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サミュとサミュエル
侯爵の思惑
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「ヴィレスク侯爵、久しぶりだな。長らくの外交、ご苦労であった。…外交中にケルビーノ伯爵の不慮の事故は残念だった。侯爵の妹君も同時に若くして失ってしまって、どんなにか無念だった事か。」
そう玉座から、私に寂しげな表情で語りかけるのは我がグレイス王国の王、マードックだ。マードックと私とケルビーノは学院時代から仲の良い悪友だった。
ケルビーノ伯爵が私の溺愛する歳の離れた妹、リリアンと結婚すると言った時は随分揉めたけれど、結局愛し合う二人を引き剥がすことなど出来ずに渋々認めたのだ。
そして9年前、私の妹にそっくりの色を持った一粒種が産まれた。私や王のマードックはその数年前に後継を得ていたので、美しい赤ん坊を持って父親の仲間入りをしたケルビーノ伯爵はこれでお仲間だと、随分ご機嫌だった。
それからしばらくして国外で外交の仕事をする様になった私は、忙しく内外を行き来をしていて妹夫婦にもたまに会う程度だった。そんな矢先に届いた悲報は、私を悲しみのどん底へと陥らせた。
私は一度に親友と溺愛する妹を失った。唯一残された将来のケルビーノ伯爵、サミュエルは当時3歳で、ケルビーノ伯爵の従兄弟であるゲッダム男爵が後見人となる事が決まった。
ゲッダム男爵は男爵ながらやり手と評判の男だった。私は迷いながらも、国外を行き来する私よりは、サミュエルの側にいてやれる男爵の方が良いかと判断して、サミュエルの後見に賛同したのだった。
私は帰国の挨拶を終えて王の前を辞去し、王宮を歩きながら先日の違和感を思い起こしていた。帰国してそう日が経たないうちに、9歳になるだろう甥のサミュエルに会いに行ったのだった。
私を迎えてくれた男爵は相変わらず本意の見えない抜け目のない風貌だったが、私はサミュエルを前にして言葉を失っていた。
3歳まで私を喜ばせた妹そっくりだったサミュエルは、見れば見るほど似ても似つかなかった。確かに銀と言われたら銀色と括られる暗銀色めいた髪は真っ直ぐで太かったが、サミュエル坊は妹に似て柔らかな巻き毛だったはずだ。
お祖母様譲りであった濃い紫色だった瞳はどちらかといえば青めいていて、多分10人が見れば8人は青い目だというだろう。
そして何より違和感を覚えたのは、あのそっくりに引き継いだはずのケルビーノ伯爵の特徴とも言える、柔らかな笑みと口元のエクボはそこには存在しなかった。私が言葉を失っていると、男爵は慌てた様子で子供は成長が早いから見た目も変わりますと言葉を重ねたのだった。
私は男爵の華美な服装に目を払うと、あまり多くは言葉にせず、近々サミュエルの従兄弟に合わせようと簡単な口約束をして辞したのだった。
サミュエル自身はもちろん、幼い時に私と会ったきりなので、記憶にはないだろう。私にさよならの挨拶をする時のあの男爵によく似た眼差しを見て、私は屋敷に帰ってやるべき事を心に決めたのだった。
目の前にいたあのサミュエルは偽物かもしれない。私の出した結論はそれが全てだった。…でもそうなら、本物のサミュエルは何処にいるのだろう。私はステッキの鷹の持ち手を握りしめて、王宮からの帰宅の馬車に乗り込んだのだった。
そう玉座から、私に寂しげな表情で語りかけるのは我がグレイス王国の王、マードックだ。マードックと私とケルビーノは学院時代から仲の良い悪友だった。
ケルビーノ伯爵が私の溺愛する歳の離れた妹、リリアンと結婚すると言った時は随分揉めたけれど、結局愛し合う二人を引き剥がすことなど出来ずに渋々認めたのだ。
そして9年前、私の妹にそっくりの色を持った一粒種が産まれた。私や王のマードックはその数年前に後継を得ていたので、美しい赤ん坊を持って父親の仲間入りをしたケルビーノ伯爵はこれでお仲間だと、随分ご機嫌だった。
それからしばらくして国外で外交の仕事をする様になった私は、忙しく内外を行き来をしていて妹夫婦にもたまに会う程度だった。そんな矢先に届いた悲報は、私を悲しみのどん底へと陥らせた。
私は一度に親友と溺愛する妹を失った。唯一残された将来のケルビーノ伯爵、サミュエルは当時3歳で、ケルビーノ伯爵の従兄弟であるゲッダム男爵が後見人となる事が決まった。
ゲッダム男爵は男爵ながらやり手と評判の男だった。私は迷いながらも、国外を行き来する私よりは、サミュエルの側にいてやれる男爵の方が良いかと判断して、サミュエルの後見に賛同したのだった。
私は帰国の挨拶を終えて王の前を辞去し、王宮を歩きながら先日の違和感を思い起こしていた。帰国してそう日が経たないうちに、9歳になるだろう甥のサミュエルに会いに行ったのだった。
私を迎えてくれた男爵は相変わらず本意の見えない抜け目のない風貌だったが、私はサミュエルを前にして言葉を失っていた。
3歳まで私を喜ばせた妹そっくりだったサミュエルは、見れば見るほど似ても似つかなかった。確かに銀と言われたら銀色と括られる暗銀色めいた髪は真っ直ぐで太かったが、サミュエル坊は妹に似て柔らかな巻き毛だったはずだ。
お祖母様譲りであった濃い紫色だった瞳はどちらかといえば青めいていて、多分10人が見れば8人は青い目だというだろう。
そして何より違和感を覚えたのは、あのそっくりに引き継いだはずのケルビーノ伯爵の特徴とも言える、柔らかな笑みと口元のエクボはそこには存在しなかった。私が言葉を失っていると、男爵は慌てた様子で子供は成長が早いから見た目も変わりますと言葉を重ねたのだった。
私は男爵の華美な服装に目を払うと、あまり多くは言葉にせず、近々サミュエルの従兄弟に合わせようと簡単な口約束をして辞したのだった。
サミュエル自身はもちろん、幼い時に私と会ったきりなので、記憶にはないだろう。私にさよならの挨拶をする時のあの男爵によく似た眼差しを見て、私は屋敷に帰ってやるべき事を心に決めたのだった。
目の前にいたあのサミュエルは偽物かもしれない。私の出した結論はそれが全てだった。…でもそうなら、本物のサミュエルは何処にいるのだろう。私はステッキの鷹の持ち手を握りしめて、王宮からの帰宅の馬車に乗り込んだのだった。
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