。やめましょう隊長無理ですよ。」
と言う報告に頷きたくなる隊長は、子爵の様子を見ながら
「やるしかないんだ。」
と諦めの言葉を口にして、立ち上がると
「総攻撃をする、弓兵は紐を結んで攻城の準備をせよ。残りは浮き橋を作り堀を渡るぞ。」
と命令を下した。

筏のような浮橋ができつつあるのを見ながらファーストは、油を用意させていた。
「あの橋を水濠に浮かべたらこの油を落とせ。」
と近くの男に言うと開拓村の女子供に家の中から出ないように伝えた。

「橋を浮かべて弓を射よ!」
下の方で声がして足音が近づいてきた。

「バシャン」
水の音がした、すかさず油のツボを持つ男が浮橋に次々とツボを落としていく。
俺はそれに火のついた松明を投げ込むだけ。

浮橋に乗り城壁にしがみつき始めた多くの兵の足元から炎が噴き上がる。
悲鳴をあげてほ水濠に落ちる兵士達、その油が水濠の上に炎の壁を作り始める。

「退却だ!下がれ!」
兵の隊長が号令を下す、火傷をした兵の数は100人ほど。
死者はいないが手当てをしなければ分からない。

「何をしておる、早く攻略せよ!」
と子爵が大声を上げるが、兵の士気が低い。
そこにあの砲撃が兵士を襲い出した。

以前はそこまで大怪我をした者は居なかったが、今回は何かが飛び出してきた。
「コレは・・クギなのか?何かが塗られている!毒か。」
隊長は絶望的になった。
「子爵様、ただちに引き返しましょう。これ以上は危険です。」
と進言するも子爵は
「お前はクビだ!お前、お前が隊長をしろ!」
と隣の男に命じた。
「はいお任せあれ。」
とその男は答えて
「怯むな!弓を打て、火矢を打ち込め。」
と号令し始めた。

その直後新たな隊長は爆音と共に吹き飛んだ。
首になった元隊長は慌てて子爵の方を振り返った。
「子爵様・・・。」
身体中に釘を打ち込まれたような姿の子爵はそのまま後ろに倒れると、息を引き取った。
「撤退だ!引き返せ。」
元隊長は大声でそう言うと子爵の死体を引き摺りながら下がっていった。

兵士たちの姿が見えなくなったことで、ファースト達はなね橋を下ろして周囲の被害を確認した。
「城壁に被害はありません。」
報告を受けたファーストは近くに大きな穴を掘り兵士の死骸を埋めた後、墓標を建てた。
【無謀な作戦の為、命を散らした兵士の魂をここに祀る。】
と彫った墓標を立てて。

その後適当な嘘を作り国王に報告した子爵家の跡取りの策で、逆賊の汚名を着せられた開拓村に討伐命令が下された。

差し向かわされた兵士約5000。
開拓村の城壁の前に陣取り討伐隊の隊長である、王家の騎士隊長が開拓村に使者を出した。
すると使者は子供を1人連れて戻ってきた。

「お前は何者だ。」
隊長の質問に子供は
「私は開拓村の使者です。あなたがここの責任者ですか?」
と尋ねてきた。
「そうだ」
と答えると少年は、一つの魔道具を取り出して白い布を目の前の兵士に黒い布をその他の兵士に渡しながら
「白い布はこの辺りに、黒い布は周りの光を遮るように立ててください。」
と言いながら隊長に対峙すると
「今回のトランド子爵の蛮行をここに記録しております。確認をお願いします、コレを見てそれでも我が開拓村を攻めるのであれば覚悟してもらいますよ。」
と言いながら魔道具を起動した。

魔道具から流れる声と映像はそこに本人がいるような物だった。
「確かに・・トランド子爵が国王の許可を得た開拓村を襲っていることは分かった。ただそれでも子爵の命は軽くはない。」
と言う隊長に俺は
「先ほども言いましたが、攻めるなら覚悟してくださいよ。その時俺は慈悲を持たない殺戮者となり、この国を蹂躙することになるでしょう。」
と言って魔道具を片付けるとテントを後に歩き出した。
「あの子供を捕らえよ。」
隊長がそう兵士に命じたその次の瞬間。

