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それは始まりの始まり

青山さん

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青山さんが買ったアイスを食べながら、僕たちは目の前に広がる大きな木の重なりをぼんやり眺めた。


横に長いこの公園は全体を流れる湧水の小川が整備されていて、途中に池が幾つかと、大きな噴水、そして行き止まりは親水公園になって子供達がいつも遊んでいる。

僕も小さい頃は親に連れられて温水兄弟としょっちゅう来ていた。小学生の頃も休日になるとこの水の流れる水路で足をつけて遊んだものだった。

「へえ、こんな気持ちの良い公園が近くにあるとかイイね。」

僕は青山さんの少し前を歩きながら言った。


「でも案外近いと来ないものですよ。小さい頃はともかく、中学生になってからはほとんど来てないです。僕も久しぶりです。でも確かに気持ちいいですね。」

僕たちは途中の池の鯉を冷やかしながら、奥へと歩いて行った。池を越えると顔を空に向けてようやく全体像が目に入る様な大きなケヤキの木や、紅葉などが伸びやかに枝を伸ばす落ち着いた公園になっていた。

休日になるとあちこちのベンチやテーブルでカップルや親子連れがお弁当を広げるような場所だ。今は犬の散歩の人と時々すれ違う。僕たちは一段上がったスペースにあるベンチに座ると、青山さんの買ってくれたアイスを一緒に食べた。


「ふふ、何か不思議だ。良かったよ、思いつきだったけど侑くんに会いに来て。一緒にこんな場所でのんびりアイス食べるとかご褒美だな。」

僕はバニラのソフトクリームを舐めながら、目の前に重なる紅葉のまだ青い葉っぱを眺めて言った。

「…何か煮詰まってたんですか?」

僕が何も考えずに思わずそう言うと、青山さんは僕の方を見つめて小さく笑った。

「…やっぱり、侑くんは良いね。俺、中二の時にそんな風に人の事感じ取れたかな。まぁ、ぶっちゃけて言うとスランプなんだ。だから今日はちょっとした逃避行。周りはどんどん上手くなっていくのに、自分だけ停滞してる気がしてさ。ごめんね、侑くんにこんな愚痴言って。」


僕は自分以外の人達が、目の前の試練に真剣に向き合っている事に羨望すら感じて呟いた。

「僕は青山さんが羨ましいですよ。僕はスランプを感じて考えちゃうくらい弓道に向き合ってないし、何でも中途半端で流されてばかりだから。スランプって僕のイメージとしたら次の飛躍への踏み台って感じがするから、青山さん上達寸前なんじゃ無いですか?」

そう言って僕は持ち手に垂れたソフトクリームを舌で舐めとった。ふと青山さんが静かな気がして横を見ると、僕の方をじっと見つめていた。


「…ふふ。侑くんに会いに来て正解だったよ。そうか、踏み台か。じゃあ助走つけて思い切り跳び上がれるかもしれないな。そう考えたら、何か気が楽になったよ。ああ、翔太がマジ羨ましい。こんな幼馴染俺も欲しかったよ。

…でも侑くんは自分の事中途半端だって言うけど、どんな所がそう思う訳?」

僕は急に自分の事に話が移って、思わず苦笑した。でも普段関わり合いのない人にはかえって話し易い気がする。僕はアイスクリームのコーンを尻尾まで齧ると、粉のついた手を払って目の前の段々薄暗くなる、色味が無くなる景色を眺めながら言った。


「僕には目指すものは無いし、青山さんみたいにそこまで熱中するものも無いです。適当に学校の勉強して、部活やって。僕がしてる事としたら、善良な人を振り回して、振り回されてばかり?最近自分が疫病神に感じます。でもだからと言って…、流されちゃうのは止めらんないし。…訳わかんないですよね。」

先輩や翔ちゃんの事は口にできないけど、こうして誰かに話を聞いてもらえるのは、何だか絡まった糸をほぐしていく様な気がした。


ふいに青山さんが僕に尋ねた。

「…学園祭で一緒にコスプレした相手って、侑くんの彼氏?」





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