18 / 59
親密さとは
あなたって、もしかして
しおりを挟む
結局、遅くなってしまった私をマンションの前まで送ってきてくれた野村さんは、立ち止まると繋いでいた手をぎゅっと握って言った。
「今日は、ありがとう。今度はさっきも話したけどドライブはどうかな。最近疲れる事が多かったって言ってたから、普段と違う場所へ遊びに行くのも気晴らしになるんじゃないかと思って。また連絡するから考えておいてくれる?…おやすみ。」
そう言うと、私の頬に触れるか触れないかのキスをして、少し照れながらもう一度挨拶すると、手を振って立ち去った。
私はマンションの玄関ホールのガラスドアの前で手を振りながら野村さんの後ろ姿を見送った。…野村さんて、結構な肉食じゃない?印象は子犬っぽいけど、結局ずっと手を繋がれてたし、ほっぺにチューしてきたし。
大人の初デートならアリなのか、攻めてるのか、経験不足な私には判断できなかった。明日翼に聞いてみようと私が頬に手を当ててぼんやり考え込んでると、足音が近づいてきた。
「さっきの男は誰だ。…いや、この前一緒に居た奴だな。もしかして付き合ってるのか?」
うわっ、出た。こんな事言うの私の知り合いでは一人しか居ない。
「橘さんには関係ないでしょ。…何か用ですか?」
橘征一は私の顔をじっと見つめて少し迷ったそぶりを見せながら言った。
「‥先日は弟が悪いことをしたね。聞いたんだ。その事で君に言っておく事があって今日来たんだが。留守だったから、また日を改めようと思ったところだったんだ。」
この偉そうな男はメッセージじゃなくて、わざわざ私にそれを言うために来たってことかしら。わたしは興味を引かれて橘兄の言葉を待った。
「…弟が言うには、弟は君の従姉妹とは別れようとしていたらしい。だが、捕まらなくて困ってたんだ。そんな時に事故に遭って、色んな記憶が交差してミナに会いたいという事になってたようだ。
君に何度か会うたびに記憶が蘇ってきて、でも君が随分優しくしてくれた事に調子に乗って無理を言ってたようだ。悪かった。事情を知っていたら君に無理強いはしなかった。
ただ、私はこんな状況でも君と知り合えた事に感謝してるんだ。君は他の女性と違って私に媚を売らないし、どっちかというと喧嘩腰だけど、君のことがどうしても気になってしまう。今日もここに来なくても用は足せたはずだけど、多分君の顔が見たくて来てしまったんだ。」
私は少し眉を顰めて橘征一の真剣な顔を見つめて呟いていた。
「…もしかして、橘さんてストーカー?」
橘は私の顔を豆鉄砲でも食らったような顔で見つめ返した。
「な、何を言うかと思えば!…誰がストーカーなんだ。君は馬鹿なのか!?」
私は少し考える素振りをして、人差し指を立てて言った。
「だって、家の前で待ち伏せするとか、私と野村さんの事知ってるみたいだったし。…なんて言うのは冗談ですけど、事情を知らなかったら通報レベルですからね。」
私は事情を知らなかった頃に、いきなりあんなキスをされた事を不意に思い出した。あれってよく考えたら通報案件だったんじゃないかな?同じことを橘も考えてた様子で、急に咳払いをすると、声のトーンを落として話し出した。
「…確かに私も行き過ぎた事は認める。だけど、今現在の私と君との関係でストーカー云々はやめてくれ。もっとふさわしい言い方があるだろう?」
私は、橘をやり込めた事に少し気分が良くなっていた。そして大いに油断していたみたいだ。
「そうですね。私と橘さんは友達でもなければ利害関係もない、単なる知り合いレベルですよね?もう会う必要も無さそうだし。」
私がそう言って、それこそ腰に手を当てて高飛車に高笑いでもしたい気分になってると、顰めっ面していた橘は、ニヤリと悪い顔で微笑んで私に近寄ると、不意に腰を引き寄せてささやいた。
「おかしいな。私が知ってる私と君は、一緒にタクシーで家まで帰って、酔っ払って眠り込んだ君をマンションの部屋まで運んで、ジャケットを脱がしてお世話をしたりと、単なる知り合いとは言えないんじゃないかな?そうだな、言うなれば親密過ぎる知り合い…かな?」
私はさっきまでの良い気分は吹っ飛んで、あわあわと動揺して、甘い眼差しにすっかり囚われていた。さっきの野村さんの優しい頬のキスが、随分とお行儀の良いものに思えてきた。私は橘の顔がゆっくり近づいてきたので、目をぎゅっと瞑った。
目の前でクスッと笑う橘に恐る恐る目を開けると、橘は悪戯っぽく笑って言った。
「キスされるかって期待した?…私たちは親密な知り合いだから、キスしても大丈夫かな?」
そう言うと目を開けた私を色っぽく見つめながら、ゆっくりと押し付けるように口づけた。柔らかな唇は強請るように私の唇を吸って、やわやわと甘くついばまれると私は背中がゾクゾクして、もう目を開けていられなかった。強請るような舌先が唇を撫で回して、ため息をついた私の唇の隙間からそっと温かなそれが入ってきた。
「今日は、ありがとう。今度はさっきも話したけどドライブはどうかな。最近疲れる事が多かったって言ってたから、普段と違う場所へ遊びに行くのも気晴らしになるんじゃないかと思って。また連絡するから考えておいてくれる?…おやすみ。」
そう言うと、私の頬に触れるか触れないかのキスをして、少し照れながらもう一度挨拶すると、手を振って立ち去った。
私はマンションの玄関ホールのガラスドアの前で手を振りながら野村さんの後ろ姿を見送った。…野村さんて、結構な肉食じゃない?印象は子犬っぽいけど、結局ずっと手を繋がれてたし、ほっぺにチューしてきたし。
大人の初デートならアリなのか、攻めてるのか、経験不足な私には判断できなかった。明日翼に聞いてみようと私が頬に手を当ててぼんやり考え込んでると、足音が近づいてきた。
