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新しい生活
長男と遭遇
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僕の前に立って、訝しげに僕を見つめるこの家の大きな子供は、口の中で確かにサミュエルと僕の名前を呟いた。そしてハッとすると、まじまじと僕を見つめた。
「サミュエルなのかい?リリアン叔母上の息子の?」
僕は自分の母親がリリアンという名前だと、実は今初めて知ったのだった。マリアたちは伯爵夫人としか呼ばなかったし、男爵は僕に一方的に乱暴な口を聞くばかりで何の情報もくれなかった。
サミュエルの中身の僕にとっては、母親というよりも、事故で若死にした可哀想な伯爵夫人という認識しか無かったので、それ以上詳しい事を聞く必要性を感じなかったせいでもある。
ここに連れて来たお貴族様は、多分明日には詳しい話をしてくれるだろうけど、今僕が知っている事は何も無かった。僕はこれ以上色々話しかけられても答えられることがないなと思って、先手必勝でこちらから仕掛ける事にした。
「あの、僕今日の夜こちらに突然連れてこられたんですけど、夕食前で、こちらについてからもバタバタして食べ損なってしまったんです。だから、メイドの手を煩わせるのはどうかと思って、厨房で何か頂こうと部屋を出たんですが…。迷ってしまって…。」
そう言うと、少年は片眉を上げてニヤリと笑った。
「君もかい?私は食べ損なってはいないけど、夜食が欲しくて用意させたんだ。…良かったら一緒に食べよう。もうそろそろ運んで来るだろうから。」
僕は少年に誘われるがまま、後を着いて行った。見覚えのある廊下の絵を通り過ぎると一番手前の扉を開けて、先に立って中へと入って行った。僕は扉の入り口で躊躇していたけれど、中から入っておいでという声に誘われて恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れた。
部屋の中のワゴンの上からグラスに水を汲むと、僕にソファに座るように言ってそれをコトリと僕の前に置いた。そして優雅に対面のソファへ腰掛けて言った。
「私はアルバート ヴィレスクだ。ヴィレスク侯爵家の長男だ。君はサミュエル ケルビーノだね?僕の父上と君の母上は兄妹だから、私たちは従兄弟という事になるね。
…改めて見れば君は亡きリリアン叔母上にそっくりだ。叔母上はお祖母様によく似ていたから、君はお祖母様にもそっくりって事だね。僕たちは従兄弟だけれど、会ったことは無かったよね…。
…いや、一度僕が6歳の頃、叔母上が小さな君を連れてここに遊びに来てくれた事があった。懐かしいな…。勿論君は憶えていないだろうけどね。
近々事情のある子供が家に滞在する話は執事から聞いていたけれど、まさか君だったなんて正直予想もしていなかったよ。」
そう言って父親似の、賢そうな深い青い瞳をきらりと面白げに瞬かせたんだ。
「サミュエルなのかい?リリアン叔母上の息子の?」
僕は自分の母親がリリアンという名前だと、実は今初めて知ったのだった。マリアたちは伯爵夫人としか呼ばなかったし、男爵は僕に一方的に乱暴な口を聞くばかりで何の情報もくれなかった。
サミュエルの中身の僕にとっては、母親というよりも、事故で若死にした可哀想な伯爵夫人という認識しか無かったので、それ以上詳しい事を聞く必要性を感じなかったせいでもある。
ここに連れて来たお貴族様は、多分明日には詳しい話をしてくれるだろうけど、今僕が知っている事は何も無かった。僕はこれ以上色々話しかけられても答えられることがないなと思って、先手必勝でこちらから仕掛ける事にした。
「あの、僕今日の夜こちらに突然連れてこられたんですけど、夕食前で、こちらについてからもバタバタして食べ損なってしまったんです。だから、メイドの手を煩わせるのはどうかと思って、厨房で何か頂こうと部屋を出たんですが…。迷ってしまって…。」
そう言うと、少年は片眉を上げてニヤリと笑った。
「君もかい?私は食べ損なってはいないけど、夜食が欲しくて用意させたんだ。…良かったら一緒に食べよう。もうそろそろ運んで来るだろうから。」
僕は少年に誘われるがまま、後を着いて行った。見覚えのある廊下の絵を通り過ぎると一番手前の扉を開けて、先に立って中へと入って行った。僕は扉の入り口で躊躇していたけれど、中から入っておいでという声に誘われて恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れた。
部屋の中のワゴンの上からグラスに水を汲むと、僕にソファに座るように言ってそれをコトリと僕の前に置いた。そして優雅に対面のソファへ腰掛けて言った。
「私はアルバート ヴィレスクだ。ヴィレスク侯爵家の長男だ。君はサミュエル ケルビーノだね?僕の父上と君の母上は兄妹だから、私たちは従兄弟という事になるね。
…改めて見れば君は亡きリリアン叔母上にそっくりだ。叔母上はお祖母様によく似ていたから、君はお祖母様にもそっくりって事だね。僕たちは従兄弟だけれど、会ったことは無かったよね…。
…いや、一度僕が6歳の頃、叔母上が小さな君を連れてここに遊びに来てくれた事があった。懐かしいな…。勿論君は憶えていないだろうけどね。
近々事情のある子供が家に滞在する話は執事から聞いていたけれど、まさか君だったなんて正直予想もしていなかったよ。」
そう言って父親似の、賢そうな深い青い瞳をきらりと面白げに瞬かせたんだ。
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