お家乗っ取りご自由に。僕は楽しく生きていきますからね？

僕は貴族令息

イリスの提案

すっかり元気になった僕は、それでも周囲の心配のせいでお散歩程度しか行動範囲を許してもらっていない。僕は手を繋いでイリスのデタラメな歌を聴きながら、城の近くの水庭園に来ていた。

広大な庭に流れる小川の水を引き込んで、階段状の石構造の上を水が流れ落ちていく立体的な水庭園は、いく筋にも石畳の水路が広がっていて、暑い日に足をつけて歩いたら楽しそうな場所だ。


まだ夏には早いこの時期は、水路に手を入れて冷たさと水流の感触を楽しむ程度しか出来ないけれど、僕とイリスはお互いに水を跳ね飛ばして楽しんでいた。

イリスが調子に乗って僕に水をかけ始めた時は、流石に一緒に来ていた従者が止めてくれて助かった。僕たちは近くの白い薔薇が絡まるガセボに入って、タオルで雫を拭き合った。


「イリス、ほらビチョビチョになってるよ？」

ふわふわのタオルでわざとイリスの頭を包むと、ぬいぐるみみたいでとても可愛かった。ぷくぷくのほっぺたは薔薇色で兄弟の中で一番大きな目はぱっちりとしていて、愛くるしかった。

僕がクスクス笑って拭いていると、イリスは僕の手を掴んで言った。

「僕もサミュエルをふいてあげる！」


僕は絶対イリスにぐちゃぐちゃにされちゃうなと思って、慌てて従者が下げてきたピクニックバスケットからクッキーを取り出して一緒に食べようと誘った。

美味しそうにクッキーを頬張るイリスに僕は微笑みかけた。こんなにゆったりとした時間は久しぶりかもしれない。寝込む前はエドワードと剣や乗馬をしたり、まあちょっと勉強したりと案外忙しくしていたんだ。


「イリスのお陰で、僕すっかり元気になったみたい。」

イリスは青い瞳を見開いて首を傾げた。

「僕のおかげ？」

僕はにっこり笑って言った。

「そう。イリスと一緒にのんびりお散歩したお陰で、朝起きた時よりずっと元気になったでしょう？」

僕がそう言うと、イリスはやっぱり首を傾げて何か考えているみたいだった。そして僕ににっこり笑って言ったんだ。


「じゃあ、昨日のアル兄様みたいに、僕もサミュエルと一緒に同じベッドに眠ってあげる！そうしたらきっともっと元気になるでしょう？」

そう言ってにっこり笑ったんだ。ああ、そう言えば添い寝を頼んだ兄様が何故か今日の朝までベッドで一緒に眠っていて、朝から僕の部屋に押しかけたイリスにバッチリ見られちゃったんだ…。


一緒に来たメイドがなぜか顔を赤くして直ぐにイリスを連れ去ったけれど、何か誤解があった気がする。僕がポカンとしていると兄様が起き上がってベッドから降りたんだけど、上半身裸だった…。

兄様は気だるげな顔でウインクすると、僕に言ったんだ。

「…サミュエルが眠ったら自分の部屋に行こうと思ったんだけど、しがみついて離れなかったから抜け出せなかったんだ。昨日はよく眠れたかい？」


僕がその時の事を思い出していると、後ろに控えていた従者と護衛がなぜか息を呑んで落ち着かなくなった気がして、僕はなんとなくスルーが正解かなと後ろを振り返らないようにして、イリスに曖昧に微笑んだんだ。