お家乗っ取りご自由に。僕は楽しく生きていきますからね？

嵐の前の静けさ

偽サミュエルの話

僕はアル兄様の腕の中で微睡みながら、この遠乗りに連れ出してくれた理由が何かあったのではないかと思った。

「アルバート、僕を遠乗りに連れてきてくれたのは、何か理由があったの？」

アルバートの僕を抱きしめる腕が少し力が入った気がして、僕は更に言い募った。

「アルバート。…僕には何でも話してくれるでしょ？僕はアルバートや侯爵が思うより子供じゃない。分かるでしょ？」


アルバートは僕の首筋に後ろから口づけながら、言った。

「そうだな。サミュエルはいつの間にかこんなに大人だ…。

…実は今王都で話題になっている地下組織の“明けの月”は知っているだろう？もしかしたら、そこにサミュエルの身代わりになってケルビーノ伯爵令息になっていた、ゲッダム男爵の子息のアレクが関わっているかもしれないんだ。

彼の母親はゲッダム男爵を自分の目的のために利用した恐ろしい女だった。11歳の彼にあの母親を振り切れたとは思えない。」


僕はハッとして起き上がると、一緒にベッドに起き上がったアルバートを見つめて呟いた。

「僕は彼に会ったことはないけど、何か繋がりは感じるんです。そもそも僕は市井へ逃げ出して、貴族界には戻らないつもりだった。僕があの時そうしていれば、彼もサミュエルとして生きていけたんじゃないかってどうしても考えてしまう。」

アルバートは僕の手を握って言った。

「そんな事言わないでくれ。そうしたら私は、目の前のサミュエルに会えなかった。違うかい？」

僕はどうしようもない事だと分かっていたけれど、大人の勝手な犠牲になった、もしかして今も犠牲になって、むしろ利用されているかもしれない僕の身代わりのアレクの事を思った。僕には彼を救えるだろうか。


「アルバート。きっと彼は僕を恨んでいるでしょうね。僕さえいなければ、彼は偽物にならなくて良かったんですから。僕の幸せは、誰かを苦しめているのかな。

…アルバートもエイデン様も愛したいだなんて、僕の我儘でしょう？エイデン様はきっと悲しむでしょうね。僕を憎むかもしれない。でもそうされてもしょうがない事を僕は選んでしまったから。僕のせいで、結局アルバートまで苦しめる事になったかもしれない。ごめんなさい。」


僕がそう言うと、アルバートは僕を優しく抱き締めて言った。

「私はもう覚悟を決めている。サミュエルからの愛は代償を払っても手に入れたかった。それにサミュエルをよく知っている彼が、サミュエルからの愛を放棄は出来るとは思えない。…エイデンがどうするかは、彼の問題だ。サミュエルではなくね。」