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新しい生活
馬に乗って
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なぜここまで来たのかと聞かれても、そこに真っ直ぐな道があったからですとは言えなかった。だって、絶対頭がおかしい奴だ。僕はうにゃむにゃと愛想笑いで誤魔化して、散歩していてここまで来てしまったと弁明したんだ。
「…散歩ねぇ。まぁいい。僕の後ろに乗って戻るかい?さすがに君も走って戻るほど体力がないだろう?」
そう言ってニヤリと笑った。僕は最初から見られていたんだと気がついて、口を尖らせて言った。
「…確かに乗せていただけるとありがたいです。思い切り走りすぎて疲れてしまいましたから。」
丁度そこに、黙って様子を見ていたもう一人の子供が口を挟んだ。
「…アルバート兄様、この子は誰なんですか?」
アー何とかはアルバートだったなと、ちょっと助かった気持ちになって僕はその子を見上げた。僕より少し年上に見えるその子供は、やっぱりお貴族様の侯爵の面影があった。
アルバートと同じ金髪はやっぱり真っ直ぐで、でも瞳は琥珀色だった。アルバートがシュッとしたイケメンなら、この子は幼いながらにやんちゃな雰囲気を持っていた。
好奇心を滲ませた瞳は、僕が従兄弟のサミュエルだと聞くと、目を丸くした。
「え!サミュエル ケルビーノ?…本当に?」
それきり何も言わずに僕のことを眉をひそめてジロジロ見るので、僕は戸惑ってしまった。
アルバートはそんな弟をじっと見つめて、僕に弟のエドワードだと紹介した。それから腰の引けた僕の手をグイっと引っ張って、僕はカエルの様に馬にしがみつきながら、何とか馬に跨ったんだ。
アルバートは僕を前に乗せて、慣れた様子で手綱を引くと、ハイッとかカッコいい掛け声と共に馬を駆けさせた。初めて乗る馬からの目線は、地面から遠くてちょっと怖かったけれど、風を切って走るのは楽しかった。
僕は思わず笑っていた。ああ、世界は広いな。僕は街に繰り出す8歳まで、あの小さな離れに閉じ込められていた。今覚えばよくおかしくならなかったものだ。もっとも僕の記憶は6歳からしか無いけどね。
お貴族様育ちの小さなサミュエルは、湿っぽいあの家で、きっと生きる気力をじわじわと失っていったんだろう。マリアやジョージが、自分達で出来る精一杯をしてくれていたから生きながらえていたに過ぎない。
目覚めた時のあの身体の軋みを考えたら、生きることを放棄してしまっていたから病弱になったと考えてもしっくり来る。温かな愛情を与えてくれた両親を、突然自分の世界から奪われてどんなに悲しく、絶望しただろう。
実際3歳では、亡くなる事の意味さえ理解できたかどうか…。僕は自分の中にサミュエルが欠片でも存在してくれる事を願った。そうすれば、僕はサミュエルと一緒に笑いに溢れる人生を生きられる。
僕は楽しくて笑っていたはずなのに、なぜか涙が溢れている事に気づかなかった。厩舎に到着して馬から降ろして貰った時に、アルバートに怖かったのかと驚かれて、ようやく自分が泣いている事に気付いたんだ。
僕は少し震える指先で涙を拭って、濡れた指先を見つめた。
「…多分、楽しくて。楽しくて嬉し泣きしたんだと思います。」
そう言ってアルバートとエドワードに微笑み掛けたんだ。
「…散歩ねぇ。まぁいい。僕の後ろに乗って戻るかい?さすがに君も走って戻るほど体力がないだろう?」
そう言ってニヤリと笑った。僕は最初から見られていたんだと気がついて、口を尖らせて言った。
「…確かに乗せていただけるとありがたいです。思い切り走りすぎて疲れてしまいましたから。」
丁度そこに、黙って様子を見ていたもう一人の子供が口を挟んだ。
「…アルバート兄様、この子は誰なんですか?」
アー何とかはアルバートだったなと、ちょっと助かった気持ちになって僕はその子を見上げた。僕より少し年上に見えるその子供は、やっぱりお貴族様の侯爵の面影があった。
アルバートと同じ金髪はやっぱり真っ直ぐで、でも瞳は琥珀色だった。アルバートがシュッとしたイケメンなら、この子は幼いながらにやんちゃな雰囲気を持っていた。
好奇心を滲ませた瞳は、僕が従兄弟のサミュエルだと聞くと、目を丸くした。
「え!サミュエル ケルビーノ?…本当に?」
それきり何も言わずに僕のことを眉をひそめてジロジロ見るので、僕は戸惑ってしまった。
アルバートはそんな弟をじっと見つめて、僕に弟のエドワードだと紹介した。それから腰の引けた僕の手をグイっと引っ張って、僕はカエルの様に馬にしがみつきながら、何とか馬に跨ったんだ。
アルバートは僕を前に乗せて、慣れた様子で手綱を引くと、ハイッとかカッコいい掛け声と共に馬を駆けさせた。初めて乗る馬からの目線は、地面から遠くてちょっと怖かったけれど、風を切って走るのは楽しかった。
僕は思わず笑っていた。ああ、世界は広いな。僕は街に繰り出す8歳まで、あの小さな離れに閉じ込められていた。今覚えばよくおかしくならなかったものだ。もっとも僕の記憶は6歳からしか無いけどね。
お貴族様育ちの小さなサミュエルは、湿っぽいあの家で、きっと生きる気力をじわじわと失っていったんだろう。マリアやジョージが、自分達で出来る精一杯をしてくれていたから生きながらえていたに過ぎない。
目覚めた時のあの身体の軋みを考えたら、生きることを放棄してしまっていたから病弱になったと考えてもしっくり来る。温かな愛情を与えてくれた両親を、突然自分の世界から奪われてどんなに悲しく、絶望しただろう。
実際3歳では、亡くなる事の意味さえ理解できたかどうか…。僕は自分の中にサミュエルが欠片でも存在してくれる事を願った。そうすれば、僕はサミュエルと一緒に笑いに溢れる人生を生きられる。
僕は楽しくて笑っていたはずなのに、なぜか涙が溢れている事に気づかなかった。厩舎に到着して馬から降ろして貰った時に、アルバートに怖かったのかと驚かれて、ようやく自分が泣いている事に気付いたんだ。
僕は少し震える指先で涙を拭って、濡れた指先を見つめた。
「…多分、楽しくて。楽しくて嬉し泣きしたんだと思います。」
そう言ってアルバートとエドワードに微笑み掛けたんだ。
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