お家乗っ取りご自由に。僕は楽しく生きていきますからね？

僕は貴族令息

エイデンside天使ではなかった

あの朝食の場に現れた時の衝撃は今も忘れ難い。それほどにサミュエルは一見触れたら消えてしまいそうな天使の様な雰囲気を持っていたんだ。

銀色の巻き毛が顔を包んで、短いからこそ、この世ならざる存在の様に感じた。小さな顔からこちらを見つめる、見た事が無い真に紫色の瞳は私を捕らえた。


食事中もエドワードの隣で、コソコソと可愛らしく笑う様子に、只々魅入られてしまっていたんだ。サミュエルの生い立ちはアルから聞いていたので、どんなにおどおどとした子供が登場するかと思っていたけれど、実際のサミュエルは真逆だった。

時間が経って私たちに慣れていくに従って、サミュエルはアルの言う通り伸びやかで明るく、そう、あまり貴族社会で見られない大胆さも持ち合わせていた。


イリスと駆け回っている様子は無邪気さに溢れて思わず頬が緩んでしまうし、一方で言葉を発すると美しい物言いでこちらをハッとさせる。つい最近まで荒っぽい街中で走り回っていたとは思えなかった。

まるで自分の置かれていた境遇はしょうがなかったのだと、妙に達観してる向きもあって、周囲に恵まれていたおかげで自分自身は幸せにしていたんだと明るく笑うのだ。


そんな時のサミュエルの瞳は機知に富んでいて、まるで私たちよりも大人と話しているかの様な不思議な気持ちにもなった。そんな可愛くて賢いサミュエルに、私が夢中にならない訳がなくて、私はサミュエルがいつも何処にいるのか気になっていた。

勿論アルはいつも私の障壁となっていて、見せつける様にサミュエルの特別なのだと私たちに示すのだった。私はマシューにこっそりボヤいたんだ。

「あんなにアルがサミュエルの前に立ちはだかっていたら、私たちが彼と仲良くなる隙がないな。」

するとマシューは、肩をすくめて言った。


「私にはエドワードの方が手強く感じるよ。サミュエルが一番心を許しているのはエドワードさ。エドワードはその事をよく分かっていて、アルの様にあからさまで無いだけで、常にサミュエルが自分の手の内に戻ってくるのを辛抱強く待っているよ。」

私はマシューの言う通りだと気づいて、改めてこの男が恋敵になったら面倒だと思ったんだ。それはサミュエルがまだ9歳という子供だったから笑っていられたのだと、数年後私たちはこの時の時間が私たちに与えられた貴重な瞬間だったと思い知らされることになった。