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巻き込まれて
橘征一side悪魔の尻尾
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私は病院から送ってきた美那のマンションの近くに停めた車に乗り込みながら、彼女に出会った時のことをなぞる様に思い出していた。
このトラブルの元凶になった女に会うために、あの時は随分とイライラしながらマンションのチャイムを鳴らした。
インターホンで応答する間も無く、ドアを開けたのは随分とあでやかな印象の女だった。この派手な女が弟の尚弥を入院へ送り込むキッカケを作ったのかと、苦々しい思いが瞬時に湧き上がってきた。
目の前のミナは弟を虜にしたのも納得するほど妙に惹かれるものがあったが、それを感じた自分が馬鹿みたいに思えて、思わず憎まれ口を叩いてしまった。するといきなり怒り出したミナは、私の想像していた悪い女そのものに思えて、それが返って妙な満足感を覚えた。
ミナは知らぬ存じぬ、果てはミナだけどミナではないとシラまで切り出す始末だった。取り付く島もない様子に苛立った私はふと、ミナが扇状的な格好をしている事に気づいた。
胸元は立派な谷間がこれ見よがしに見えていたし、スカートは腿の上の方の短いものだ。肩は細い紐状であっという間に脱げて、いや脱がす事が出来そうなSMの女王様が着るような革のような素材のドレスだった。しかも背中にはコウモリのような翼がついてる。
これはコスプレというやつか?目線を下げると悪魔の尻尾まで生えてる。私は思わずその可愛い尻尾を掴んで引っ張った。
女は尻尾が千切れると慌てながら、私に急接近して見上げてきた。私はこの女の甘い香りと、思いの外真っ直ぐな眼差しに囚われて、キスしたくて堪らなくなった。
これがこの女のやり方なのかもしれない、この手に弟は引っ掛かったのだと八つ当たりに近い気持ちになって、気がつけば目の前の悪魔にキスしていた。
悪魔の唇は甘くて吸い付くようだったけれど、見かけの派手さとは真逆のでキスに慣れていない印象を感じた。私は思わず、もっと目の前の女を感じたくて、初対面にも関わらずキスを深めてしまった。
腕の中の悪魔は私が攻め立てるたびにビクビクと感じてるようで、思わず馬鹿みたいに夢中になってしまった。が、息のしかたもおぼつかない女は私の胸から逃れると、凄まじく怒って、出ていけとがなり立てた。
正直初めて会った女にいきなりキスするなんて、私自身も経験がない。普通に考えれば通報されてもおかしくはない事をしでかしてしまった。私は慌てて謝ると、この家に訪ねてきた理由と自分の名刺を考える暇も無く差し出したんだ。
結局ミナとミナミ違いの勘違いだった。しかしここまで来て手ぶらで病院へ行くわけにはいかなかった。
呼んだタクシーを道路脇で待ちながら、私は人通りの減った夜道をぼんやり眺めていた。病院でやっと目覚めてからの尚弥は、口をひらけばミナとうわごとのように呟いている。
さっき目の前に差し出された女の従姉妹という女の写真を思い出せば、なるほど尚弥の好きそうな清純タイプだ。最も中身はとんでもない軽さだったが…。
弟の女を見る目の無さに苦々しく思いながらも、私はこんな風に巻き込まれたミナの事を考えていた。
押しかけてキスまでしてしまったと言うのに、ミナミ違いのミナは弟の事情に同情してくれた様子だった。普通なら絶対してくれそうもないだろうに、彼女は諦めた様子で同行してくれると言った。
彼女のお人好しぶりには助かったけれど、少し心配になるくらいだ。
そんな事を思い返していた私の目の前に、大人しいワンピースに着替えて現れたのは、さっきとはまるで印象の違う彼女だった。流石に従姉妹のせいか、写真で見たミナミに雰囲気が似ている。
でも私の感じたあの意志の強い眼差しは、弟を簡単に捨てた従姉妹のミナミとはまるで違う。私は車中でも思わず彼女に見惚れてしまっていた。
弟への心労を同情したのか、柔らかな手を重ねてなぐさめてくれる美那は、巻き込まれただけなのに無防備で、多分根本的に優しいのだろう。エレベーターで緊張感を滲ませるその姿に思わず抱き寄せて安心させたくなったのは、私らしくない。全く。
私は自分の戸惑いを感じながら、目の前でミナミになり切って弟に優しくキスする美那を、やり過ぎなんじゃないかと少しイライラしながら見つめていた。そんな自分を感じたくなくてコーヒーを受け取りに行って戻ってくると、病室から美那が丁度出てきたところだった。
弟は眠ってしまったので、もう帰ると言う美那をまた来てくれないかと頼んだのは、弟が心配だったせいだ。実際あんなに落ち着いた弟を見て安心したのは確かだ。そう思いながらも、不承不承ながら承諾してくれた美那を何とも言えない気持ちで見つめたのだった。