飛び掛かる兵士が吹き飛んだ。
「何があった?」
隊長の声が響く。

その時の俺のステータスは
ステータス
名前 ファースト      年齢11歳 性別 男 種族 人族(?)   レベル120(200)
HP 12000(22000)    MP25000(50000)   VIT2000(30000)   STR30000(45000)
AGI15000(12000)    DEX800(3000)     LUK50(30)
スキル
 アイテムボックス  鑑定   身体異常無効  魔法全属性  魔力超回復
 剣術 体術 槍術 弓術 投擲 気配察知 気配遮断
 創造魔法
 火魔法 土魔法 水魔法 風魔法 氷魔法 雷魔法 光魔法 闇魔法
 時空魔法 収納魔法 錬金魔法 転移魔法 飛翔魔法

加護
 女神スベラートの加護

になっていた。
このステータスの俺を生身の人間が止めることはほぼ無理である。

収納から剣を出すと隊長に向け、
「ここでやるならそれでもいいでしょう。どうしますか?」
と言いながら俺は空に舞い上がる。

「空を!まさか・・・。待、待ってくれ。わしに時間をくれ。」
と言う隊長に俺は
「明日の朝までです。」
と言って開拓村に飛んで帰った。


ーー 王国の騎士隊長 ぜガール


俺は王家の騎士隊長ダンディー子爵。
王命によりこの開拓村に謀反の恐れありと言う理由で派遣されたが、先ほどの魔道具を確認するに謀反は子爵にある。
しかしだからと言ってこのまま帰るわけもいかず・・・あの砦をいや先ずあの少年を倒すことが可能なのか。

時間がない彼は「明日の朝まで」と言った。非のない者を攻め込むことと、貴族の対面を守るのは同じことなのか?王命を無視した子爵こそ罰せられるべきではないだろうか。

俺は、すぐさま子爵の屋敷に馬を向けた。

「主だった者をあつめてもらいましょう、直ちに。」
俺はトランド子爵のものを集めてもらい話を切り出した。
「先日の開拓村の件について本当のことを伺いたい。先ほど開拓村を襲うトランド子爵の証拠を見せられてきました。言い逃れられない証拠です。それを持って開拓村を逆賊と言うのであれば、私は討伐をすることができません。トランド子爵の一族がすべきで我々はそれを確認するものということになります。そしてその時間は明日の朝までです。それ以降は我々は王都に引き返し国王に報告することになります。いかがしますか?」
と言う俺の話に居合わせたトランド子爵の面々は、真っ青になって話し合い始めた。

しかし結果は分かりきっている。トランド子爵の手勢であの開拓村を殲滅できなければトランド子爵家がお取りつぶしになるのだ。
「分かりました。我々が恥辱を濯ぎましょう。」
代表の者がそう言うと出陣の準備に動き出した。

夜半に開拓村の前に戻った俺は、開拓村の城壁に向かい声をかけた。
「俺は王都騎士隊長のダンディーだ。先ほどの少年に会いたい。」
と声を張り上げるとしばらくして、あの少年が空から降りてきた。

「期限は明日の朝のはずだが。」
と言う少年に俺は
「我らは開拓村に一切手を出さない。しかしトランド子爵の兵は明日にでもここを攻めるだろう。そうしなければあの家はおしまいだからだ。それを伝えにきた。」
と言うと少年は。
「了解した、結果を見定めて報告するのだな。それならおれの力を十分に見て帰ってくれ、刃を向ければどうなるか正しく報告するために。」
と答えて少年は空に舞い上がった。


ーー  決戦の朝


王都の騎士隊が遠巻きに布陣する中、トランド子爵の兵1500が姿を現した。
かき集めるだけかき集めたのだろう。

弓隊が火矢を開拓村にい掛け始める。
全く無反応な開拓村、暫くするとあの少年が姿を城壁の上に現した。
「俺はファースト、神につながるもの。これより神罰を下す。」
と言うと。
周りが真っ白になるほどの光と音が周囲を覆った。
その場の者は耳や目を塞いでその恐怖に耐えていた、王都の騎士隊が晴れ出した戦場に観たのは。
黒焦げになった1500人の子爵軍の死体だった。

「これからトランド子爵の屋敷を撃ち壊し一族全てに天罰を下す。」
と言うと少年から何かが飛び出した。
その結果を確認したのは、その場を離れ王都に向かった途中であった。
「あれは何だ?この辺りには確か子爵の屋敷が・・・!まさか。」
慌てて瓦礫の山に向かうとそこは先日訪れた子爵の屋敷であった。
近くにいた村人に
「ここにいた子爵の一族は無事か?」
と聞くと、村人は首を横に振りながら
「誰も生きておりません。空が光ったかと思うと激しい音がして・・・この有様でした。天の怒りを買われたのでしょう。」
と言うと村人は手を合わせてその場をさった。

