お家乗っ取りご自由に。僕は楽しく生きていきますからね？

上級騎士科

鍛錬の時間

ジョナサンの指示で、僕たちは剣の型を意識する様に鍛錬を開始した。僕はアル兄様譲りの踊る様な剣の型で相手と競り合った。アル兄様の剣の型は更に力も加算されて、相手が逃げる隙が無い。僕にはそこまで腕力が無いので、じわじわと相手の懐に入っていく剣裁きだ。

以前アル兄様に僕の剣は急所を突けるけれど、一方で僕の身体の大きさから、ある種一か八かの勝負になると忠告を受けた。だから僕は相手を惑わして、剣の動きに迷っているうちに留めを刺す様にとアドバイスされたんだ。


僕は剣を地面に突き刺して、えに両手を置いて肩で息をしながら呼吸を整えた。そうは言っても、これは鍛錬であって、相手の血肉に直接刺すわけでは無かった。いざとなった時に果たして僕にそれが出来るだろうか。

息づいているその皮膚に、心臓に、僕は手の中の剣を刺すというのか…。剣を習い始めてから、漠然と感じていたその不安が急に大きくなっていくのを感じた。


「サミュエル、どうした。」

ジョナサンが呆然と立っている僕に心配そうに話しかけて来た。僕は慌てて首を振ると何でもないと、次の相手と手合わせをした。余計なことを考えていたせいなのか、僕は早々に剣を宙に飛ばされてしまった。

「…なんか集中力が切れてるな。怪我するといけないから先に戻ったらどうだ？」

僕は皆に謝ると、自分の不甲斐なさに腹を立てながら寮へと戻った。寮に戻っても落ち着かない僕は、部屋の中をぐるぐる歩き回った後、部屋を出て走り出した。


寮の門の外を通り掛かった馬車を停めると、僕は行き先を告げて少し霧雨に濡れた身体の雫を手で払った。しばらく馬車が走った後、つい最近降り立った宿泊先の入り口へと到着して、僕は急いで降り立った。

階段を駆け上がって目指す扉の前に立つと、思いの外強い力で扉を叩いた。何度か叩いても応答がなくて、僕は扉を背にしてズルズルと蹲った。


やり切れない気持ちのまま、この場を立ち去る事も出来ずに、帰ってくる約束もないまま、僕は膝の上に頭を載せて目を閉じた。どれくらい時間が経ったのか、階段を登ってくる足音がして僕はハッと顔を上げた。

身体がすっかり痺れて上手く立ち上がれなかったけれど、駆け寄って来た温かな身体に抱きすくめられて僕は掠れた声を絞り出した。


「エイデン様、僕、会いたくて…。」