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中学二年生

慶太side兄貴は変だ

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「ね、土曜日の午前中空いてる?一緒に翔ちゃんの試合応援に行かない?」


弓道部の一年に呼び出された俺は、話したこともない相手に困惑しながら廊下に出た。そいつは赤い顔をして長谷部先輩がこっちで待っているからと、一年と二年の交わる階段まで俺を連れて来た。

そこには侑が待っていて、俺を呼んだそいつに馬鹿みたいに優しい顔で礼を言って微笑んだ。真っ赤になったそいつはペコリとお辞儀すると慌てて走って行った。


俺が呆然とそいつの走って行った先を見ていると、侑が土曜日に兄貴の試合の応援に行こうって言う。そんなに大事な試合があったかなと考えていると地区予選で、優勝候補の兄貴の高校がどうせ勝つだろうと言われてる大会だった。

「慶太を捕まえるの至難の技だね。朝練で早かったから今しかないなと思って誘いに来たんだけど、良く考えたら他の学年の廊下に基本入っちゃダメだったでしょ。だから同じ部活の子見つけてラッキーだったよ。」


そう言って楽しそうに笑う侑と俺を、階段を利用する一年も二年もジロジロ見ていきやがる。俺は居心地の悪さを感じながら尋ねた。

「何で急に試合観に行くとか思いついたの?今まで全然行かなかっただろ?」

すると侑は視線を流して、階段に差し込む光を瞳に映しながら言った。

「…今まで翔ちゃん観に来てって言われたことない。誘われてないのに行けないよ。」

それからパッと顔を明るくして言った。

「昨日翔ちゃんと、同じチームの圭?さんって人が玄関にいて是非観に来てって。リアル弟さんも一緒にどうぞって。ね?行こうよ。」


俺は兄貴と同じチームの圭という名前のチームメイトを思い出していた。母親が大会で撮って来た映像に映り込んだその人は、生真面目な兄貴とはまるで正反対のおちゃらけて陽気なイケメンだった。あの人なら、こんな綺麗な侑を放って置かない気がした。

俺は何となく面白くない気持ちで言った。

「土曜日は部活ある。」

途端に目に見えてガッカリする侑に、俺は罪悪感を感じて思わず付け加えた。

「部活は午後3時からだから、午前中の試合なら観に行けんじゃん?」


すると侑は抱きつかんばかりの勢いで満面の笑みを浮かべると、時間はメッセージ送るねと言って階段を登って行った。俺は最初からメッセージ送れば済む話じゃんと思ったけれど、普段からあまりチェックしてない事を思い出して、もうとっくに送ってるのかもと頭を掻いた。

俺と侑が話していたのは結構な人数に見られていたみたいで、好奇心にかられた同級生達がそれとなく仄めかして聞いてくるのが鬱陶しくて黙秘を通した。


みんな侑の見かけに釣られて噂をするけれど、実際の侑は年上には思えない甘えん坊な所がある。一人っ子のせいなのか妙に無邪気なんだ。そうかと思うと酷く大人びた一面を見せて、うっかり何も言えない空気を醸し出す。

俺はそんな侑が昔から放って置けなくて、学年が違うせいで余計にもどかしい思いをして来た。侑曰く、もし俺たちが同級生だったらきっと俺が随分世話焼きなのがみんなにバレてたよって笑ったけど、そうかもしれない。それは少し恥ずかしいな。


家に帰って風呂から上がると、丁度兄貴が遅い夕食を食べている所だった。俺は兄貴に言った。

「おかえり兄貴。なぁ圭サンって人、ウチまで来たの?侑がそんな事言ってたから。絶対圭サン、侑の事気に入ったんだろ。侑もすっかりその気で試合観に行くって楽しみにしてたぜ。結局俺も行く事になったし。」

兄貴は箸を止めると、プロテインを掻きませる俺をチラッと見て言った。

「観に来るのか。…お前も一緒なら心配ないな。」

俺は侑が箱入り息子の様に俺たちに扱われている事に可笑しく思って、ふとあの時の事を思い出した。


「…あの人ももしかして侑の保護者なのかな。」

食べながら続きを促す兄貴の眼差しに応えて続けた。

「なんか中学でさ、引退した弓道部の三年のイケメンと侑が一緒に待ち合わせしてたからさ。でもなんて言うか、侑と直前に話してた俺をどえらい目で睨むからさ。そうだ、アレって嫉妬丸出しの目つきだよ。もしかして侑の彼氏とか?ありそう!」

突然箸をテーブルに叩きつける音がして俺はビクッと肩を震わせた。兄貴が苦しげな表情で言い放った。

「憶測でものを言うなっ。…侑がそう言ってたんじゃないんだろ?」


俺は兄貴の剣幕に眉を顰めて言った。

「冗談だろ?変だぞ、兄貴。…じゃあ本当の所を侑に聞いてみるかな。俺も気になってたし。」

強張った顔で俺を見つめる兄貴にそう言うと、俺は心臓をバクバクさせて自分の部屋へと戻った。何か、俺の知らない事がやっぱりあったんだ。それはもう成長した俺にも見過ごせない事になっていた。



後になって考えれば、その時俺が侑に聞いてみようなんて思わなかったら、あるいはそう思わせたキッカケになった兄貴があんなに怒らなければ、俺たちはパンドラの匣を開けずに済んだのかもしれない。

一度開けたパンドラの匣の中の秘密は俺たちを巻き込んで人生を強引に動かしてしまったし、二度とただの幼馴染という関係には戻れなくなってしまったんだから。

それが良かったのかどうか、苦しみと喜びはどちらが多かったのか、今でも俺は正解が分からない。もっとも放っておいても運命だったのならいつかは同じ事だったのかな。














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