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侯爵家
アドラーとの朝食
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「聞いたぞ、エド。」
アルバートが立ち去ってから、何となく気まずい空気を醸し出しているゼインと朝食のためにこじんまりした部屋に入ると、先に座っていた大魔法師のアドラーが悪戯っぽい目つきで絵都を見た。
絵都はアドラーの言ってる事が朝のアルバートとの一幕のことなのか、それともゼインとの昨夜のことなのか、それ以外なのか分からずにギクリと身体を強張らせた。
「もう《壁》をそこそこ使える様になったらしいな。さすが魔物だ。魔力の扱いが半端ないな。ああ、ゼインから聞いたが杖が欲しいんだろう?丁度今日杖の業者が来るから、実際に見て選ぶと良い。手に馴染むものが良いからな。
代金はエドが変えた虹色魔石で賄うから好きなものを選べるぞ。ああ、そうだ。魔石の色分けも出来る様になった方がいいのか…。
護身魔法は相手から身を守る《壁》と《足止め》が最低限必要だ。《攻撃》はレベルが色々あるが、《足止め》出来れば急ぐ必要もないだろう。それは通いでも大丈夫だ。
一人や従者と二人でも外出しても危険がない様に今日はゼインから《足止め》を習うと良い。ゼイン任せたぞ。」
アドラーの話の内容にホッとしながら、絵都はゼインに微笑んだ。
「…ゼイン、今日もよろしくお願いします。」
ゼインはハッとした様子で絵都とアドラーを交互に見ると、取り繕った様子で頷いた。そんなゼインの様子をアドラーが片眉を上げてチラリと見たけれど特に何を言うわけでもなかった。
ゼインが先に朝食の部屋を出ると、ゆっくりお茶を飲んでいたアドラーがゼインの立ち去った扉を見つめながら絵都に聞くともなしに呟いた。
「ゼインの様子が変だな。エド何かあったのか?」
アドラーにそう尋ねられて、絵都は朝のアルバートとの出来事は門番にしっかり見られていたのだし、いずれ噂になるだろうと考えた。だったら尾鰭のついた噂が入る前に大魔法師であるアドラーに話しておいた方が良いだろう。
絵都が昨夜のゼインとのお試し以外について一通り話し終えると、アドラーはニヤリと笑った。
「…なるほどな。エドが一時的に元の姿に戻るというのは中々興味深い話だ。主の生気が無いと不調をきたすのは、エドがこの世界に呼ばれたと言う事と鳥籠の時間に何か関係があるのだろう。
確かにその姿のエドとアルバートが口づけしているのは、ゼインも驚いた事だろう。あいつは案外生真面目なところがあるからな。エド、その生気はアルバートでなくてはならないのか?それだと何かと不便もあるだろう?」
エドはそう言われて、ゼインが生真面目かどうかは昨夜の様子から疑問だと思いつつも、アドラーの口元を見つめた。アルバートほどでは無いけれど、ゼインよりは光って見える。
「アルバートの生気は効率が良いんです。それに僕に心地良いですし。主と魔物は何処か絆の様なものが発生してるのかもしれません。もっともアルバートが調達できない時は、少しくらいなら代用で我慢できます。
…夕方アルバートが僕に生気を与えにきてくれる様なので、何処か落ち着ける場所に入室許可をいただけますか?ここは部外者が入れないのでしょう?」
アドラーは少し考え込んでいる様子だったけれど、顔を上げてニヤリと笑った。
「ああ。ではエドの部屋に入室許可を出そう。ただし一時間だけだぞ?一応規則を曲げての事だからな。エドには機嫌良く虹色魔石をまた作って貰いたいからな。ははは。」
アドラーは何とも実際的な男だった。この柔軟さと豪快さが大魔法師になる所以なのだろうか。絵都は苦笑して言った。
「では僕も虹色魔石を積み上げた方が良さそうですね。今後も色々便宜を図って貰いやすそうですから。」
「エドは魔力を魔法に変えるコツを掴んだ様ですね。昨日より習得がずっと早いですし。《足止め》はどんな形でも良いんです。その場にあった方法に変化させるのが一番だけれど、自分がイメージしやすい方法で訓練して自由に操れる方が良いのですよ。
《足止め》は咄嗟の時に使う場合が多いからね。今のエドも、元々の姿であるエドも一番に考えられる危険は誘拐だと私は思います。魔物だと知らなくても、エドの姿はひと目を引いて人攫いに目をつけられるでしょうから。
まして魔物だと知られたら、その危険は減るどころか増すでしょう。」
そうゼインに脅されて、絵都は分かりやすく顔を顰めた。結局前の世界でも、ここ夢の中の様な異世界でも、絵都は自分の見かけに振り回される羽目になってしまっている。
絵都は目の前の訓練所の土埃を押し流す様に腕を突き出すと渦巻きの水流を巻き起こした。川の側の街に住んでいたせいで、足元を掬う水の流れの力は簡単にイメージ出来た。
「ああ、良い感じですね!エドの水魔法は完璧です。そろそろ時間です。休憩がてら杖を見に行きましょう。」
そう微笑んで踵を返すゼインの後ろをついて歩きながら、絵都は朝のあの気まずい空気が和らいだのを感じてほっと息を吐き出した。
アルバートが立ち去ってから、何となく気まずい空気を醸し出しているゼインと朝食のためにこじんまりした部屋に入ると、先に座っていた大魔法師のアドラーが悪戯っぽい目つきで絵都を見た。
絵都はアドラーの言ってる事が朝のアルバートとの一幕のことなのか、それともゼインとの昨夜のことなのか、それ以外なのか分からずにギクリと身体を強張らせた。
「もう《壁》をそこそこ使える様になったらしいな。さすが魔物だ。魔力の扱いが半端ないな。ああ、ゼインから聞いたが杖が欲しいんだろう?丁度今日杖の業者が来るから、実際に見て選ぶと良い。手に馴染むものが良いからな。
代金はエドが変えた虹色魔石で賄うから好きなものを選べるぞ。ああ、そうだ。魔石の色分けも出来る様になった方がいいのか…。
護身魔法は相手から身を守る《壁》と《足止め》が最低限必要だ。《攻撃》はレベルが色々あるが、《足止め》出来れば急ぐ必要もないだろう。それは通いでも大丈夫だ。
一人や従者と二人でも外出しても危険がない様に今日はゼインから《足止め》を習うと良い。ゼイン任せたぞ。」
アドラーの話の内容にホッとしながら、絵都はゼインに微笑んだ。
「…ゼイン、今日もよろしくお願いします。」
ゼインはハッとした様子で絵都とアドラーを交互に見ると、取り繕った様子で頷いた。そんなゼインの様子をアドラーが片眉を上げてチラリと見たけれど特に何を言うわけでもなかった。
ゼインが先に朝食の部屋を出ると、ゆっくりお茶を飲んでいたアドラーがゼインの立ち去った扉を見つめながら絵都に聞くともなしに呟いた。
「ゼインの様子が変だな。エド何かあったのか?」
アドラーにそう尋ねられて、絵都は朝のアルバートとの出来事は門番にしっかり見られていたのだし、いずれ噂になるだろうと考えた。だったら尾鰭のついた噂が入る前に大魔法師であるアドラーに話しておいた方が良いだろう。
絵都が昨夜のゼインとのお試し以外について一通り話し終えると、アドラーはニヤリと笑った。
「…なるほどな。エドが一時的に元の姿に戻るというのは中々興味深い話だ。主の生気が無いと不調をきたすのは、エドがこの世界に呼ばれたと言う事と鳥籠の時間に何か関係があるのだろう。
確かにその姿のエドとアルバートが口づけしているのは、ゼインも驚いた事だろう。あいつは案外生真面目なところがあるからな。エド、その生気はアルバートでなくてはならないのか?それだと何かと不便もあるだろう?」
エドはそう言われて、ゼインが生真面目かどうかは昨夜の様子から疑問だと思いつつも、アドラーの口元を見つめた。アルバートほどでは無いけれど、ゼインよりは光って見える。
「アルバートの生気は効率が良いんです。それに僕に心地良いですし。主と魔物は何処か絆の様なものが発生してるのかもしれません。もっともアルバートが調達できない時は、少しくらいなら代用で我慢できます。
…夕方アルバートが僕に生気を与えにきてくれる様なので、何処か落ち着ける場所に入室許可をいただけますか?ここは部外者が入れないのでしょう?」
アドラーは少し考え込んでいる様子だったけれど、顔を上げてニヤリと笑った。
「ああ。ではエドの部屋に入室許可を出そう。ただし一時間だけだぞ?一応規則を曲げての事だからな。エドには機嫌良く虹色魔石をまた作って貰いたいからな。ははは。」
アドラーは何とも実際的な男だった。この柔軟さと豪快さが大魔法師になる所以なのだろうか。絵都は苦笑して言った。
「では僕も虹色魔石を積み上げた方が良さそうですね。今後も色々便宜を図って貰いやすそうですから。」
「エドは魔力を魔法に変えるコツを掴んだ様ですね。昨日より習得がずっと早いですし。《足止め》はどんな形でも良いんです。その場にあった方法に変化させるのが一番だけれど、自分がイメージしやすい方法で訓練して自由に操れる方が良いのですよ。
《足止め》は咄嗟の時に使う場合が多いからね。今のエドも、元々の姿であるエドも一番に考えられる危険は誘拐だと私は思います。魔物だと知らなくても、エドの姿はひと目を引いて人攫いに目をつけられるでしょうから。
まして魔物だと知られたら、その危険は減るどころか増すでしょう。」
そうゼインに脅されて、絵都は分かりやすく顔を顰めた。結局前の世界でも、ここ夢の中の様な異世界でも、絵都は自分の見かけに振り回される羽目になってしまっている。
絵都は目の前の訓練所の土埃を押し流す様に腕を突き出すと渦巻きの水流を巻き起こした。川の側の街に住んでいたせいで、足元を掬う水の流れの力は簡単にイメージ出来た。
「ああ、良い感じですね!エドの水魔法は完璧です。そろそろ時間です。休憩がてら杖を見に行きましょう。」
そう微笑んで踵を返すゼインの後ろをついて歩きながら、絵都は朝のあの気まずい空気が和らいだのを感じてほっと息を吐き出した。
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