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嵐の前の静けさ
アル兄様とのお出掛け
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「アル兄様、見てください。凄く可愛らしいですよ。」
僕がそう言って子犬の群れの中から一頭を抱き上げると、アル兄様は口元に手をやって何だか呻いていた。珍しくアル兄様から誘われて遠乗りに来た僕たちは、王都を離れて郊外に来ていた。
エイデン様から何か聞いたのか、アル兄様は特に何を訊ねる事も無かったけれど、多分僕を遠乗りに連れ出してくれたのは理由があったに違いなかった。
アル兄様に僕が好きそうな場所に寄ろうと言われてやって来たのは、この国特有の大きなもふもふ犬の繁殖牧場だった。この犬は見た目の可愛らしさからは想像できないけれど、戦闘にも使用されている闘う犬だ。
そうは言ってもここにいるのは繁殖用の血統の良い犬で、丁度子犬が産まれたばかりという事で僕は今、子犬に埋もれているんだ。
「ここの警備はもう少し強くした方が良くは無いか?この犬は高額で取引されるだろう?」
アル兄様が一頭の子犬を抱き抱えながら、そう飼育員に尋ねると、その飼育員は頷いて言った。
「そうなんです。実は先日泥棒が入りましてね。丁度盗難が相次いでいて警備を増やしたばかりだったんで、賊は捕らえたんですが。一体誰に売り飛ばすつもりか尋ねたんです。そしたら、他所の国へ持って行くつもりだったって言うじゃありませんか。
でもおかしな話で。この犬は国外へは持ち出し禁止なので、絶対に国境は越えられないんです。でもその賊曰くは何度かやってるって言うんです。何処かに抜け道があるに違いありません。全く困った事です。」
僕は茶色に黒が混ざったふわふわの子犬に顔を舐められながら、飼育員の話を聞いていた。一方で、目の前の金髪の美しい騎士姿のアル兄様が子犬を抱えた姿は一枚の絵の様で、きっと街の貴人たちが我先に買い求めるのでは無いかと少し可笑しくなった。
そんな僕を見つめていたアル兄様は子犬を柵の中に戻すと、僕に柵から出てくる様に言った。僕は思いの外ここが気に入っていたので、しぶしぶ後ろ髪を引かれながら、子犬を抱いたまま柵から出た。
「サミュエル、その腕の中の子犬も置いてきなさい。」
僕は子犬に顔を寄せて、温かな命の匂いを吸い込んで言った。
「アル兄様、侯爵家には犬が居ませんよね?この子を連れ帰ってはダメですか?」
するとアル兄様は呆れた顔をして言った。
「サミュエルだって、侯爵家に普段いないじゃ無いか。イリスも寮生活になってしまったし。母上に任すには、その犬は調教が難しいんだぞ?」
僕はアル兄様の言う事ももっともだと思って、悲しい気持ちで子犬を柵の中へと放した。僕がぼんやりとしていたら、アル兄様が側に来て言った。
「そんなに犬が好きなら、戦闘犬の部隊のところに今度連れて行ってあげよう。」
僕は顔をパッと上げて、アル兄様に飛びついた。
「アル兄様、ありがとう!ああ、楽しみです!」
僕がそう言って子犬の群れの中から一頭を抱き上げると、アル兄様は口元に手をやって何だか呻いていた。珍しくアル兄様から誘われて遠乗りに来た僕たちは、王都を離れて郊外に来ていた。
エイデン様から何か聞いたのか、アル兄様は特に何を訊ねる事も無かったけれど、多分僕を遠乗りに連れ出してくれたのは理由があったに違いなかった。
アル兄様に僕が好きそうな場所に寄ろうと言われてやって来たのは、この国特有の大きなもふもふ犬の繁殖牧場だった。この犬は見た目の可愛らしさからは想像できないけれど、戦闘にも使用されている闘う犬だ。
そうは言ってもここにいるのは繁殖用の血統の良い犬で、丁度子犬が産まれたばかりという事で僕は今、子犬に埋もれているんだ。
「ここの警備はもう少し強くした方が良くは無いか?この犬は高額で取引されるだろう?」
アル兄様が一頭の子犬を抱き抱えながら、そう飼育員に尋ねると、その飼育員は頷いて言った。
「そうなんです。実は先日泥棒が入りましてね。丁度盗難が相次いでいて警備を増やしたばかりだったんで、賊は捕らえたんですが。一体誰に売り飛ばすつもりか尋ねたんです。そしたら、他所の国へ持って行くつもりだったって言うじゃありませんか。
でもおかしな話で。この犬は国外へは持ち出し禁止なので、絶対に国境は越えられないんです。でもその賊曰くは何度かやってるって言うんです。何処かに抜け道があるに違いありません。全く困った事です。」
僕は茶色に黒が混ざったふわふわの子犬に顔を舐められながら、飼育員の話を聞いていた。一方で、目の前の金髪の美しい騎士姿のアル兄様が子犬を抱えた姿は一枚の絵の様で、きっと街の貴人たちが我先に買い求めるのでは無いかと少し可笑しくなった。
そんな僕を見つめていたアル兄様は子犬を柵の中に戻すと、僕に柵から出てくる様に言った。僕は思いの外ここが気に入っていたので、しぶしぶ後ろ髪を引かれながら、子犬を抱いたまま柵から出た。
「サミュエル、その腕の中の子犬も置いてきなさい。」
僕は子犬に顔を寄せて、温かな命の匂いを吸い込んで言った。
「アル兄様、侯爵家には犬が居ませんよね?この子を連れ帰ってはダメですか?」
するとアル兄様は呆れた顔をして言った。
「サミュエルだって、侯爵家に普段いないじゃ無いか。イリスも寮生活になってしまったし。母上に任すには、その犬は調教が難しいんだぞ?」
僕はアル兄様の言う事ももっともだと思って、悲しい気持ちで子犬を柵の中へと放した。僕がぼんやりとしていたら、アル兄様が側に来て言った。
「そんなに犬が好きなら、戦闘犬の部隊のところに今度連れて行ってあげよう。」
僕は顔をパッと上げて、アル兄様に飛びついた。
「アル兄様、ありがとう!ああ、楽しみです!」
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