私はもう一度美那のマンションの窓の明かりを見つめると、後ろ髪を引かれる思いで夜の街へ車を出発させた。
このトラブルの元凶になった女に会うために、あの時は随分とイライラしながらマンションのチャイムを鳴らした。
インターホンで応答する間も無く、ドアを開けたのは随分とあでやかな印象の女だった。この派手な女が弟の尚弥を入院へ送り込むキッカケを作ったのかと、苦々しい思いが瞬時に湧き上がってきた。
目の前のミナは弟を虜にしたのも納得するほど妙に惹かれるものがあったが、それを感じた自分が馬鹿みたいに思えて、思わず憎まれ口を叩いてしまった。するといきなり怒り出したミナは、私の想像していた悪い女そのものに思えて、それが返って妙な満足感を覚えた。
ミナは知らぬ存じぬ、果てはミナだけどミナではないとシラまで切り出す始末だった。取り付く島もない様子に苛立った私はふと、ミナが扇状的な格好をしている事に気づいた。
胸元は立派な谷間がこれ見よがしに見えていたし、スカートは腿の上の方の短いものだ。肩は細い紐状であっという間に脱げて、いや脱がす事が出来そうなSMの女王様が着るような革のような素材のドレスだった。しかも背中にはコウモリのような翼がついてる。
これはコスプレというやつか?目線を下げると悪魔の尻尾まで生えてる。私は思わずその可愛い尻尾を掴んで引っ張った。
女は尻尾が千切れると慌てながら、私に急接近して見上げてきた。私はこの女の甘い香りと、思いの外真っ直ぐな眼差しに囚われて、キスしたくて堪らなくなった。
これがこの女のやり方なのかもしれない、この手に弟は引っ掛かったのだと八つ当たりに近い気持ちになって、気がつけば目の前の悪魔にキスしていた。
悪魔の唇は甘くて吸い付くようだったけれど、見かけの派手さとは真逆のでキスに慣れていない印象を感じた。私は思わず、もっと目の前の女を感じたくて、初対面にも関わらずキスを深めてしまった。
腕の中の悪魔は私が攻め立てるたびにビクビクと感じてるようで、思わず馬鹿みたいに夢中になってしまった。が、息のしかたもおぼつかない女は私の胸から逃れると、凄まじく怒って、出ていけとがなり立てた。
正直初めて会った女にいきなりキスするなんて、私自身も経験がない。普通に考えれば通報されてもおかしくはない事をしでかしてしまった。私は慌てて謝ると、この家に訪ねてきた理由と自分の名刺を考える暇も無く差し出したんだ。
結局ミナとミナミ違いの勘違いだった。しかしここまで来て手ぶらで病院へ行くわけにはいかなかった。
呼んだタクシーを道路脇で待ちながら、私は人通りの減った夜道をぼんやり眺めていた。病院でやっと目覚めてからの尚弥は、口をひらけばミナとうわごとのように呟いている。
さっき目の前に差し出された女の従姉妹という女の写真を思い出せば、なるほど尚弥の好きそうな清純タイプだ。最も中身はとんでもない軽さだったが…。
弟の女を見る目の無さに苦々しく思いながらも、私はこんな風に巻き込まれたミナの事を考えていた。
押しかけてキスまでしてしまったと言うのに、ミナミ違いのミナは弟の事情に同情してくれた様子だった。普通なら絶対してくれそうもないだろうに、彼女は諦めた様子で同行してくれると言った。
彼女のお人好しぶりには助かったけれど、少し心配になるくらいだ。
そんな事を思い返していた私の目の前に、大人しいワンピースに着替えて現れたのは、さっきとはまるで印象の違う彼女だった。流石に従姉妹のせいか、写真で見たミナミに雰囲気が似ている。
でも私の感じたあの意志の強い眼差しは、弟を簡単に捨てた従姉妹のミナミとはまるで違う。私は車中でも思わず彼女に見惚れてしまっていた。
弟への心労を同情したのか、柔らかな手を重ねてなぐさめてくれる美那は、巻き込まれただけなのに無防備で、多分根本的に優しいのだろう。エレベーターで緊張感を滲ませるその姿に思わず抱き寄せて安心させたくなったのは、私らしくない。全く。
私は自分の戸惑いを感じながら、目の前でミナミになり切って弟に優しくキスする美那を、やり過ぎなんじゃないかと少しイライラしながら見つめていた。そんな自分を感じたくなくてコーヒーを受け取りに行って戻ってくると、病室から美那が丁度出てきたところだった。
弟は眠ってしまったので、もう帰ると言う美那をまた来てくれないかと頼んだのは、弟が心配だったせいだ。実際あんなに落ち着いた弟を見て安心したのは確かだ。そう思いながらも、不承不承ながら承諾してくれた美那を何とも言えない気持ちで見つめたのだった。
私はもう一度美那のマンションの窓の明かりを見つめると、後ろ髪を引かれる思いで夜の街へ車を出発させた。
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