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俺が譲れる事は

高山side運命の糸は

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私は目の前の鱗川祥一朗が、子供に見た伯父と同じ表情をして黒崎君に微笑んだのを見つめていた。ああ、やはりそうなんだ。私は嫉妬にも似た羨望を感じぜずにはいられなかった。

確かに学生に限らず、私の友人達もそれぞれマーキングの関係、あるいは夫婦や恋人となって強い絆を持っている人間は多い。けれども伯父の見せたあの激情に近い絆は、そのどこでも見たことがなかった。もしかすると雪豹でしか叶わない絆なのだろうか。


私はこっそりため息をつくと、二人に向き合って言った。

「まぁ、おいおい必要なことが有ったら対処するって事でどうだろうか。じゃあ、来てくれたのだから早速具体的な研究について説明しよう。」

私は立ち上がって執務室のドアを開けると桐谷君を呼んだ。桐谷君はいそいそと興味深そうにやってくると、研究について二人に教えるように指示して私は部屋を出た。私は研究生達に時々報告を聞いたり、指導を行いながら研究室を歩き回った。


「先生、あの綺麗な高校生、実験に協力してくれるんですか?」

そう言って目をキラキラさせたのは、三年生の横山君だった。基本研究室はゼミからのスタートなので、三年生が一番の下っ端だ。横山君は猿系なので、私は何となく気安い気持ちになりがちだ。ウマが合うとでも言うのか、まぁそれを言ったことはないが。

「ああ、彼が協力してくれたら研究がグッと早く進むかもしれない。嬉しいよ。」

私がそう言うと、横山君とそばに居た他の学生達が私をまじまじと見つめた。


「…何だ?」

横山君は少し頬を染めて他の学生と目配せすると、言いにくそうに言った。

「高山助教授のそんな顔、見たことないです…。凄く嬉しそうだったから。」

私は苦笑すると、横山君達を見回して言った。

「研究者は自分の研究が上手く行きそうだと考えると、自然気持ちが上向くってだけだ。さ、そっちのデータを見せてくれ。」


私は内心、気が緩んだ事に焦りながら、指導していった。確かに黒崎君と接点を確実に増やせることは嬉しいことだ。研究にとっても、私個人にとっても…。彼が私の唯一になるかどうかは分からないが、運命の糸が絡んでいればきっとそうなるだろう。

私は、想像以上の逸材だった鱗川祥一朗と、見学に来てた時の三人の黒崎雪弥の取り巻きを思い出して、なかなか乗り越える壁が高そうな運命だと一人苦笑したのだった。
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