カワウソの僕、異世界を無双する

二重生活

久しぶりの外泊

「じゃあ、明日の夕方に迎えに来てくれる？」

僕はそう言ってケインに手を振った。これから一件予約があるけど、その後は明日の夕方まで自由だ。自分の部屋の玄関を開けながら、泊まるのは久しぶりなので必要なものは無いかキッチンを覗いた。

僕は料理が得意なわけじゃないけれど、出来ない訳でもない。カワウソ以前にやった事があるみたいだった。今夜の夕食は何処かで食べるにしても、何か買い物に行った方が良さそうだ。


明日までガブリエルが友人の貴族令息のところに招待を受けたおかげで、僕はぽっかり時間が空いたんだ。僕もついて行こうかと尋ねたら、ガブリエルは肩をすくめて言った。

「ジュニの事はあまり他人に知られない方がいいと思うよ。いつ何がどうなるのか分からないでしょ。…たまには自分の時間を過ごしておいでよ。僕も少しはジュニ離れしないといけないって思ってるから。」


僕はガブリエルがいじらしくて思わず抱き寄せて言った。

「僕のご主人様は早く大人になろうとしてるのかな。僕はもう少し一緒にすごしたいよ。」

するとガブリエルはクスクス笑って、僕を諭す様に言った。

「僕も年齢相応の振る舞いが必要な時があるんだよ。どちらかと言うと、友達のところへ行って子供の様に振る舞ってくるのさ。まぁ、お付き合いってやつだよ。貴族も大変なんだ。」


僕はやれやれと言わんばかりのガブリエルの顔を思い出して、思わず微笑むと部屋を見回した。王都に来た時は、必ず寄って時間を潰したりしているけれど、泊まるのは久しぶりだった。

僕はクローゼットの扉を開けると、アルフレッドの用意してくれた衣装に着替えた。これから会うお客さんは、子爵家の10歳の御令息だ。ガブリエルより少し年上の貴族令息はどんな感じだろうか。


少しヒラついた水色の柔らかなブラウスに、明るいグレーのパンツを合わせて、チャコールグレーのジャケットを羽織った。最近のお気に入りは片耳に垂らすクリップだ。

以前仕事に行った先の宝石商のご子息が身につけていた、色々なデザインの金のチェーンを見ていて、思いついたものを作ってもらった。カットの美しい繊細なチェーンを、クリップ加工したものを耳の軟骨に嵌めるアクセサリーだ。


出来上がったクリップチェーンを見て、宝石商は商品として売り出したいと、発案者の僕にそこそこなお礼をくれた。だから僕も宣伝を兼ねて仕事の時は必ずつける様にしている。

時々王都でも見かけるようになったから、流行り出したのかもしれない。僕は首を振って、長すぎないチェーンのキラキラを楽しむと、買い物に行くために玄関を開けた。さぁ、何を買うんだったかなぁ！