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親密さとは

あなたって、もしかして

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 結局、遅くなってしまった私をマンションの前まで送ってきてくれた野村さんは、立ち止まると繋いでいた手をぎゅっと握って言った。

「今日は、ありがとう。今度はさっきも話したけどドライブはどうかな。最近疲れる事が多かったって言ってたから、普段と違う場所へ遊びに行くのも気晴らしになるんじゃないかと思って。また連絡するから考えておいてくれる?…おやすみ。」

 そう言うと、私の頬に触れるか触れないかのキスをして、少し照れながらもう一度挨拶すると、手を振って立ち去った。


 私はマンションの玄関ホールのガラスドアの前で手を振りながら野村さんの後ろ姿を見送った。…野村さんて、結構な肉食じゃない?印象は子犬っぽいけど、結局ずっと手を繋がれてたし、ほっぺにチューしてきたし。

 大人の初デートならアリなのか、攻めてるのか、経験不足な私には判断できなかった。明日翼に聞いてみようと私が頬に手を当ててぼんやり考え込んでると、足音が近づいてきた。

「さっきの男は誰だ。…いや、この前一緒に居た奴だな。もしかして付き合ってるのか?」


 うわっ、出た。こんな事言うの私の知り合いでは一人しか居ない。

「橘さんには関係ないでしょ。…何か用ですか?」

 橘征一は私の顔をじっと見つめて少し迷ったそぶりを見せながら言った。

「‥先日は弟が悪いことをしたね。聞いたんだ。その事で君に言っておく事があって今日来たんだが。留守だったから、また日を改めようと思ったところだったんだ。」

 この偉そうな男はメッセージじゃなくて、わざわざ私にそれを言うために来たってことかしら。わたしは興味を引かれて橘兄の言葉を待った。


「…弟が言うには、弟は君の従姉妹とは別れようとしていたらしい。だが、捕まらなくて困ってたんだ。そんな時に事故に遭って、色んな記憶が交差してミナに会いたいという事になってたようだ。

 君に何度か会うたびに記憶が蘇ってきて、でも君が随分優しくしてくれた事に調子に乗って無理を言ってたようだ。悪かった。事情を知っていたら君に無理強いはしなかった。

 ただ、私はこんな状況でも君と知り合えた事に感謝してるんだ。君は他の女性と違って私に媚を売らないし、どっちかというと喧嘩腰だけど、君のことがどうしても気になってしまう。今日もここに来なくても用は足せたはずだけど、多分君の顔が見たくて来てしまったんだ。」


 私は少し眉を顰めて橘征一の真剣な顔を見つめて呟いていた。

「…もしかして、橘さんてストーカー?」

 橘は私の顔を豆鉄砲でも食らったような顔で見つめ返した。

「な、何を言うかと思えば!…誰がストーカーなんだ。君は馬鹿なのか!?」

 私は少し考える素振りをして、人差し指を立てて言った。

「だって、家の前で待ち伏せするとか、私と野村さんの事知ってるみたいだったし。…なんて言うのは冗談ですけど、事情を知らなかったら通報レベルですからね。」


 私は事情を知らなかった頃に、いきなりあんなキスをされた事を不意に思い出した。あれってよく考えたら通報案件だったんじゃないかな?同じことを橘も考えてた様子で、急に咳払いをすると、声のトーンを落として話し出した。

「…確かに私も行き過ぎた事は認める。だけど、今現在の私と君との関係でストーカー云々はやめてくれ。もっとふさわしい言い方があるだろう?」

 私は、橘をやり込めた事に少し気分が良くなっていた。そして大いに油断していたみたいだ。

「そうですね。私と橘さんは友達でもなければ利害関係もない、単なる知り合いレベルですよね?もう会う必要も無さそうだし。」


 私がそう言って、それこそ腰に手を当てて高飛車に高笑いでもしたい気分になってると、顰めっ面していた橘は、ニヤリと悪い顔で微笑んで私に近寄ると、不意に腰を引き寄せてささやいた。

「おかしいな。私が知ってる私と君は、一緒にタクシーで家まで帰って、酔っ払って眠り込んだ君をマンションの部屋まで運んで、ジャケットを脱がしてお世話をしたりと、単なる知り合いとは言えないんじゃないかな?そうだな、言うなれば親密過ぎる知り合い…かな?」


 私はさっきまでの良い気分は吹っ飛んで、あわあわと動揺して、甘い眼差しにすっかり囚われていた。さっきの野村さんの優しい頬のキスが、随分とお行儀の良いものに思えてきた。私は橘の顔がゆっくり近づいてきたので、目をぎゅっと瞑った。

 目の前でクスッと笑う橘に恐る恐る目を開けると、橘は悪戯っぽく笑って言った。

「キスされるかって期待した?…私たちは親密な知り合いだから、キスしても大丈夫かな?」


 そう言うと目を開けた私を色っぽく見つめながら、ゆっくりと押し付けるように口づけた。柔らかな唇は強請るように私の唇を吸って、やわやわと甘くついばまれると私は背中がゾクゾクして、もう目を開けていられなかった。強請るような舌先が唇を撫で回して、ため息をついた私の唇の隙間からそっと温かなそれが入ってきた。











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