「本当にあの少年は・・神につながるものかもしれん。国王に間違いなく伝えねば。」
と心に決めた隊長であったがその思い話通じなかった。


ーー  討伐再び


「お主の言うことは信じられぬ。開拓村が正しくて王国の貴族たる子爵が逆賊と言うのか。」
と声を大にして言うのは、トランド子爵の寄親のエステール侯爵。
「国王、神の名を語る痴れ者を討伐する任を我に与えてくだされ。王国の威信を守ってみせます。」
とにじり寄る侯爵の迫力に負けた国王が
「分かった、そちにまかす。」
と答えてしまった。


王国軍2万が開拓村へ向かった。
開拓村を前にしてエステール侯爵は、準備していた攻城兵器を押し出して
「城壁を攻め落とせ!」
と号令をかけた。

先を尖らせた丸太を積んだ荷車がスタンバイする中、準備した浮橋を多数水濠に投げ込むことに成功した王国軍は兵士が蟻のように城壁に取り付いた。
「これで成功したも当然。」
と言う侯爵。

兵士も皆開拓村の攻略は問題ないと思ったその時。
炎の壁が城壁を囲った。
取り憑いていた兵士らは丸焦げになりながら水濠に転落するが浮き橋が邪魔をして水に逃げられず、ほとんどのものが焼け死んだ。

「魔法を使う者がいたか、そう魔力も持たぬであろう。繰り返して迎え!」
侯爵が第二第三波と攻城兵を向かわせる。
しかし何度向かわせても炎の壁に失敗し続ける。
「攻城兵器を使え!他の者は火矢を打ち込め!」
と命令する。
浮き橋のおかげで門への水濠に橋がかかった状態に、丸太の矢が向かう。
「ドーン」
激しい音が響く、一度二度そして三度と。
しかしびくともしない門、さらに続け様に叩きつけるが丸太の方が砕け散った。

すると少年が城壁の上に姿を現した。
「こりもせずに。神の怒りの意味がわからないと見える。」
そう言うと少年が右手を高く上げた。
エステール侯爵は慌てて
「あの小僧を狙え!」
と弓兵に命令した。
無数の弓が少年向けて放たれたが、少年にあたる寸前で全て止まった。
「どうしたのだ?」
次の瞬間、空を覆う光と音のシャワー。

エステール侯爵以外の兵士が黒焦げで死に絶えていた。

「お前は今から急いで国王に伝えるが良い。これから神がこの国を潰すと。」
と言うと少年が侯爵の足元に雷撃を落とした。
「ああ!助けてくれ!」
腰が抜けた侯爵が尻もちをつくがそれを追い立てるように雷撃が向かってくる。
命辛辛逃げ帰った侯爵が王都に戻ったのは、それから10日後であった。

そしてそれを追いかけるように、報告が舞い込む。
「申し上げます。エステール侯爵家の屋敷が跡形もなく崩れ去りました。」
それを聞いたエステール侯爵は
「それで我が家族は無事か?」
それに対し報告者は、首を横に振るのみ。

また報告が続く
「ステードア伯爵家崩壊、生存者確認できず。」
「トーアル男爵家崩壊。」
「エビネン子爵家崩壊。」
次々に入る報告は、あの者が王都に向かっていることがわかる。

国王を始め主だった者が話し合うが解決策はない。
「王国騎士団長を呼べ。」
との呼び出しに、ダンディー隊長が呼ばれる。
「ダンディー子爵よ、かの者は本当に神につながるものか?どうすれば話し合えるであろうか。」
と言う国王にダンディー子爵は
「私はかの者の伝言を正確に伝えました。それを無視して攻め込んだのはエステール侯爵であり、国王様が許可されております。もしも会うことが可能ならば、国王自らあの者の面前に出向かねばならぬと思います。」
と答えると
「逆賊の者の前に国王を出せと言うのかお前は!」
と言う叱責が飛び交うが、ダンディー子爵は
「逆賊と思われるならば、打てば良いでしょう。打てるものなら。しかし神につながるものであれば、その時はこの国はこの世から消え去るのみでしょう。」
と答えてその場を去った。

その場に残された面々は、
「誰ぞ、あのものを打ち取って来い!」
と言う宰相に誰も声を上げない。
その様子を見ていた国王が、
「わしが向かおう。」
と言うと席を立った。