「さっきの男は誰だ。…いや、この前一緒に居た奴だな。もしかして付き合ってるのか?」
うわっ、出た。こんな事言うの私の知り合いでは一人しか居ない。
「橘さんには関係ないでしょ。…何か用ですか?」
橘征一は私の顔をじっと見つめて少し迷ったそぶりを見せながら言った。
「‥先日は弟が悪いことをしたね。聞いたんだ。その事で君に言っておく事があって今日来たんだが。留守だったから、また日を改めようと思ったところだったんだ。」
この偉そうな男はメッセージじゃなくて、わざわざ私にそれを言うために来たってことかしら。わたしは興味を引かれて橘兄の言葉を待った。
「…弟が言うには、弟は君の従姉妹とは別れようとしていたらしい。だが、捕まらなくて困ってたんだ。そんな時に事故に遭って、色んな記憶が交差してミナに会いたいという事になってたようだ。
君に何度か会うたびに記憶が蘇ってきて、でも君が随分優しくしてくれた事に調子に乗って無理を言ってたようだ。悪かった。事情を知っていたら君に無理強いはしなかった。
ただ、私はこんな状況でも君と知り合えた事に感謝してるんだ。君は他の女性と違って私に媚を売らないし、どっちかというと喧嘩腰だけど、君のことがどうしても気になってしまう。今日もここに来なくても用は足せたはずだけど、多分君の顔が見たくて来てしまったんだ。」
私は少し眉を顰めて橘征一の真剣な顔を見つめて呟いていた。
「…もしかして、橘さんてストーカー?」
橘は私の顔を豆鉄砲でも食らったような顔で見つめ返した。
「な、何を言うかと思えば!…誰がストーカーなんだ。君は馬鹿なのか!?」
私は少し考える素振りをして、人差し指を立てて言った。
「だって、家の前で待ち伏せするとか、私と野村さんの事知ってるみたいだったし。…なんて言うのは冗談ですけど、事情を知らなかったら通報レベルですからね。」
私は事情を知らなかった頃に、いきなりあんなキスをされた事を不意に思い出した。あれってよく考えたら通報案件だったんじゃないかな?同じことを橘も考えてた様子で、急に咳払いをすると、声のトーンを落として話し出した。
「…確かに私も行き過ぎた事は認める。だけど、今現在の私と君との関係でストーカー云々はやめてくれ。もっとふさわしい言い方があるだろう?」
私は、橘をやり込めた事に少し気分が良くなっていた。そして大いに油断していたみたいだ。
「そうですね。私と橘さんは友達でもなければ利害関係もない、単なる知り合いレベルですよね?もう会う必要も無さそうだし。」
私がそう言って、それこそ腰に手を当てて高飛車に高笑いでもしたい気分になってると、顰めっ面していた橘は、ニヤリと悪い顔で微笑んで私に近寄ると、不意に腰を引き寄せてささやいた。
「おかしいな。私が知ってる私と君は、一緒にタクシーで家まで帰って、酔っ払って眠り込んだ君をマンションの部屋まで運んで、ジャケットを脱がしてお世話をしたりと、単なる知り合いとは言えないんじゃないかな?そうだな、言うなれば親密過ぎる知り合い…かな?」
私はさっきまでの良い気分は吹っ飛んで、あわあわと動揺して、甘い眼差しにすっかり囚われていた。さっきの野村さんの優しい頬のキスが、随分とお行儀の良いものに思えてきた。私は橘の顔がゆっくり近づいてきたので、目をぎゅっと瞑った。
目の前でクスッと笑う橘に恐る恐る目を開けると、橘は悪戯っぽく笑って言った。
「キスされるかって期待した?…私たちは親密な知り合いだから、キスしても大丈夫かな?」
そう言うと目を開けた私を色っぽく見つめながら、ゆっくりと押し付けるように口づけた。柔らかな唇は強請るように私の唇を吸って、やわやわと甘くついばまれると私は背中がゾクゾクして、もう目を開けていられなかった。強請るような舌先が唇を撫で回して、ため息をついた私の唇の隙間からそっと温かなそれが入ってきた。
0
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
極道に大切に飼われた、お姫様
真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。
溺愛なんてされるものではありません
彩里 咲華
恋愛
社長御曹司と噂されている超絶イケメン
平国 蓮
×
干物系女子と化している蓮の話相手
赤崎 美織
部署は違うが同じ会社で働いている二人。会社では接点がなく会うことはほとんどない。しかし偶然だけど美織と蓮は同じマンションの隣同士に住んでいた。蓮に誘われて二人は一緒にご飯を食べながら話をするようになり、蓮からある意外な悩み相談をされる。 顔良し、性格良し、誰からも慕われるそんな完璧男子の蓮の悩みとは……!?
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
可愛い上司
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
case1 先生の場合
私が助手についている、大学の教授は可愛い。
だからみんなに先生がどんなに可愛いか力説するんだけど、全然わかってもらえない。
なんで、なんだろ?
case2 課長の場合
うちの課長はいわゆるできる男って奴だ。
さらにはイケメン。
完璧すぎてたまに、同じ人間か疑いたくなる。
でもそんな彼には秘密があったのだ……。
マニアにはたまらない?
可愛い上司2タイプ。
あなたはどちらが好みですか……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる