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変化

ヘンリックside研究室のリオン

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研究室の扉を開くと、いつもより沢山の視線が一斉に向けられた。

でもそれは一瞬にして気のない眼差しに変わり、私は思わず苦笑してしまった。

「今日はまだ来てないのかい?」

私が手近に居た準研究員である貴族院三年のマートルに尋ねると、彼は少し顔を赤くして言った。

「ええ、今週は今日来れると言っていたので、多分もう直ぐ来るはずですけど。」


いつもより研究室の人口密度が高いのは、皆リオンがお目当てなんだろう。

学生ならカフェで見かけたりもするだろうが、一般の研究員ではいくらここが学院の敷地内だろうが偶然会う事もほとんど無い。

そう言う私もリオンがリュードの婚約者になった今では、リュードの狭量のせいで個人的にはほとんどリオンに会えなくなった。



リオンが兄君であるリュードとタクシーム侯爵嫡男との婚約が決まったと聞いた時には、思いの外ショックを受けた。

私はどこかでリオンと絆が深いリュードには敵わないとハナから勝負を投げていたんだ。

一方のタクシーム令息はリュードの不在の間に確実にリオンの心の中に入り込んだ。

そして二人と婚約するという、貴族にとってはある意味離れ技を繰り出して二人はリオンを手に入れた。


リュードの不在になったあの時に、私は一番リオンの側にいたはずだ。

リオンの心の中に入り込む機会が目の前にぶら下がっていたと言うのに、みすみす逃してしまった。

手に入りそうにないと諦めるより、手に入れようと突き進まなくてはいけなかった。

だから後悔すると言うより、自分の不甲斐なさに落ち込んでしまったんだ。


そんな事をツラツラ考えていると扉が開いて、私が思い描く以上の眩しい笑顔でリオンは登場した。

「皆さんこんにちは。遅くなってしまって申し訳ありません。

あ、ヘンリック様お久しぶりです。カヌール地方への出張はいかがでしたか?」


リオンが登場すると研究室は俄然賑やかになって、皆がリオンと話したくて順番待ちだ。

麗しいだけでなく、リオンの考える数術的思考は革新的なものが多く、それは研究員たちのやる気を刺激する。

領地経営に伴うデータという名の過去、現在、未来への実績や収穫予想等の数字に現れる統計であったり、災害等の被害記録からの今後の確率を数字で表す予想といった、今までに無い数術的思考だ。

早いものでは、実際に利用され始めていて、効果も出ている。

リオンが教授の秘蔵っこと囁かれるのもあながち間違いではない。



深く青い瞳の中の知的好奇心の塊がキラキラと輝くのを、この研究室の人間だけがお目にかかれるのだから、この部屋の密具合もしょうがないのだ。

そして婚約が決まってからのリオンは今までの眩しいほどの麗しさと共に、直視するのが憚られるような色めいた艶やかさを纏う様になった。

邪な気持ちなど無いはずの私たち研究員でさえも、ともするとリオンを見つめ過ぎてしまうのだから困ったものだ。
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