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嵐の前の静けさ

遠乗りのランチタイム

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「美味しかったですね。」

僕はアル兄様が連れて来てくれた、その地方の魚料理を堪能した。カラリと揚げた白身が濃厚なソースと合っていて、僕は大好きな味だった。

「王都じゃこんな新鮮な魚は手に入らないからね。ここに来た時は必ず寄ることにしているんだ。ご主人、今日の料理も格別だったよ。」


そうアル兄様が厨房の奥へ声を掛けると、人の良さそうな大柄の男の人がのっそりとカウンターの脇から出てきて言った。

「アルバート様がいつもご贔屓にして下さるお陰で、この店は街でも人気店になったんですよ。それに騎士の方々もアルバート様に聞いたとわざわざ尋ねて下さることも多くて。本当に感謝しても仕切れないんです。」

そう言って、僕たちの前に冷たいデザートを出してくれた。


「ご主人、僕もここの魚料理は特別だと思いますよ?こんなに美味しい魚料理は初めてかもしれません。」

僕がそう言って微笑むと、ご主人は少し戸惑った様子でアルバート様と僕を交互に見つめた。アル兄様は、そんなご主人の様子をクスクスと笑って見つめながら言った。

「彼は私の大事な従兄弟だよ。20歳になったらケルビーノ伯爵になる。また機会があったら、サミュエルにもご馳走してやってくれ。」


ご主人は口の中でケルビーノ伯爵と呟いていたと思ったら、ハッとした様に僕を見つめて言った。

「…もしかして悲劇の紫の騎士ですか?」

僕はキョトンとして、ご主人を見つめた。するとご主人は慌てて何でもないと言い繕うと、ごゆっくりとそそくさと厨房へ戻って行った。店の中も何やら騒ついて、こちらをチラチラと見てくる。ま、アル兄様が店に入ってから凄い注目だったけどね。


アル兄様は僕がひんやりしたシャーベットを喜んで食べるのを見つめながら、微笑みを浮かべて言った。

「サミュエルは何処に行っても有名人の様だね。悲劇の紫の騎士か。此処ではそう呼ばれているんだね。私は別の場所では違う名前を聞いたけどね。」

僕は目を見開いてアル兄様に尋ねた。

「え?僕の事、そんな風に噂になっているんですか。どうしてでしょう。お家乗っ取りなんてそう珍しい出来事じゃないでしょう?」


するとアル兄様はひどく色っぽい眼差しを細めて言った。

「それは若い伯爵夫妻が非業の死を遂げた後に、三歳の幼い赤ん坊が虐げられていたという恐ろしい話と、その赤ん坊が紫の瞳を持った王都でも有名な麗人に成長したとくれば、人々の記憶からはちょっとやそっとじゃ消えないだろうね?」

僕は面白そうな顔でそう言って僕を揶揄うアル兄様だってきっと、とんでもないあだ名がついて噂されているに違いないと思った。もう、絶対あだ名を集めて揶揄ってやるんだから!

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