誰もそれを止めることはできなかった。本当に神につながるものであれば、神に弓引く者は天罰しかないからだ。

その時
「ズドーン」
と言う音と共に会議室が光った。
崩れ去った会議室で生き残ったのは、宰相以外のもの。
「打ち取れと言った宰相のみが死んだ。やはり神につながるものなのか。」
その場の大臣らが呟いた。

国王は馬車を走らせていた、これ以上家臣が死に絶えては隣国に飲み込まれる。遅かれ早かれこの国は滅亡するかもしれないとその馬車の速度を恨めしく思いながら
「急げ!少しでも早く。」
と檄を飛ばすのみだった。


                 ◇


その馬車を眼下に見ながら俺は、どうしようかと考えていた。
今まで殺した者は貴族とその兵士のみ、平民にはほとんど被害はない。

国王が夜を徹して進んでいたが、さすがに馬が動けず野宿することになった。
「国王様、今宵はここで野宿いたします。しばしご辛抱をお願いします。」
騎士隊長のダンディー隊長がそう言うと、天幕の前で警戒に当たり出した。

するとその目の前に音もなく例の少年が舞い降りた。
剣を抜き天幕を守ろうとする騎士隊長に少年は
「わざわざ足を運んできたのだ、俺を待たせるな!王をここに出せと!」
と叱りつけた。

一瞬悩んだ騎士隊長は、頭を下げると天幕の中に入った。
「王よ、かの者が自ら参りました。王を呼べと言っております。」
と伝えると、国王は「分かった。」と答えて天幕の前に出てきた。

何処から出したか椅子に腰掛けて待ってる少年が、もう一つの椅子を指差し
「王よ、座りなさい。」
と命じた。
王はそれに応じ椅子に座る。

「今回のことは事前に俺は注意していたはずだが、王もそれを聞いているだろう。」
と少年が言う。
「聞いていたがワシは信じられなかった。」
と答える王に少年は
「忠実な家臣の言葉が信じられぬ王よ、ここに来たのは何故だ。」
と問う。
「あなたが本当に神につながる者であれば、私の判断が間違っていたということ。それならば私自身が謝罪する必要があると思ったからだ。」
と答える王に少年は
「神を疑ったあなたの謝罪がどこまで通じると思いますか。」
とさらに追い詰める少年。

椅子から立ち上がり、傍らの地面に膝をつき祈る姿で王が
「我が命に替えて、王国をお許しください。」
と言った。

「仏の顔も三度までという諺があります。私は仏でないので三度も我慢しませんが、今回はこれでおしまいにしましょう。次はこの国自体を灰にしますよ。」
と言うと少年は空に舞い上がった。

残された王はその消えゆく姿を見ながら
「許されたのか。」
と呟いた。

その後滅ぼされる貴族はなくなった。
国王は開拓村について、こう命じた。
「干渉は許さぬ。それを破る者は王国が処断する。」
と。

ーー 開拓村にて


戻ってきたファーストに駆け寄ったステファンは
「どうなった?もう王国は来ないのか?」
と聞いてきた、それに対しファーストは
「先程国王と話をつけた。もうここを襲うことはないだろう。」
と答えると、ステファンは腰を落として
「はー。力が抜けた。」
と言いながらステファンは息を吐いた。

「これからどうするんだ?」
ステファンは、ファーストのこれからと開拓村について質問した。
「この村はこれからどこからも干渉されない、逆を言うと助けてももらえないと言うことだ。だから自活できるようにする、それがなったら俺はここを出る。」
と言う、ファーストは未来が見えているように語った。


           ◇


ファーストは開拓村の地下に大きな空洞を掘っていた。
そこに冷蔵庫タイプの時間停止の機能のある大型保管庫を据付けていた。
「これで数年分は保管できるだろう、後は魔物を狩ってきて・・。」
と独り言を呟きながら幾つかの部屋を作り上げて、森へと姿を消した。

数日後森から戻ってきたファーストは、地下に降りると保管庫に大量の魔物を放り込み始めた。
その姿を見ていたステファンは、
「どんだけ魔物を狩ったんだ!」
と驚くがファーストは気にすることもなく、次に金庫型の保管庫に魔石や宝石の様なものを詰め込み始めた。
「これで5年は籠城しても大丈夫だろう。魔石類は世話になったお礼だ、明日の朝にはここを出ていく。世話になった。」
と言うとファーストは、自分の家に戻っていった。

「2度目も平穏な生活は望めないか。」
彼の呟きは誰の耳にも届きはしなかった。
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