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発情期

祥一朗sideいつもの雪弥

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 私がリビングで、連絡のあった急ぎのちょっとした作業をしていると、寝室のドアが開いて素っ裸の雪弥が立っていた。心なしか眠りに落ちるまで妖艶だったあの雪弥とはまるで別人の、心細気な、むしろ儚ささえ感じるその表情に、二言、三言話をすると、私は思わず近寄って抱き締めていた。

 居た堪れなさを醸し出してる、この愛らしくも、美しい生き物を私はそっと包み込んだ。顔に浮かべる不安から守ってやりたかった。発情期に髪色が変わるなどという、前代未聞の変貌を遂げた雪弥が、これから今まで通りの生活に戻れるとは、とてもじゃないが思えなかったからでもある。


 私が抱きしめると、身体を強張らせて慌てた様子の雪弥は、すっかり発情期前の彼に戻っていた。慌てて浴室へ向かうしなやかな後ろ姿を見送って、身体のあちこちに見える赤い印に少しだけ動揺してしまった。

 ソファに戻りながら私は、自分が思うより雪弥に執着している己を見せつけられた気がして、ため息をついた。先程のあの様子では、普段の雪弥を自分の手中に囲い込むのはなかなかの難問だ。

 髪色の変化も気になるが、もうひとつ本人が覚えているか分からないけれど、あの謎めいた言葉。
『俺は人の心を喰らう猛獣だ』あれは何を意味してるのか。それとも発情期の世迷言なのか…。


 私はキリの良いところまで仕事をまとめると、着替えて雪弥の食事の用意をした。丁度セッティングが終わる頃、私用の大きなバスローブに包まれた雪弥が出てきた。雪弥は決して小柄なわけではないけれど、私が190cmあるのでどうしても華奢に思える。真っ白なバスローブに足元まで覆われて、可愛らしかった。

「雪弥、着替える前に食べるかい?お腹がすいたろう。」

 雪弥は私の顔を見た後、少し首筋に視線を移して顔を赤らめて、ぎこちなく頷くと食事を始めた。


 黙々と食事を取りながら、チラチラとこちらの様子を伺う雪弥が何を言いだすのかと、面白い気分で待っていた。

「あのさ、それ。俺が祥一朗につけたんだろ?ごめん。そんな目立つ場所に付けちゃって。俺あの時のことは朧げにしか覚えてないけど…。ヤバかっただろ?」

 そう言って、指を自分の耳の下の首筋に置いた。どうも私の首筋にも赤いキスマークが付いているらしい。私は自分の首筋を掌で撫でると言った。


「っふ。別に隠す必要もないさ。私が発情期の相手になって篭っている事は、私の家の者も知っているし、大学の友人も了承している。ただ、私が誰と篭っているかはごく一部の身内しか知らないが。…そのことで雪弥に話があるんだ。」

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