僕が獣人？いいえ、人間です。内緒ですけど。

夏の夜

ディックside私の生徒

目の前でいつもの様に熱心に私の講義を受けるマモルは、先生冥利に尽きると思わせる。時々俯く度に、サラサラと艶のある黒髪を揺らすマモルは、今日も可愛らしい。

皇太子の夏の夜が近づいてるせいで、学園も何だか浮き足立っている。実際、夏の夜が開催されるのは、現在の王の4番目の弟君以来なのだから、15年ぶりだろう。


しかも親友のアスランは皇太子で、今の時点で決まったお相手が居ないのも大きい。全くあいつは獅子族の割に生真面目が過ぎる。大概は夏の夜前に一人や二人、妃候補が決まって居るだろうに。

4歳下の弟君、リチャード殿下の方には、噂では執着している相手が居るともっぱらの噂だ。あの掴みどころの無いリチャード殿下が執着するというのも、それはそれで意外過ぎるが…。


私がそんなことを考え込んでマモルをぼんやり見つめていたせいで、マモルが首を傾げて尋ねて来た。

「先生？これ間違っていますか？」

マモルのふとした仕草が色気を増した気がして、その指先が髪の先を弄ぶのを見つめた。私は咳払いするとマモルの勉強の進捗度に舌を巻いた。

マモルはおっとりしている様でいて、やるべき事はがむしゃらにやる。やり過ぎるほどに。そこに感心する一方で、心配な面でもあるのだ。


学園の生徒たちが噂するマモルの本質は、実はまだ表面化していないのでは無いかと、個人講義をする様になって感じるのだが…。何にせよ、マモルはあの博識なリットン伯爵を後見にしたほどの逸材には間違いない。

他獣人には、全く関心が無いリットン伯爵が16歳の少年を後見すると聞いた時、私たち伯爵に近しい学術に関わる獣人たちは、驚いた。そして瞬く間に噂が広がった。


しかもその少年は、リットン領の海で、あの幻の怪生物ヌルトンの魔の手を辛くも逃れたという噂もある。これについては王都では噂のひとつに過ぎないが、私はアボード家が動いていたと聞いているので真実だと踏んでいる。

目の前のマモルは確かに普通の少年とは違う。どこがどう違うか言えないのだが、漠然と異質さを感じるのだ。きっとこの異質さに、クラスメイトたちは皆一度はマモルに惹かれるのだろうな。


私は生真面目なアスランにマモルをひき会わせたら、さぞかし面白い事になりそうな気がした。